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月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第四十章 玄武への手がかり
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ⅩLー1 天月蛇と月香草――自然資料館研究員が語るご自慢ポイント 

■天月自然資料館

 天月医師ヨヌはワクワクしていた。自然資料館の天月蛇を見たいと〈蓮華〉の子どもたちが言い出したとのこと。自然資料館のメンバーに伝えると、大喜びした。あのかわいらしいが、ちょっと小憎らしい子どもたちに、天月蛇を自慢できる。


 子どもたちの合宿先の櫻館の主である九鬼彪吾と游空人(虚空)まで同行するとあっては、天月としても放置できない。

 天月宗主は、彪吾と游空人に会う手はずを整えた。すると、ラウ伯爵の許可を得て櫻館に滞在しているレオンがこの機会にルナ大祭典の打ち合わせをできないかと提案してきた。


 宗主は銀麗月とともに、三人の賓客を迎えて、茶話会を設けることにした。子どもたちは表敬訪問という形で、形式的な挨拶だけする予定だったが、ウル舎村国主が絶賛したというミニ・ミュージカルの噂は天月にも届いている。宗主は、主人公ルルの歌を聞きたいと所望した。


 尚服局は、宗主と銀麗月の衣装を整えることになった。新しいものをつくるわけではない。すでにある衣装のうち、季節と目的と相手にあわせて組み合わせを考えるのだ。


 ラクル仕立屋の弟子ランは秘かに興奮した。

――噂の銀麗月を見ることができるかも……。


 賓客を迎えるとき、尚服局の者が宗主や銀麗月のそれぞれの館の衣装部屋に置かれている数々の衣装のうちからふさわしいものを選び出し、衣装を着せる。

 だが、ラクル仕立屋などお呼びではない。尚服局の者は慌ただしく動いているが、ランは暇だった。今日ばかりは、ほとんど役に立たない徒弟たちも邪魔者扱いされている。


 職人の顔が上気しているので、わけを訊ねると、なんと、これまた玲瓏な美貌で有名なラウ財団筆頭秘書レオンも来るという。世界的有名人九鬼彪吾と游空人まで――これはすごい! だが、尚服局詰めでは、会う機会もない。


 暇なランは、同じく暇なカズの助けを借りた。有名人が来たときに、秘かに観察できる場所があるという。


 当日朝、キュロスの車に乗って、子どもたちが到着した。監督者としてサキが付き添い、カコとリョウとグリにはミオが付き添った。イ・ジェシンが刺繍のために現物を見たいと言い張り、やむなく連れてきた。

 リトとカイも同乗した。銀麗月の顔は、天月ではほとんど知られていない。ごく普通の服装をした青年の美貌に驚いたとはいえ、自然資料館のだれ一人として、その美青年が銀麗月だとは気づかなかった。


 自然資料館の研究員たちが、うれしそうに一行を出迎えた。今回は、幼児や小学生までいる。

 研究員の一人が、一行にまったく不釣り合いな色っぽい美女ミオを見て、うれしそうな顔をした。ウッフンと軽くウインクして、ミオは子どもたちを前面に出した。


 お目当ての天月蛇は、中庭の特等席に設置されたかなり大きなケージの中で、ちんまりとぐろを巻きながら、のんびり過ごしていた。


 一メートル程度のヘビであった。ヘビは、首をもたげて、じっと子どもたちを見た。きれいな青色の地肌に金銀が交錯する見事なヘビ柄だった。日の光を受けて、鱗がキラキラと輝いている。


