お泊り
「「ねえ、あっ…どうぞ。」」
う〜ん、気まずい。
あの後、例のバーや薬屋に挨拶を済ませて、侯爵邸に帰ってきた。
そして、サフィーとばったり出くわして、なんか気まずい雰囲気が出来上がってしまった。
本当にどうして?
サフィーも、言い過ぎたと思ってるのか、反省してるみたいだけど、なんだか話し掛けづらい。
「姉様」
「どうしたのサフィー。」
しまったー!!
私が言わなかったせいで、サフィーに先に言わせる事になっちゃったー。
私が、猛烈に後悔してる中、サフィーが続きを話す。
「ちょっと、強く言い過ぎました。反省してます、ごめんなさい。」
「ふふっ、ありがとう、サフィー。私もいつまでも子供扱いして悪かったわ。こんな駄目な姉でも、許してくれる?」
「もちろんです!!子供扱いは嫌ですけど、これからも沢山甘えるので、姉様も私のことを甘やかして下さい!!」
う〜ん、下心が漏れ出てるよ?サフィー。
でも、サフィーは平常運転みたい。
良かった、私のことを嫌いになってなくて。
「サフィーお姉ちゃん、仲直りできた?」
「うん、出来たよ。ありがとう、メリーちゃん。」
もしかして、サフィーがメリーちゃんに優しいのって、自分とメリーちゃんを重ねてるからなのかな?
メリーちゃんも、サフィーに甘やかして貰ってるし、サフィーは私に甘やかして貰ってる。
姉や姉貴分に甘やかして貰ってる仲間として、気が合うのか…
それとも、私みたいに妹を可愛がりたいだけなのか。
「メリーちゃん、サフィーと遊んでて楽しかった?」
「うん!楽しかったー!!」
「そうか〜、良かったね〜」
私が、メリーちゃんの頭を撫でて、抱きしめてると、後ろから強烈な殺気を向けられた。
はぁ…
せっかくいい雰囲気だったんだから、ちょっとくらい我慢しようよ。
「サフィー?」
「なんですか?」
「白を切っても無駄よ?私は気付いてるからね?」
すると、急にしおらしくなったというか、同情を煽るような雰囲気を出し始めた。
同情させて、許して貰おうって魂胆か?
いくら妹に対して甘いとはいえ、流石にそれでは許さない。
「それも無駄よ?怒るべき時は、しっかり怒るって決めてるからね?」
「むぅ〜〜!!何がそんなに不満なんですか!?」
「ちょっとくらい我慢しなさい、って事よ。それが出来ないから子供扱いされるのよ!」
あ、泣きそうな顔してる。
「サフィー、戻っておいで。元からそんなに怒る気なんて無いから。」
「本当?」
「本当よ。だから、戻っておいで。」
こっちから近付くより、あっちから来てくれるのを待つ。
その方が、心の準備が出来てるから、仲直りがしやすい。
サフィーも、恐る恐る近付いてきた。
「よしよし、サフィーは子供じゃないんでしょ?」
「うん…」
「じゃあ、これくらい我慢できるよね?」
「…うん」
サフィーって、本当に甘えるのが上手だよね〜
こうやって泣けば、私は絶対甘やかす。
サフィーって、やっぱり策士だよね〜
「さぁ、帰ろっか?」
「え?もう帰っちゃうの?」
「うん、実はお姉ちゃんがもう一人いてね。今寝てるから、宿に置いてきちゃったの。」
「そうなの?」
「うん。その、もう一人のお姉ちゃんが心配だから、早め帰ろうと思ってるの。」
さて、これでメリーちゃんが納得してくれるか…あー、駄目そう。
どうしよう?サフィーにまた残ってもらう?
私がサフィーに視線を向けると、サフィーは首を横に振った。
仕方ない、
「じゃあ、今度は私が一緒に居てあげようか?」
「え?」
「さっき、サフィーと一緒にいたんでしょ?なら、今度は私が一緒に居るよ?」
「一緒に寝てくれるの?」
「お父さんがいいって言ってくれたらね。」
すると、メリーちゃんがしおらしい顔で、ヘリスのことを見つめ始めた。
サフィーの真似のつもりかな?
