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反逆の証明と、世界で一番高価な橋

「き、貴様ァァァッ!! 国家間の正式な『停戦合意書』を叩き斬るなど、前代未聞の反逆だぞ!!」


王都・軍需省。

鼓膜が破れんばかりの怒声が、執務室に響き渡った。

怒り狂って唾を飛ばしているのは、王国軍の最高幹部である軍務大臣その人だ。


「せっかく東方帝国が譲歩してくれたというのに! 先方から『おたくの監査官が使者を斬り捨てた』と猛抗議が来ている! 貴様、自分が何をしたか分かっているのか!」

「ええ。ゴミの処理と、資源の回収です。それが『反逆の証明』になるというなら、構いません。国が生き残れば、後でいくらでも正義に書き換えられますから」


俺はデスクから立ち上がり、《解析簿記》で可視化された最新の戦況図を大臣の顔面に突きつけた。


「よく見てください。あんたたちが平和ボケのシャンパンを開けていたこの数時間で、黒嶺要塞の帝国軍3万が全軍出撃(フル稼働)しています」

「なっ……!?」


「停戦は、燃料が切れた敵が補給を待つための嘘だ。彼らは今日、王都へ向けて進軍を再開した。目標は『裂け海運河』。今夜、強引に運河に橋を架け、王都側へ3万の兵をなだれ込ませる気です」


軍務大臣の顔面から、怒りの赤が一瞬にして消え失せ、絶望の土気色へと変わった。


「さ、3万だと……!? 終わりだ! 運河を越えられたら、王都は数日で火の海に……っ!」

「だから、『越えさせる』んです」


俺は赤ペンを手に取り、戦況図の裂け海運河に大きな「✖」を描いた。


「敵の燃料はすでに底を突いている。運河を越えた先には補給など一切ない。王都に届く前に、進めば進むほど彼らは砂漠で干からびて自滅する。そして敵の主力が渡り切った直後——俺たちが『敵の背後(帝国側)』へ逆渡河し、空っぽになった敵の補給線を根元から完全に切断する」


通信魔導器の向こうで聞いていたレオナが、鋭い声で口を挟む。


『ユージン、理屈は分かるが運河に橋はない! 開戦初日に私たちがすべて爆破した!』

「あるさ。俺のナワバリ(悪魔の領地)の、第4倉庫の中にな」

『……なんだって?』


「開戦の朝、俺があの豚局長に無理やりハンコを押させた『緊急災害時・物資動員特例』。あの時、俺は燃料と一緒に、軍用規格に転用可能な『治水用・仮設橋梁モジュール』を全量買い占めておいた。おまけに、民間工兵ギルドの夜間施工班も丸抱えで待機させてある」


俺の言葉に、執務室の空気が凍りついた。

軍務大臣が、幽霊でも見るような目で俺を後ずさった。


「治水工事用……だと? まさかお前、開戦の初日からこの『逆渡河作戦』を計算して……!?」

「監査官の特例権限サイン一つで即日納品できるからな。激流に耐える特殊魔導合金、結界固定杭、そして民間ギルドへの莫大な夜間特急報酬。総製作費は、王国の最新鋭重巡洋艦『3隻分』だ」


『じゅ、重巡3隻分!? お前、そんな天文学的な請求書をどうやって……!』

「災害特例の『国家緊急支出・事後精算条項』に、軍需省の支払保証印をすでに押してある。後で全額『国』に払ってもらう。払えなければ国庫は破産だ」


俺は悪びれもせず、戦況図を指差した。


「国が破産するか。帝国軍3万を砂漠で飢え死にさせるか。——さあ、世界で一番高価な橋を架ける時間だ。レオナ、準備はいいか」


『——っ! あっはははは! お前という奴は!!』


通信の向こうで、レオナが腹を抱えて爆笑する音が響いた。だが、その声には確かな「死線の覚悟」が混じっている。


『最高だ! だが、夜間架橋の最中に敵に見つかれば、工兵ごと私たちは蜂の巣だ。命懸けの土木工事になるぞ。……上等だ、そのバカ高い請求書、帝国の喉元に深々と突き立ててやる!!』


***


――同時刻。東方帝国軍・前線移動司令部。


重魔導機甲の揺れの中で、情報将校ザイードは沈黙していた。

手元には、通信が途絶した「特A級指定文書(魔導石)」の破片。


「情報将校殿。我が軍3万は、予定通り『裂け海運河』へ到達します。強行渡河の準備は整っております」

「あぁ。だが、全軍に警戒を伝達しろ。敵は正面にはいない。私たちの『背後』を狙ってくる可能性がある」


「背後? 馬鹿な、我々の背後は運河と砂漠しかありませんぞ?」

「それが怖いのだ。あの男の計算は、常に我々の『常識の死角コスト』を突いてくる」


ザイードは地図上の「裂け海運河」を睨みつけ、冷たい声で命じた。


「夜間照明魔法弾の準備を急がせろ。運河の死角をすべて潰す。工兵の影一つでも見逃すな。絶対に、背後(こちら側)へは渡らせない」


帝国の武力か。王国の異常な兵站か。

国家の命運を懸けた、泥と数字にまみれた夜間架橋の幕が上がろうとしていた。

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