初めてのお酒
「街がピリピリしてますね。」
「スタンピードが来るんだもの、一般人からすれば恐怖でしかないわよ。」
私は、スタンピードの魔物よりも、あの魔族の方が怖い。
あの魔族、私より強い。
戦闘は初対面から始まってる。
相手をよく観察し、自分より強いか弱いか、どんな性格か、どんな武器を使うか、どんな魔法を使うか、そういった情報戦が始まってる。
あっちの情報は、魔族、私より強い、剣を使う、過激派。
剣術は私以上のはず。
なら、近接戦闘は出来るだけ避けたい。
馬鹿力だけでは、殺し合いで心許ない。
いつ、襲ってくるか分からない状況で、最大限の準備をする、かなり難しい事だ。
「だからこそ、やりがいがあるんだけど。」
「はい?」
「何でもないわ。」
とはいえ、私も少しでも剣術について学ぶべきだ。
だから今、冒険者ギルドに向かっている。
剣術について知っている冒険者を探す為に。
多くの冒険者はそうやって剣術を学ぶか、型のない我流の剣を使うか、その二択だ。
「お姉様、あれ。」
サフィーは、人が集まっている所を指差す。
「大道芸…ではなさそうね。」
揉め事かな?
なら、私には関係ない、ギルドに向かおう。
私達は無視して、ギルドに向かおうとしたその時、
後ろから、雷が落ちたような音がした。
「お姉様!!」
「分かってる!」
私は、確かに魔力が動くのを感じた。
つまり、あの雷は魔法だ。
街中で雷魔法を使う馬鹿がいるなんて、万が一そいつが暴れたときのために…
私は、雷魔法を使ったであろうやつを見て、声が出なかった。
サフィーも固まっている。
私達が動き出す前に、太った男が現れた。
「何やっとるんだ貴様は!」
その男が何かして、雷魔法を使ったやつ…お姉様が苦しみだした。
黄金の瞳…三女のお姉様。
私のひとつ上の姉だ。
そして、私達は一歩も動けないまま、三女のお姉様は連れて行かれた。
「サフィー、大丈夫?」
「私は大丈夫です。お姉様こそ大丈夫ですか?」
私か…
「正直、あの男をどうやって殺すかしか考えられないわ。」
サフィーをいじめていた姉とはいえ家族だ。
同じ母親の元に生まれた姉妹なんだ。
それを傷付けられて黙っていられるものか…
「落ち着きましょう、お姉様。」
私は、サフィーの言葉で正気に戻る。
しかし、すぐに新しい怒りが湧いてくる。
サフィーも、私に落ち着くように言っていたが、怒りの気配を隠しきれていない。
「何か、冷たい物のでも飲んで落ち着きましょう。考えるのはそれからよ。」
私は、サフィーの無理矢理連れて、近くの店に向かった。
「いらっしゃい」
私が入った店は、バーだった。
けど、そんなことはどうでもいい。
「何でもいい、果実酒と初めての人でも飲める酒を頂戴。」
「果実酒なら、何でもいいのか?」
私は、首を縦に振って、空いている席に座る。
すぐに、りんご酒と蜂蜜酒が出された。
「私お酒は…」
「いいから飲みなさい。」
怒りを抑えきれないせいか、サフィーに強くあたってしまった。
私は、そんな事をした自分に嫌気が差し、りんご酒を一気に飲み干す。
「何があった?」
白髪が、所々に目立ち始めた、渋い男性の店主?が声を掛けてきた。
「少し前に別れた姉が、奴隷になっていた。」
他に客はいない、話しても問題ないだろう。
「そうか…」
店主はりんご酒をコップに注ぐ。
サフィーを見てみると、どこが遠い所を眺めて、チビチビとお酒を飲んでいた。
「…」
「…」
「…」
しばらく、誰も喋ることなく時間が過ぎた。
コップから酒が無くなれば、店主がその都度注ぐ。
サフィーは、最初はチビチビと飲んでいたが、途中から普通に飲むようになった。
「何かない?オススメを頂戴。」
酒のつまみの事だ。
バーの店主をやってるなら、意味は分かってくれるはず。
店主は、きゅうり?にタレをかけたような物を持って来た。
「これでどうだ?」
私は、一つ食べて見る。
シャキシャキで、完全にきゅうりだった。
「この野菜はなんていうの?」
「キウリだが?」
キウリ…また三百年前の勇者か。
「三百年前の勇者の一人、『センセイ』なる人物が、酒と一緒に食べていた事から、大陸の様々な所で食べられるようになったと言われてるぞ。」
『センセイ』…絶対教師だろ。
アレか、クラス転移ってやつか。
私が、もう一つ食べようとした時、
「?」
半分くらい無くなっていた。
私が横を向くと、サフィーが、何食わぬ顔で酒を飲んでいた。
しかし、サフィーの口元にタレが付いていた。
私は、指で取って甜めてみる。
「サフィー…」
「ふん」
私は、その行動になんだかカチンときた。
そして、
「ブホッ!?」
サフィーのコップを無理矢理上げた。
あ、鼻に入ったみたい。
サフィーは、むせこんでいる。
ふん、いい気味だ。
「どうしたのサフィー。よそ見して飲んじゃ駄目よ?」
「そうですね、気を付けます。」
そして、私がキウリに手を伸ばしたのを見計らって、皿を奪い取り、キウリをすべて食べてしまった。
そして、皿を戻して、
「あら?お姉様、もう食べきってしまったのですか?食い意地を張るのは良くないですよ?」
何?意趣返し?
「ええそうね、気を付けるわ。」
私達の間に、重たい空気が流れる。
そして、店主が2つ皿を持って来た。
ついでに、サフィーのコップに蜂蜜酒を注いでいる。
「これならいくらでも飲めそうですね。」
サフィーがそんな事を言い出した。
アルコールが回っていたのか、感情的になっていた私は、
「へぇ、じゃあもっと沢山飲めば?」
サフィーを挑発してしまった。
「お姉様、そんなに飲んでないのに、よくそんなこと言えますね?」
その喧嘩、買ってあげようじゃない。
私は、今コップに入っている酒を飲み干して、
「お金はちゃんと出せるから、よろしく。」
店主は、ため息をついてボトルを出してきた。
「妹風情が、姉に勝てると思うなよ?」
「へぇ?これで負けたら赤っ恥ですね。」
不毛な我慢比べが始まった。




