ⅩLⅤー1 虹色の石がつなぐ謎――三つの石の違いは何を語る?
■櫻館
「みんな、よかったねえ! リクちゃんも無事でなによりだ!」
彪吾が満面の笑みで出迎えた。
アリエル・コムに拉致されて衰弱していた彪吾は、レオンとツネさんの献身的な看護でようやく回復した。むしろ後遺症が残ったのはレオンの方だ。彪吾の姿が少しでも見えなくなると青ざめて探し回る。これ幸いとばかり、彪吾は人前でもレオンに堂々と甘えるようになった。
もう慣れ過ぎて、誰も驚かない。
全員がなんとか無事帰還したものの、十五歳チームの様子がどこかおかしい。
元気なのは、シュウくらいだ。風子は珍しく沈み、アイリは疲れ切っている。オロはふてくされたままだ。〈森〉から戻ったリトが、カイやディーンと銀麗月館にとどまっているせいだろう。リクの表情がいつもよりわずかに明るいのが救いだ。
「いったい何があったの?」
彪吾がサキにそっと尋ねる。
「まあ、いろいろとね。なかなかハードだったよ。そのうち、あんたとレオンさんにまとめて話す。カイ修士とリトが戻らない理由は、わたしにもわからん」
■虹色の石
「これが……玄武の秘宝ですか」
三人の前で、小さな石が虹色の光を放っていた。
「ヘビによると、全部で三つあったらしい。玄武が持っていた一番立派な石は追放刑のときにルナ古王国の王に奪われ、もう一つは五十年前にカトマール将軍に持っていかれたんだって。三つめはいつかわからないけど行方不明になったって。村に残されてたのが、これらのうちのどれかはわかんない」
「三個というのは何か意味があるのだろうか?」
カイの問いに、玄武ディーンも答えられない。
虹色の石は、銀麗月館で保管することになった。だが、その前に成分を調べねばなるまい。危険物であっては困る。
どれほど高度な異能者でも、石の組成分析はできない。ここはやはりアイリに頼むしかない。
三人は櫻館に飛んだ。
「これは、これは、お揃いで!」
キュロスがうれしそうに三人を客室に案内する。銀麗月館でのぎくしゃくした空気を気にしていたのだ。
だが、アイリは露骨に不機嫌な視線を向けた。カイとリトはともかく、ディーンがいるのが気に入らないらしい。
アイリの反応にいちいち構ってはいられない。リトは、アイリの目の前にデンと石を置いた。
アイリの目が大きく見開かれる。
――虹色の石!
火の谷の洞窟で見たメモに記されていた石――まさか、ここにも……?
幼い頃、ルキアの学校帰りに声をかけてくれたおばさんが言っていた。
「虹色の小石はあるよ。いつか見せてあげる」
あのおばさん――マキ・ロウ。地質学と鉱物学の専門家だ。だが、今は頼りたくない。
(見てろ! あたし一人で虹色の石の秘密を暴いてやる!)
アイリが分析している間、三人は別室で待機した。
奇妙な沈黙が支配する。
カイは、〈森〉で何があったか聞かない。リトも話さない。ディーンが口を開くはずもない。キュロスが運び込んだ茶菓子にすら、誰も手をつけなかった。
一方、十五歳チームは落ち着かない。また、大人たちが勝手に秘密を作っている。
「どう?」
風子がオロに尋ねた。パソコンを睨みながら、オロが答えた。
「まだだ。結果は届いていない」
危険かもしれない――そんな言葉は、抑制になどなりゃしない。好奇心を煽るだけだった。
ついに、スパイごっこが始まった。
オロは、アカテン二号を三人が待つ客室に飛ばした。アイリの部屋には隙間はない。侵入不可だ。だが、客室なら隠れる場所が多い。
風子、シュウ、リクまでが、オロのパソコン映像に釘付けになった。
■石の正体
アイリが部屋に入ってきた。神妙な顔つきだ。
「どうだ! 何かわかったか?」
リトが真っ先に聞く。アイリはフンッと顎を逸らせた。
「危険なものじゃないだろうな? 例えば、放射性物質とか……」
「まあ、その一種だな」
「えっ?」
「驚くなよ。人体を作る炭素だって、カリウムだって放射性物質なんだぞ。容量が低いから、危険じゃない」
「じゃ、これも?」
「いや……わからん」
「わからんって……おまえでも?」
「フンッ。頼んでおいて、その態度はなんだ!」
ディーンは笑いをこらえて震えていた。
(この子はさすがだ。リトが振り回されている)
「ルナ石板と一緒だ。地球外成分だ」
「えええっ!」
「ただし、石板とは違う成分。光を当てると発光する。きれいな虹色だ」
カイもディーンも絶句した。
「見てろ!」
アイリがライトをかざす。
光を調整すると、石の輝きが突然強まり、虹色の光が四方に広がった。
さらに光を変えると、石は輝くような緋色に変わった。
「こ……これは?」
「そうだ。この虹色の石は緋色の石だ」
リトたちがあっけに取られている。
「もっとあるぞ」
アイリがもつ光源にあわせて、緋色から緑、青そして紫へ――石は七色に変化した。
オロたちの部屋では、十五歳チームが絶句していた。
――七つの色に変わる石……?