良くないこと教えちゃったな〜
「分かった分かった、一緒に寝ていいぞ。」
「本当に!?」
「ああ」
「やったー!!」
すると、メリーちゃんが抱きついてきた。
一瞬殺気を感じたけど、必死で抑えてるのが伝わってくる。
取り敢えず、サフィーの頭も撫でて、落ち着いてもらおう。
「だったら私も泊まります!」
「え!?」
「本当に!?」
メリーちゃんは嬉しそうだけど、私は困っていた。
「リン姉はどうするつもりなの?」
「一人で寝るでしょ?」
ああ、リン姉可愛そう。
やっぱり無し、は通用しないからな~。
仕方ない、リン姉に説明だけしにいくか。
流石にリン姉は、大人な対応してくれるはず。
「じゃあ、私はリン姉に説明してくるから、一回帰るね?」
「うん!分かった。」
「行ってらっしゃい、姉様!」
なにしれーっと見送りに参加してるのよ。
サフィーも来ればいいのに。
その、面倒くさがりな性格も、どうにかしないとね。
私は、二人に見送られながら、宿に向かった。
「リン姉、起きてたんだ。」
「ええ、挨拶回りお疲れ様。サフィーは?」
「実は…」
私は、メリーちゃんの事や、侯爵邸に泊まる事を、リン姉に話した。
「なるほどね…行ってらっしゃい。私のことは大丈夫だから。」
「流石リン姉。サフィーと違って大人な対応してくれて嬉しいです。」
「はいはい、あんまり甘やかし過ぎちゃだめだからね?」
「分かってますよ。ちゃんと怒るときは怒ってます。」
さっきも怒ってたしね。
気にしなくても大丈夫なはず。
…大丈夫だよね?
私は、ちょっと不安になったけど、そのまま侯爵邸に戻った。
「お姉ちゃん達がお泊り〜」
メリーちゃんは、ご機嫌だった。
大好きなサフィーお姉ちゃんが、うちにお泊りしてくれるんだもんね。
そりゃあ、ご機嫌になるよ。
これ、ちゃんと眠れるのかな?
私は、そんな不安と、サフィーから睨まれて寒気がしてるのを抑えながら、メリーちゃんの背中を流す。
サフィーは、私がメリーちゃんを先に洗い始めた事で、私を取られたと思ったのか、次は私オーラを放ちながら、こっちを見てる。
「終わったわよ?」
「ありがとう、ビーノお姉ちゃん!」
あ〜、メリーちゃんはかわいいな〜
その時、本気で殺されるんじゃないかってほどの殺気が、私に襲いかかる。
私は、すぐにメリーちゃんから視線を外す。
「命拾いしましたね?」
怖すぎでしょ…
最近、サフィーのサイコパス度合いが増してる気がする。
いつか後ろから刺されそうで怖い。
サフィーの体を洗ったあと、ようやく私も体を洗うことが出来た。
「メリーちゃん、大丈夫?のぼせてない?」
「大丈夫ですよ?」
「そう?ならいいけど。」
かなり時間が掛かってるメリーちゃんのことも考えて、早めに上がった方がいいかもね。
結局、私はあんまりお風呂に入れずに、上がることになった。
「かわいい寝顔ですね〜」
「そうね〜」
眠れないんじゃと考えてたけど、意外と早く寝てしまったメリーちゃん。
まだまだ子供だし、サフィーと遊び疲れて寝ちゃったのかな?
「おやすみなさい、サフィー、メリーちゃん。」
「おやすみなさい、姉様。」
そこで、私しか呼ばない辺り、結構嫉妬してたのかな?
サフィーの頭を軽く撫でて、落ち着かせる。
すると、急に疲れが出てきて、すぐに眠ってしまった。
明日は朝早いし、ゆっくり寝よう。




