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第一巻発売日

 それからこれといって大きな事件もなく、月日は過ぎた。


 以前に計画した通り、俺たちは、魔法の危険性を伝える動画を配信した。

 攻撃魔法は実際に危険であること。

 召喚魔法は異世界のモンスターを招き寄せるものであり、制圧しなければ命の危険があること。

 その危険を承知の上で、使うかどうかを考えるべきであるということ。

 遊び半分で魔法を唱えて、世界が滅びたら困るからこんな配信をしたわけだけど、もちろん視聴者がどれくらい真剣に受け止めてくれるかは未知数だ。

 ひょっとすると、危険だと教えたがためにますます使う、という面倒な人だっているだろう。将来的には、何かもっと決定的な手段で、魔法を安全化する方法を探さないといけないだろう。 

 もちろん、そんな手段があればの話だけど。


 紅城は和泉から聞いた情報をもとに「魔法使い養成講座」をリニューアルした。

 前に考えていたリニューアル計画はアレクトーの襲撃騒ぎで立ち消えになったけど、新たに「魔法使いの弟子」を公募したところ、前回よりはるかに多くの志望者が現れたのだ。

 病院の騒動で知名度はますます上がったし、フォージと対決する動画は好評だった。こうなったのは不思議なことじゃない。

 老若男女の弟子を五人とり、今は修行中だ。修行中というのは、継続して動画に出演してもらっているということだ。その形式にしてから二か月が過ぎて、まだ誰も魔法が使えていない。でも紅城が言うには「手ごたえはある」とのことで、全員が魔法使いとして覚醒するまで、今の形式で動画配信する予定らしい。

 

 俺がやったことといえば、過去の原稿のリライトだろうか。

 先日アップロードした紅城とフォージの対決を描いたエピソードだけど、最初の原稿は大急ぎで書いたために文章が酷かったし、内容もダイジェストみたいなものだった。だから動画として配信された映像を元として書き直した。

 そのあとの小説は、ず~っと日常パートになってしまっている。紅城の動画の内容や、撮影の裏舞台を書いた話だ。

 何か事件でも起きたら、また忙しくなるんだろうけど、今のところはその気配もない。


 それから、これが大事なことだ。

「異世界転生! 魔法使いだらけの世界で、俺が成り上がるまで」の第一巻が、ついに今日発売される。

 米沢さんからの連絡によると、一冊は俺のところに郵送されるように手配したとのことで、今はそれを待っているところだ。

 本屋に並んでいるはずだから、それを買いに行ってもいいんだけど、やっぱり最初の一冊は、出版社から送られたものを手に取ってみたい。これは作者の特権だ。今日ばかりは仕事も休んで、ずっとアパートで時間をつぶしているのだ。

 待つとなると時間が長く感じるもんだな。そろそろお昼の時間だけど、食べに行っちゃっていいものか。何をして時間をつぶそうか。テレビでも見るか。

 リモコンのボタンを押すと、ちょうど昼のニュースが放送されていた。面白い番組は何もないし、これでも見ているか。


 そういうわけで見るとなしにテレビを眺めていると、窓の外を何か大きな影が横切った。

 なんだ? なんだかバサバサという音までするぞ。雨にしては変な音だな。


「せんせー! ドライブ行こうぜー!」

 紅城の声がする。窓を開けると、すぐ真正面にヤツがいた。レッドドラゴンの背中に乗って、低空ホバリングをかましている。竜の羽が空気をかき乱し、近所の洗濯物を吹き飛ばさんばかりに波打たせている。

 アパート前の道路をいっつも掃いて回っているお婆さんがいるんだけど、可哀想に、婆さんはこっちを指さしてあわあわ言ってる。


「おい、常識で考えろよ!」そうだ。これはあまりにも非常識すぎる。「ここは二階だぞ! しかもこっちは窓だ!」

 そうだ、そうそう。窓が割れたりサッシに傷が付いたら、敷金が戻ってこないかもしれないじゃないか。もう少しこっちの懐事情にも配慮してほしいもんだな。

「いいだろ。地上まで降りるのが面倒なんだって先生。さっさと行くぜ!」

 紅城が後部座席を親指で示す。

 ここでいう後部座席とは、レッドドラゴンの背中に取り付けられた座席の後ろ側、という意味だ。フォージは首を巡らせて、何やら困惑するかのような眼差しを向けているけど、見なかったことにしておこう。

