表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第四十五章 虹色の石
269/275

ⅩLⅤー3 光の舞――〈絵の森〉が欠ける理由

■銀麗月と聖香華

――虹色の石が発する音は、彪吾にとって危険だ。


 出張を取りやめることはできない。レオンは、彪吾をルキアに連れて行くことにした。

 大学は休暇に入り、授業はない。ルキアでは、アユ夫人の館に預けるよう手配した。一カ月、レオンはずっと彪吾を手元に置くだろう。


(まったく過保護すぎるだろ……!)

 リトと同じくサキも呆れたが、当の彪吾は大喜びでついていった。レオンとファウン皇帝――二人の聖香華に守られる。アリエル・コムも手は出せまい。


 だが、レオンが彪吾とともにカトマールに向かったのは、それだけが理由ではない。レオンは銀麗月カイからある重大な情報を得ていた。


――聖香華の力が必要です。


■図面の謎解き

 櫻館のロビー。

「よかったの。アイリが元にもどったようじゃな」

 ばあちゃんが安堵したように茶をすすった。


 アイリは、ツネさん特製の夕食に大満足していた。熱々のまろやかなクリームシチューに焼き立てのパン。温野菜盛り合わせとデザートセット。そばで風子がうれしそうにアイリを眺めている。

(やっぱり、アイリはこうでなくっちゃ!)


 オロも顔を出している。うらやましそうにアイリを見ていると思ったら、スッと指が伸び、パンを一切れ掴んだ。


 パシッ!


 アイリがオロの手首を叩き、パンをサッと取り上げた。

「一個くらいいいじゃないかよ!」

「ダメだ! これはあたしのもんだ!」


 アイリはこれみよがしにオロの目の前でさもうまそうにシチューの鶏肉を口に運ぶ。

――ううっ!

 声にならない声が、オロの口から洩れる。


 ツネさんが皿を運んできた。

「さあさあ、みなさんも召し上がりますか? 今夜は特別ですよ。アイリさんの回復祝いですからね」

「うわあっ!」

 全員が飛びついた。晩御飯はちゃんと食べたものの、アイリの食いっぷりを見ているだけで腹の虫が鳴っていたからだ。

 結局、全員に一人前ずつ並べられた。


 デザートを食べ終わったころだった。アイリが思わず咳き込んだ。

「なんだって? 木兎の朱い目から映像が出ただと?」

「うん。オロによると、ラクル地下都市の設計図じゃないかって」

「なにいっ!」


 アイリは、デザートのアイスクリームにスプーンを差し込んだばかりのオロの首根っこを捕まえ、引き摺るように虹色の石を置いた部屋に入っていった。この部屋では、壁にパソコン画面を映し出すことができる。


 オロが口にする数字や記号を、アイリが図面に落とし込む。オロが描いた稚拙な絵とは似ても似つかない精密な図面が出来上がっていく。

 みながほうっと見とれた。オロの記憶力もすごいが、アイリの解像度はほとんど神業だ。

 三十分もしないうちに一枚目が完成した。二枚目はもっと早く仕上がった。


 プリントアウトされた図面をカイたちが検証する。

「たしかに、あのときに見た地下都市の平面図と立面図のようだな」とカイ。

「うん。オレとカイはここから入って、おそらくこの大きな建物の一階に着いたはずだ」とリト。

「彪吾が囚われていたのは、おそらくこの区画じゃな」と、ばあちゃんが指さした。


■疑念

――地下都市って何だ?

 ディーンは話について行けない。部屋の隅でポツンと佇む彼に近寄り、風子が説明した――ディーンは、もう仲間だ。


 驚きに身が硬くなる。

(ラクルの北に絹の里……そこまでは知っている。だけど、その地下に都市?……エリナ副大統領でさえ知らないはずだ)


 ディーンは眉をひそめた。

(そんな秘密都市の機密情報が、なぜ、あの木兎の目に?)


 木兎は、火の谷に生える特殊な木を削ったものだとか。アイリにとって宝物らしい。家族か一族のだれかがアイリに持たせたのだろう。

 

――マキ・ロウ?

 

 地下都市を見つけたとき、マキ・ロウはたしかに地質学の知識を提供した。だが、地下都市の存在は知らなかったという。

 火の谷の一族のはずもない。古来、あの一族はほとんど村を動かない。


 ディーンは、一つの予感に思わずブルリと震えた。


――まさか……サアム・リエンスキー?


 父サアムは、ラクル地下都市を知っていたのか?

 とすれば、なぜ?

