056 新たなパートナー
「まず始めに、この世界にはもともとあなたたちの言うところのモンスターは存在しませんでした。種族間でのいざこざは多少なりともありましたが、いたって平和な世界でした。」
狼はまるでその時の情景を思い出すかのように語りはじめる。
「だけど今から50年ほど前に魔界と呼ばれるところから来た魔王によりその日々は終わりを告げました。」
そう語る狼の目には哀惜の情のようなものが浮かぶ。
「魔王とその腹心の部下の八つの……いえ、今は七つの大罪でしたね。七つの大罪はこの世界にいた生物をモンスターに変えてしまいました。ちなみにその被害はところによってまちまちで、特になにもしてないところもあれば、街の住人を全てモンスターに変えられてしまったところもあると聞いています。」
ちょっと待て、七つの大罪の前に別のなにかがあったのか?八つのといってるし、枢要罪あたりが妥当なところか。
「当然人類はそれに抗戦しました。ですが、魔王達の力は強力で徐々に押されはじめ、今では街の外にはモンスターが跋扈してるようになりました。」
狼はそこまで言うと、俺に向かって頭を下げた。
「これ以上魔王の行いを黙って見てるわけにはいきません。どうか私に変わり魔王を倒してくれないでしょうか?」
そして、狼は俺にそうお願いした。
狼の話しを聞いた正直な感想としては、非常に陳腐だというものだ。
魔王が世界に現れて破壊なり支配なりをしようとしてるから、魔王を倒す。これまでにもゲームのみならず様々なメディアの様々な作品で使いまわされてきた展開だ。
だがこのゲームは今までとは違う。今までは画面の向こう側での出来事であり、どこか人事のように感じた。
だが、このゲームはVRであり、これまでとはリアリティは比べるべくもない。陳腐な展開でも、これまでとは感じ方が違う。むしろ王道だからこそこれまでとの違いがはっきりと認識できた。
よって俺はこの狼の願いを聞いてあげようと思い、そして視界に表示されたはい、いいえの選択肢のいいえ(・・・)を選択した。
……あ、ミスポチしちまった。
俺はそう思うがもう遅く、イベントは進行する。
「ではあなたは魔王を倒さないというのですか?」
狼はそう問い掛けてきて、また視界にはい、いいえの選択肢が表示される。
今度はミスポチしないように気をつけながらいいえを選択する。
「ではあなたは魔王を倒してくれるのですね?」
三度表示される選択肢のうちはいを選択する。
「魔王と戦ってくれるのですね?それでしたら私からも一つ餞別を授けましょう。少し待っててください。」
そういうと狼は奥へと行く。
餞ってやつだろうか?さて、なにをくれるやら。少し楽しみだな。
少しすると狼は戻ってきた。
だが、その姿は奥に行く前と特になにも変わらない。足元に子犬、いや、子狼がいることを除けばだが。
「お待たせしました。あなたにはこの子を連れていってもらいます。」
そして狼が言ったその言葉に俺は驚愕した。
「この子は私の子供です。まだ幼く戦闘能力は低いですが、必ずあなたの旅の役に立つと思います。それにこの子に外の世界を見せてあげたいというのもあります。どうかこの子を連れていってくれないでしょうか?」
ちょっと待て、俺はテイマーじゃなくて忍者だぞ。何でこんなイベントが発生してるんだ?
それに子狼なんて貰っても扱いに困るんだがな。まあ忍犬みたいなものだと思うとするか。
俺ははい、いいえのうちはいを選択する。
「連れていってくれるのですか!それでしたらこの子に名前を付けてあげてください。」
狼が嬉しそうにそういうと、視界にホロキーボードが現れた。これで名前を付けろってか。
さて、どうしたものか、俺こういうのは苦手何だよな。
うーん、ポチだといくら何でもシンプル過ぎるよな。
じゃあハチは?ポチとたいして変わらないか……
ならタマは?猫の名前だな……
そうやってうんうんと悩んでいると、ふと昔読んだある漫画を思い出した。
タイトルは覚えてないが、それに出てきた犬の名前が何だったか、確か獅子丸だったな。
我ながらどうかと思うネーミングセンスだが、他にいいのも思いつかないし、これにするか。
俺はホロキーボードで獅子丸と入力する。
「この子の名前は獅子丸でいいんですね?」
狼がそう確認の台詞を言うので、俺ははいを選択するとともに肯んじる。
「獅子丸ですか。いい名前ですね。獅子丸はあなたを見て育ちます。あなたの行動を真似し、あなたの台詞を真似し、あなたの戦いを真似します。獅子丸がどう育つかはあなた次第です。この子がこれからのあなたのパートナーです。」
狼がそう言うと、近くにいた子狼……獅子丸が俺の元へと来て、擦り寄って来る。ちなみにだが獅子丸の大きさは、俺の膝よりも少し下くらいだ。
そうしてるとふと視界にパーティー申請のメッセージが表示される。それは、獅子丸からのものだ。どうやら俺と獅子丸はパーティーという扱いになるようだ。これはこれでパーティーを組める人数が減って少し困るな。まあソロプレイヤーの俺には関係ないことか。狼がどうやってメッセージを送ったんだという点はスルーする。
俺はそれを許可する。
「ここを進むと洞窟から出ることができます。あなたのこれからの旅の無事を祈ってます。」
俺が申請を許可すると同時に狼が奥に鼻を向けてそう言ったので、俺は獅子丸とともに奥へと向かう。
そうして俺は新たなパートナーとともに洞窟を出たのであった。
海月が昔読んだ漫画というのは、言わなくても分かると思います。