「天月蛇は、天月にしか生息しない非常に特殊なヘビなんです」と、資料館の研究員が説明した。

 子どもたちはポカンとしている。見た目、きれいだが、普通のヘビだ。


 研究員が続けた。

「ヘビはすべて肉食性なんですが、天月蛇は草食性なんです」

「へ?」

「しかも、食べるのは天月草のみ」

「すっごい偏食なんですかあ?」

「そうなんです!」

 ふうん、へええ、ほおお。

 思った通りの反応だ。

 偏食の草食性――天月蛇を語る時の第一のポイントだ。


 風子たちはしげしげとヘビを見た。

 愛敬がある顔立ちだ。先が分かれた赤い舌先をペロリと出して、こちらを見つめ続けている。


「天月蛇って、猛毒の毒蛇って聞いたんですけど……」と、風子が聞いた。

「そうですよ」

「じゃ、なんで毒が抜けたんですか?」と、シュウ。

「いま、わたしたちもそれを調べているんですが、はっきりしたことはわからないんですよ。ただ、月香草を食べさせたことが影響しているようです」

「月香草?」と、アイリ。


「ええ。ああ、ほら、あそこにこんもり繁っているでしょう? あれが月香草です。満月のときにはきれいな花が咲いて、良い香りを放ちますよ」

「へええ!」と、オロが驚いた。

 毒抜き――これが、天月蛇語りの第二のポイント。

 この反応が、一番の快感だ。子どもたちの反応は上々だった。あの小生意気な子どもたちが、やけに素直に見える。


 子どもたちが順番に質問し、彼らの驚いた様子に気を良くした研究員は、さらに踏み込んで説明した。

「月香草と言っても、どれでもいいわけじゃないみたいでね」

「え?」

「天月のある場所に生えている月香草だけなんですよ。天月蛇が食するのは。あそこの月香草はそれを移植したものなんです」

「へえええ!」

 好奇心に溢れた子どもたちの目が輝いた。

 研究員の気分が高揚した。

(よし! 第三のポイントも楽々、クリア!)


 天月蛇は、近づいても威嚇することなく、じっとこちらを見ている。


■学生たち

「やあ!」

 リトの背後で声がした。天月士ジュンギとディーンたち学生ルナ研究会メンバーが揃っていた。


「わああ! おっきいお兄ちゃんとお姉ちゃんたちだあ!」と、カコとリョウの二人の五歳児が喜んでディーンのところに駆けていった。年末年始にカトマールのルナ遺跡で、「偶然」に出くわした縁がある。


「あれ、どうしたの?」と、リトが不思議そうに面々を眺めた。

「ジュンギの案内で、天月見学に来たのよ。偶然ね!」と、リーダーのビンビンが答えた。


 いや、ホントは「偶然」ではない。このまえも今回も、すべてディーンの策略だ。今回は、ジュンギから〈蓮華〉の連中が資料館見学に来るらしいと聞いたディーンが、巧妙に仲間を見学企画に誘導したのだ。

 思った通り、リトもいた。だが、アイツもいた――天月修士、きっと銀麗月だ。


「あなたがしばらく欠席してたから、みんなで心配してたのよ。なんかあったの?」と、ビンビンが心配そうな顔をした。

「ちょっと、体調を崩しちゃってね」と、リトは言葉を濁した。


 ビンビンは、カコたちに向き直った。

「久しぶりだね!」

「ウン!」

 カコもリョウもうれしそうだ。


 ディーンはアイリに挨拶した。

「やあ、元気そうだね」

 アイリはプイッと横を向き、風子の影に隠れた。ディーンが苦笑した。


 学生一行と十五歳一行(+五歳児たち)がルナ大神殿で一緒だったときに同行しなかったオロは、ルルの姿で、少し離れて立っていた。

 イ・ジェシンはグリの手を引いて、めずらしく、おとなしくしている。

 リトが紹介した。

「あ、こっちはルル。グリとそのパパ。こちらはカイ。ボクの友人だよ」


 ディーンは、カイをじっと見つめた。その視線に気づいたカイは、軽く目礼した。

 ディーンとカイが並び立つ姿に、思わず学生たちがため息を漏らした。


――うわあ……まるで映画みたい!


 端で、リトが大焦りした。美麗な秀才二人だ。互いに関心をもっても不思議ではない。一度、町中の古本屋で出くわしたときも、何だか微妙な雰囲気だった。


(銀麗月の身分を隠しているようだ。いったい、どんな意図だ?)とディーンが(いぶか)しむ。

(この者がリトのアルバイト仲間で、何かとリトを助けている同級生か)と、カイが控えめに探り目をする。

 リトをめぐって、二人の美青年が心理戦を始めたのに、肝腎のリトはまったく気づいていない。


 三人の心理戦に気づいたルル(オロ)は、わざと、いかにも子どもっぽくススッとリトに近寄って、カイとディーンの視線からリトを遮り、「ねえ、あれ見て!」とヘビの方を指さした。


 ほぼ同時に、「あれっ?」と大声を上げて、風子もケージを指さした。

 みんながいっせいに指の方向を見ると、天月蛇が、こちらに向かってお辞儀をしている。

 サキがあわてて写真に収めた。


「なんだ? あのジェスチャーは?」と、アイリが資料館研究員に聞いたが、研究員はビックリしすぎて、言葉が出ない。これは、説明マニュアルに入っていない!


 しばらくして、天月蛇はもとの姿勢に戻り、とぐろを巻いて、鎮まった。

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