 父と絹の里にはいったいどんな関わりがある?


 ディーンは、アイリの後姿を見つめた。

 言い合いをしながら、オロと一緒に入力作業に熱中している。二人とも休むこともなく、図面の描き起こしに夢中だ。ゲームのように楽しいらしい。


 夜が更け、次々と図面が完成した。

 三枚目からは各区画の詳細図だ。センター、軍事区画、緑地区画、生活区画、そして研究区画。八枚目は交通・エネルギー網、九枚目は上下水道などのライフライン。最後の十枚目は何かの地図だった。


「さあ、寝るぞ!」

 アイリは大きく伸びをしてモモを抱き上げ、自分の部屋に戻っていく。風子があわてて後を追った。それを合図に、みんな自室に姿を消した。

 部屋に残ったのは、カイ、リト、ディーンの三人だけ。


 ディーンは地図を睨んでいた。他の図面やデータが詳細なのに、地図のみあまりにラフだ。南北の方位もわからねば、記号が意味するものもわからない。


「わざと書かれていないのか……?」

 ディーンのつぶやきを拾い、

「書かれていないことを読み解けってことだよね?」とリトがカイを見た。

「おそらく……」


 あの『天月秘録』では、行間こそが重要だった。この地図も余白を読み解く必要があるのではないか?


「しばらく休もう」とカイがリトに告げ、リトも頷いた。

 そんな二人を見るディーンの胸がチクチクと痛む。


 あの北の湿地帯で自分だけを見てくれたリトは、ここにはいない。


■光の舞

(リト、あとで部屋を訪ねてもよいか? 少し相談したいことがある)

 カイがリトに思念で伝えた。


 リトはいそいそと部屋を整えた。湯を沸かし、茶器を揃える。なんとなく足が地に着かない。

 カイが入ってきた。一冊の書物を手にしている。


「あれ? 『天月秘録』……いいの? 禁書室から持ち出して」

「……あまりよくない」

 カイはわずかに目を逸らせた。いたずらがバレた子どものようだ。


 そんなカイがリトは大好きだ。リトの前では、天月至宝の銀麗月がただの青年になる。

「何なの? 相談って」

 カイは、『秘録』を広げ、あるページを指さした。

「ここを読んでみろ」


――古代に玄武が保持したと伝わる秘宝。

 その秘宝から放たれた光は舞い上がるように絡み合いながら立ち上る。〈光の舞〉だ。〈光の舞〉が現れるのは、最高の〈月の一族〉を迎えたときのみ。


「最高の〈月の一族〉? でも、レオンさんは彪吾さんを連れて昨日から出張中だよ」

「レオン叔父ではない」

「じゃ、だれ?」

 リトは首を傾げたが、しだいに青ざめた。


「まさか……リク?」

「うむ。可能性が高い」

「〈月の一族〉の異能を発揮したら、リクは倒れるんだろ? でも、今日のリクは元気だったよ」

「倒れなかった――つまり、いつもとは違った」


「リクがアイリを癒したってこと?」

「そばに風子さんもいた」


 リトは言葉を失った。

 〈月の一族〉の最高度の異能――〈甦り〉。


「リクが聖香華に近いってこと? でも、どうして?」

「リクさんの母親の血筋だろう……」

「リクはセイばあちゃんの曾孫だけど、おかしいな。セイばあちゃんは人を甦らせる力は自分にはないって……」

「……うむ」

 カイの声が揺れた。


「リクさんの力が完全に目覚めたとすれば、結界が解けたということ。周囲が……動き出す」

「どういう意味?」

「風子さんが言っていただろう? 〈絵の森〉でリクさんを見かけたと」

「うん! 森の長が、森の修復を図れとオレたちを洞窟に放り出した」


「〈絵の森〉で長が描いた絵に生命を与える――リクさんの力は〈森〉に閉ざされていた。その引き換えに、こちらの世界では力も表情も失ってしまった」

 リトは頷いた。


 カイの言葉は次第に重くなる。

「だが、森で風子さんに〈リク〉という名を与えられ、自我を持つようになった瞬間、森にほころびが出るようになった。森が欠けた原因はリクさんの覚醒だ」

「じゃあ、森は?」

「リクさんを失えば、消滅する……」


 リトの喉がゴクリと鳴った。


「森の長は、リクを取り戻そうとする?」

「その恐れが高い……しかも永遠に森に閉じ込めようとするだろう」


 カイはリトをまっすぐ見つめた。


「それは……この世界での〈死〉にほかならない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