■点がつながる
「虹色の石は三つあると言ったな?」
「うん」
「一つは、隣のじいさんのところにある。大学時代の知り合いから送られてきたと言ってた。借りてこい」(⇒第三十三章)
「えっ? あの虹色の小石? でも、見た目が違うよ」とリト。
「そうだ。あの石は虹色の縞模様がうっすらと入っていたが、光は出さなかった。組成が少し違うが、基本は一緒だ」
「あれは……メイ大叔母が教授に送った石。消印はラクルだった……」
パソコンの前でオロたちが騒ぎ始めた。とんでもないものが揃い始めた!
「もう一つはマキ・ロウに聞け!」とアイリ。
「昔言ってた――虹色の石は実在する、と。ルナ神殿の秘密にも関わるはずだ」
天月の森――玄武――〈冷たき森〉――北の湿地帯――ディーンの祖母――リトの大叔母――ラクル――マキ・ロウ――ルナ神殿。
点が線になり始めた。
■石の音
櫻館に呼び出されたマキ・ロウは絶句した。
虹色の石が二つ、テーブルに並んでいる。アイリの分析結果も添えられていた。
「石はあと一つあるはずだ。何か知らないか?」
マキは首から下げていた袋を外し、小さな石を取り出した。平たく、丸い形――一見、平凡な小石だ。だが、影が虹色に揺れている。石を通った光が虹色のプリズムに分かれた。
第一の石――石が虹色の光を発し、石自体の色が七色に変化する――北の大地で見つかった。
第二の石――虹色の縞模様をとどめる――ラクルからルキアに送られた。
第三の石――通った光を虹色のプリズムに変える――火の山でマキが見つけた。
三者三様だった。だが、いずれも地球外成分を含む。その成分量と種類が最も多いのは、第一の石だった。
「虹色の石はルナ古王国の時代から存在したようだ。どう説明する?」
アイリが挑むようにマキ・ロウに問う。
一瞬だけアイリを見て、マキ・ロウは静かに言った。
「可能性は二つ。地球のどこかに未知の鉱物があるか、あるいは他の天体からもたらされたか。後者は、現代科学では説明できません」
場に緊張が走った――まるでSFじゃないか。
「ルナ神話と照らし合わせると、三つの石それぞれの役割が違うようです」
「第一の石には癒し効果があるようです。赤外線治療や紫外線殺菌の類です。磁気作用も持つようです。それ以上の力があるかどうかは、詳しく調べないとわかりません。むしろ、アオミ先生に教えていただいたほうがよいでしょう」
「第三の石には水を清浄にする効果があります。わたしも何度もこの石を使い、谷の水を飲み水に変えました。さらに、異世界の声に微妙に反応するようです。ですが、第二の石の効果はわかりません」
「ふうん。こいつら、結構役に立つんだな」
アイリはそう言いながら、指でひとつひとつを弾いた。
その瞬間、全員が耳を抑えてしゃがみ込んだ。頭の中で、得体の知れぬ音が渦を巻く。
「な……なんだ?」
第二の石を弾いたときだった。もう一度確かめようとしたアイリの指をリトが掴む。
「ダメだッ! 危険な音かもしれない!」
オロはポカンとしている。
「音? 何か音がしたの?」
風子が叫ぶ。
「アリエル・コムの音楽と同じだよ! オロやグリちゃんには聞こえないけど、ほら、モモはこんなに興奮してる!」
案の定、彪吾が倒れかけていた。音に敏感なのだ。レオンが彪吾を抱きかかえるように肩を引き寄せた。
「音……ですか。これはラクルのメイさんからクム・タン教授に送られてきた石……その後、メイさんは日本に戻り、男の子を産んで亡くなった……」
カイハそのまま瞑想のような沈黙に沈んだ。




