表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第四十三章 璃空(リク)の物語
253/273

ⅩLⅢー1 園と森の秘密――〈閉ざされた園〉で出会った黒い子狐

■岩戸の向こう

 リトもディーンも言葉を失った。

 煌めくような湖が広がっていた。静かな湖面には、岸の木々が映り込み、天の緋月は太陽のように輝いて、湖面のわずかなさざ波をキラキラと動かしている。

 対岸に広がる森の向こうに宮殿の尖塔がわずかに覗いている。どうやら、洞窟を経て、森の反対側に来たようだ。長によると、この先で森がすこしずつ欠けているらしい。


「なんで、ここ?」と風子が目をクリクリさせながら、ディーンを見上げた。

 りりしい顔の大きなカメが首をかしげた。

「なんでだろ?」とそのカメが隣を見た。やんちゃそうな野ウサギがいた。リトらしい。

 風子は小さな灰色ネズミに変わっていた。

「ここって、〈閉ざされた園〉みたいなんだけど……」と風子がつぶやいた。

「なにいっ?」やんちゃウサギが飛び上がった。


「ほら、河もあるよ!」

 風子が指さす向こうから、白い鹿が近づいてきた。

「これは、これは、ようこそお越しになりました。どうぞこちらへ。園の管理人さまのもとにご案内いたします」

 風子ネズミがみんなにそっと告げた。

「何か食べたり、飲んだりしちゃダメだよ。記憶をなくしちゃうから」


 歩みの遅いカメとヘビは、ハタと困った。どんなに急いでも、リトウサギにもモモにもまったくついていけない。

 銀狼がかがんで、カメとヘビに背に乗るよう促した。カメは自分のサイズを小さくした。ちっちゃな風子ネズミはモモの背に乗っけてもらった。クロはリトウサギに興味津々で、何かとちょっかいをかけている。


 白鹿について歩む園は、たしかに非常に美しかった。どれもみな動物の姿だが、のんびりとくつろいでいる。

 向こうに大きな木が見えた。その下には、立派な角を持つ牡鹿が立っていた。

 白鹿が跪いた。

「管理人さま。新しい入園者でございます」

「うむ」

「あれ、その子?」

 牡鹿のそばには、かわいらしい黒狐がちょこんと座っていた。まだ子どものようだ。

「そうだ。また、園に迷い込んできたようだ」


 風子ネズミが黒狐に近寄った。

「こんにちは! あたし、風子だよ。あんたは?」

「……シン」

「よろしくね!」

 リトはあきれた。こんなときにも風子はめげない。


 園のどこでも自由に過ごしてよいと言われた一行は、日当たりのよい場所でゴロリと寝転びながら、相談しはじめた。


――ここは〈閉ざされた園〉。

 かつて、ばあちゃんとスラを探しに行った場所だ。そのときは、戻ってくることができた。であれば、必ず脱出できるはず。


 リトが長い耳を半分に折りながら、風子にそっと訊ねた。

「だけど、そのときは、トラネコの助けがあったんだよな?」

「うん」

「いまは何の助けがある?」

「うーん、ないよね」

「うちのばあちゃんですら、自力では脱出できなかったんだぞ! いったいどーする?」


 風子ネズミは、そばの岩の上に寝そべるカメを見た。

「ディーンさんはどう思う?」

「ディーンでいいよ」

「うん! じゃ、ディーンならどうする?」

「うーん」と、ディーンカメが考え込んだ。

 風子ネズミがつい見とれた。カメなのに、かっこいい!


 すこし離れたところで、黒狐がこっちを窺っている。ひとりぽっちで来たばかりで、まだ知り合いがいないのだろうか。

「あの子、ここに来たいみたい」

「よせ! 秘密がバレるぞ」

「うん……でも……」

 風子ネズミは黒い子狐が気になってしかたがない。

 ふと思いついたように言った。

「あ、そうだ。このまえと管理人が違うよ。このまえは黒い狐だった。いまは角のある鹿……案内人は同じだけど」

「じゃあ、管理人が代わったってこと?」

「そうなのかも……」


 リトがフッと考え込んで、黒狐を凝視した。

「まさか……まさかね」

「なにが?」

「いや、あの黒狐が成長したら管理人ってことあるのかな?」

「ここに成長なんてことあるの?」

「さあ、わかんないけどさ。ばあちゃんが言ってたろ? オレの叔父さんが、子どもの頃、〈園〉に消えていなくなったって。それでその〈園〉で見た管理人の黒狐が叔父さんだったって……叔父さんの名前はシンだ……」