「なにこれ? こんなの売ってるの?」

「行きつけのバイク屋の店主にお願いして、作ってもらったのさ! バイクの部品が材料だから、乗り心地は悪くないぜ! 定員は二名さ!」

 紅城はふふん、と自慢げに胸を張った。そして、思い出したという風に、背負ったリュックから何かを取り出す。

「あと、第一巻、買っておいたぜ。先生おめでとう!」

 いわずもがな、俺の本だ。

「ちょっ! 第一巻は郵送されることになってて、今届くのを待ってるんだよ! 作者らしく、自分で郵便袋の封を切って自分の作品と対面したかったのに……」

「めんどうくせえこと言うなって。郵送されようと手渡されようと、どっちも同じだって。俺のチャンネルでも宣伝しておいてやるから、きっと大ヒットだぜ! さ、行こうか!」

 紅城は俺の腕をつかむと、強引に後部座席に放り込んだ。

「さー、飛ばすぜ。宙返りも錐もみ飛行もなんでもござれだ。こういうときのためにシートベルトも用意してあるんだ。ちゃんと締めてくれよ!」

「待てよ。待てって。ドライブってどこに行くんだよ?」

「とりあえず東京一周かな? まぁ昼飯前だし、軽く回るだけさ。北は池袋、南は品川あたりまで行って、俺のマンションの前に着地する。それから飯にしようぜ!」

「ずいぶん遠回りに軽く回るんだな」

「どうせ空を飛ぶんだ。これくらいやらないと物足りないよ。そら行け、フォージ!」

「え、あ、ちょっと待って!」

 シートベルトを締めきっていなかったので、あやうく転落しそうになった。紅城はまったく俺の状態に注意を払ってない。勘弁してよ。

 足でしがみつきながら、ベルトの留め具をロックし、やっと身体が安定した。これで振り落とされずに済む。

 フォージのテレパシーで、思いっきり『チッ』という舌打ちのような気配がしたのは気のせいではないだろう。人間にタクシー代わりにされて不愉快だろうが、我慢しててくれよ。今はいいところなんだ。多分、人生最高に!

 俺たちは、青い空へと飛び出した。



――――!


 紅城直哉と山田敏行がフォージの背中に乗って飛び去ったあと、消し忘れたテレビがニュース番組を流している。


―― 東京都 XX区にあるN総合病院に、治療を求める患者が多数集まりました。

 これはSNSなどで、N総合病院に入院していた多数の患者が、奇跡の治療を受けて全快したとの投稿が拡散されたことがきっかけです。

 しかし実際に別の病院から転院手続きをとった患者が、普通の治療しか受けられず、奇跡の治療はデマだったとの推測が広まっています。

 押しかけた多数の入院希望者に対し、N総合病院の院長・黒川輝義氏は『奇跡の治療とは、見舞客によって使用された治癒魔法のことであり、院内の医者の手によるものではない』などと発言し、集まった人々の一部が興奮して暴れ、現場は一時騒然としました――。


 院長・黒川輝義氏の写真が表示されるが、それは、かつて山田と話をした黒縁眼鏡の医者だった。


――次のニュースです。

 東京都 〇〇区のK幼稚園にて、ボヤが発生し、園児と職員45名が一時避難しました。怪我人などは発生していません。

 火元となったのは遊具箱で、火の気もなく、職員の中にも、出入りする業者の中にも喫煙者はいないため、出火原因は不明です。現在、消防と警察が聞き込みなどの調査を行っています。

――幼稚園の庭と、そこに集まっている園児たち、職員たちの姿が映る。園児の母親らしき女性もいる。

 マイクを向けられて、女性が答える。「火事があったと聞いて、仕事を抜け出してきました。はい。子供に怪我がなくて良かったです~」

 マイクは、園児の一人に向けられる。「あのね! サワちゃんが魔法使ったの! 呪文を唱えたら、ぼかーんっ! て、ぬいぐるみが燃えたの。セイギレンジャーレッドより、かっこよかった!」

 園児の言葉と身振りが受けたのか、他の園児たちも一緒になって両手を挙げてジャンプしながら「ぼかーん!」と叫び、はしゃいでいる。笑いながらジャンプしている女の子の一人の胸に、名札が見える。

 そこには「みつい さわ」と黒い文字で書かれている。


――次のニュースです……。


 空を飛び回っている紅城も、山田も、気が付いていなかった。

 この世界は着実に、変わろうとしていた。

 そのたどり着く先は、まだ、誰も知らない。


これにて、第一部完結です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


第二部の開始は未定ですが、また書き溜めてから連載する予定ですので、気長にお待ちください。

よろしくお願いします。

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