後日譚5(白の王国その後)
難産だったアギトのスピンオフ連載が終わりました。
※スピンオフは活動報告に4話連載してます。
やっと、後日譚5が公開出来ました。
白の王国は、雪と氷に閉ざされた静謐な都だった。
空気は張り詰め、吐く息が白く煙るたび、ルドは思わず身震いした。
前回と同じく転移門を使って、白の王国へ入ると
雪がちらついていた。確かに季節は冬だ。
しかし、常春の上空の白の王国が一面、銀世界であると、誰が想像するだろうか。
「……寒い」
子どものような声が漏れる。だが隣のアギトは表情一つ変えない。
その無骨さに腹立ち半分、頼もしさ半分――ルドの胸中は複雑だった。
城門をくぐると、白の魔王の宮廷からの使者が迎えに出る。
彼らの服装は一様に白銀で、まるで雪に溶ける影のようだ。
礼儀正しく深く頭を下げると、低い声で告げられた。
「ようこそ、白の王国へ。魔王陛下がお待ちです」
ルドは息をのむ。白の王国で初めて見た魔王以外の魔族に気圧される。
――魔王でなくとも、空気そのものが「強者」の存在を示していた。
白の魔王ダリウスは、静かに瞳を閉じた。
その瞬間、玉座の間に圧が走る。空気が震え、重力そのものがねじれるかのような感覚に、ルドは思わず膝をつきそうになった。
「……ようやく戻ったか」
玉座に居るのは以前の子供の姿の魔王ではなかった。
雪のような白髪が背まで流れ落ち、紅玉のごとき瞳が鋭く輝く。
その姿は、恐怖というよりもはや「崇高」と呼ぶべきものだった。
「……っ!」
息を呑むルドを、ダリウスはじっと見つめた。
その紅の瞳に、ほんのわずかだが――愉悦にも似た光が宿る。
「面白い。幾千の人間を見たが、こういう目は久しい。」」
ぽつりと落とされた言葉に、ルドの背筋が凍り付く。
「他の者なら、この場で泣き崩れるか、我から目を逸らすだろう。……だが、お前は違う。恐れながらもなお、理解しようとする眼をしている」
ゆっくりと玉座から立ち上がり、歩み寄る。
その距離が近づくたびに、ルドの心臓は破裂しそうになる。
ルドの背筋に冷たい震えが走る。白の魔王ダリウスの瞳は、深淵をたたえていた。その威圧感は、いかなる言葉も容易に届かぬ壁のようで、アギトが傍に立っていても心の奥底まで届く。
「アギトに飽いたら、来るがよい。囲ってやろう。」
その声は脅迫にも祝福にも似て、ルドは思わず息を呑む。寒気をまとった静寂の中、アギトが前に立つ。
「こいつは俺のものだ。手を出すな」
ルドはアギトの剣幕に安堵しつつ、魔王の静かな視線が自分にも向けられていることを感じ、身を小さくする。ダリウスの小さな口元に、微かに笑みが浮かんだのを、ルドは見逃さなかった。あの笑みは、狩人が興味を抱いた獲物を前にしたときのものに似ている。
「聖女を斃してくれた礼に、我が王城への滞在を許そう。客人としてもてなせ」
言葉と同時に、魔族の使用人たちが姿を現す。ルドとアギトは誘われるまま、以前泊まった客室へ通される。窓際の猫足ソファに腰を下ろし、ルドは不安げにアギトを見やる。
「……ねぇ、さっきのって、もしかして俺、口説かれた?」
ルドが半ば冗談めかして笑うと、
アギトは無言で眉を寄せ、そのままルドの唇を奪った。
「……アギト?」
「だとしたら、ダリウスに靡くのか?」
低い声が耳の奥に残る。
ルドが目をぱちぱちさせると、アギトはようやく顔を離し、
肩をすくめてそっぽを向いた。
「いや、そんなわけないけどさ……アギト、もしかして魔王様と知り合い?」
「遠い昔にな」
「嘘!アギトと俺そんな年変わんないじゃん!」
アギトにしては珍しく歯切れが悪い。
その沈黙に、ルドの好奇心がむくむくと膨らむ。
「その……怒らないと約束するなら、話す」
「そんな言い方されたら、余計気になるんだけど」
ルドは上目遣いでアギトを覗き込む。
まるで“最終兵器”を自覚しているかのように。
「知りたい。でも、怒らないとは約束できない。……それでも教えて?」
アギトは短く息を呑んだ。
逡巡の末、観念したように口を開く。
「黒曜を継承した時、代々の呪術師の記憶を受け継ぐ。
……魔王に会ったのは、先代の呪術師だ。」
「へぇ……え、ちょっと待って、それって何の話?」
アギトは目を逸らし、ぼそりと告げた。
「……男同士での経験だ」
「――は!?」
ルドはクッションを抱えたまま飛び退く。
その様子に、アギトは小さくため息をつき、頭をかいた。
冷静を装う仕草が、妙に照れくさそうでおかしい。
「そういえば、経験はないって言ってた……ような?」
「この身体では、な」
「えっ!!!!ま、まさか魔王さまと!?」
「まさか。……たぶんな」
「たぶん!?」
「別人格の記憶だ。ぼやけていて、誰なのかはわからん。」
「ふぅん……?」
ルドは複雑な顔をしたまま、アギトをじっと見つめた。
「だから言いたくなかったんだ……ダリウスめ」
アギトは魔王の名を、珍しく感情を込めて吐き捨てた。
(魔王様を名前で呼ぶなんて……やっぱり、ただの知り合いじゃない)
けれど――
ルドの胸に浮かんだのは、嫉妬よりも小さな優越感だった。
「……まあ、いいや。気にしない」
ルドはにっこり笑って、アギトの頬にそっとキスをした。
アギトが息を呑むのが分かる。
その反応に満足しながら、ルドは軽く囁いた。
「ほら、今のは“今の俺たちの記憶”だから」
アギトの瞳が、一瞬だけ柔らかく緩んだ。
――後日、
アギトが“前の記憶による夜の技術”を披露して大喧嘩するのだが、
それはまた別の機会に。
この後は特に展開もないので、一旦完結です。
また二人をイチャつかせたくなったら、投稿します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