 全員が顔を見合わせた。

「うそっ? 時間が戻ってる?」

「そうかも……まあ、時空の歪みだモンね」

「だったら、あの子にいろいろ聞いた方がいいかもしれない」


■子狐

 手招きすると、子狐はうれしそうに近寄ってきた。風子とモモと銀狼が気に入ったようだ。ほぼ同じ大きさのモモとさっそくじゃれあっている。


「どうやってここに来たの?」と風子ネズミが聞くと、子狐は無邪気に答えた。

「わかんない。森にいたら、ときどき、ここに来るんだ」

「ときどき? じゃ、もう何度もここに来たことがあるの?」

「ウン!」

「じゃ、帰り道もわかる?」

「ううん。園でぼうっとしてるといつの間にか森に戻ってるんだ」

「は……はあ。ぼうっとしてると、ねえ。いいなあ。森と園を行き来できるなんて」

「そうだろ? お姉ちゃんもそう思う? ボクもそう思うんだけど、おとなたちは危ないって。ボクを叱るんだ」

「誰に叱られるの? お母さん?」

「ううん。お母さんはいないよ。おばさんがいるけど、叱るのはおじさん」

「ふうん。寂しいね」

「ううん。寂しくなんかないよ。ボクにはお姉ちゃんがいるから」

「お姉ちゃんが大好きなの?」

「うん! 世界でいちばん好き!」


 リトがビクッとして子狐を見た。この子がシン叔父さんなら、「お姉ちゃん」は母さんのはず。

 リトウサギがおそるおそる訊ねた。

「キミのお姉さんってどんなひと?」

「すごく強くて、すごくやさしいんだ。とってもきれいだし」

「強いの?」

「ウン! ケンカはだれにも負けないよ。走るのも速い。武術の腕はピカイチだよ」

「けんかってだれと?」

「村の男の子たち。ボクをイジメるんだ。魔の子って。だから、お姉ちゃんがやっつけてくれる」

「魔の子?」

「ウン……ボクのホントのお母さんは悪い人だったんだって。お父さんはだれかわかんない。お母さんはボクを産む代わりに死んじゃったんだ。だから、ボクは悪い人の子どもで、その人を殺したもっと悪い子……」


 リトは絶句した。

――とんでもないイジメじゃないか! 

 でも、あの雲龍の村でそんなイジメがあるなんて信じられない。


 ディーンがノソノソと子狐に近づいた。

「嫌われたのは親の責任、死んだのは親の運命だ。子が背負う必要はないよ」


 子狐がカメをじっと見つめた。カメも負けじと子狐を見つめた。

 ツイと子狐が前足で、カメを押した。カメが岩から転がり落ち、甲羅を下にひっくり返った。

 風子ネズミはあっけにとられた。

「なにすんの!」

 ひっくり返ったカメは足をバタバタさせていたが、クロがヒョイと裏返してやった。カメはまだビックリしている。


 風子ネズミが小さな手で、子狐の尻尾を掴んだ。

「あんた! そんなイタズラはダメだよ!」

 子狐が振り返った。シッポを一振りすると、風子ネズミが飛ばされた。

「ヤダよ! コイツひっくり返って、おもしろいもん!」


 即座にヘビが子狐の首に巻き付き、締め付けた。

「こやつっ! 玄武さまをどなたさまと心得る!」

「わあああ! 痛いよう!」

 子狐がもがいた。


 なりゆきを見ていた銀狼が割って入った。

 銀狼はヘビを子狐から引き離したが、自分の後ろ足でシッポを踏みつけた。

「黒狐シンとやら。きちんとお詫びを申し上げなさい。ここにおられる方々は、おまえごときがかなう相手ではない」

 子狐は涙目で銀狼を見上げた。銀狼は厳しい目をしていた。


「ごめんなさい……ちょっと遊んだだけなんだ……ボク、遊び相手がいないから……」

 聞けば、村のいじめっ子たちが、カメをひっくり返して遊んでいたという。

 風子ネズミが子狐に近寄り、その三角耳に向かって大声を張り上げた。

「そんなことしたら、いじめっ子と同じじゃん!」

 三角耳がしおれるように横に下がった。

「ごめん……カメさん、ゴメンね」


 ディーンカメが首を伸ばした。

「わかった。許すから、一つ教えてくれないか?」

「なーに?」

「キミは、河の向こうの森に行ったことはあるのか?」

 子狐は、ブルッと身震いした。

「あるけど……」と言葉を濁す。

「薄暗くて、ヘンな動物ばっかり。ちょっと怖かった……」


 リトウサギが訊ねた。

「ヘンな動物って?」

「こっちの園にはいないような動物……馬に羽があったり、虎だか人間だかわかんない姿だったり……みんな、ボクを睨むんだ」

 ディーンカメが身を乗り出しながら聞いた。

「その森へはどうやって行ったのか?」

 あっけらかんと子狐が答えた。

「河を飛び越えたの」


 風子ネズミは改めて河を見た。ものすごく広い河だ。流れはさほど急ではないが、相当深そうだ。

「飛び越えた? この河を?」

「ウン! それで、また飛び越えて戻ってきた。森はあんまりおもしろそうじゃなかったから。こっちの園の方がきれいで明るいもん」


 風子は頭を抱えた。

――あのきれいな「絵の森」とは違う別の森があるってこと?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