種明かしと愛の秘密
さっきから、ずっとサフィーに睨まれている。
きっと、メリーちゃんとは二人でお風呂に入ったのに、サフィーは一人で入らせたからだろう。
サフィーは、本気で怒っているとき、まったくかわいい仕草を見せない。
今は、ひたすら怖い。
つまり、ブチ切れている。
ちなみに、メリーちゃんは、サフィーの膝の上で蜂蜜トーストを頬張っている。
「人払いは、終わりましたよ。」
「助かった、ありがとうローケン。」
私は、ヘリスに向き合う。
こらサフィー、貴女もヘリスの方を向きなさい。
なんて言えない。怖すぎる。
でも、一応TPOは弁えてほしいから…
「サフィー、貴女もヘリスの方を「チッ」な!?」
舌打ちされた!
不味い、これは相当キレてる。
ご機嫌を取るのが大変そうだ…
「あー…始めてもいいか?」
「どうぞ。」
ヘリスは、少しだけ考えた後、
「二人は何者なんだ?少なくも人間ではないだろう。」
「そうですね。」
私は、ペンダントを服の中から取り出す。
「これが何か、侯爵はわかるかしら?」
「…人化のペンダントか?」
「…」
ヘリスは、冷や汗を流している。
「当たりよ、安心して。」
「そうか…良かった。」
相当緊張してたみたいね。
ヘリスの肩から力が抜けている。
「私達の正体、何だと思う?」
私は、ヘリスに質問してみる。
「正体か…ん~~?」
ヘリスは、首を傾げたり、こめかみに手を当てたり、両手で頭を抱えたり、色々考えていた。
「…わからん。」
私は、思わずコケてしまった。
きっとこのノリがわかる奴はこの場にいないだろう。
「正解はこれよ。」
私は、ペンダントの力を止める。
すると、私の背から蜂の翅が現れ、頭には、触角が現れた。
「お姉ちゃん!?」
「マンイータービーの、女王候補か…」
「ええ、人間にお母様を殺され、巣を焼き払われた、マンイータービーの女王候補よ。」
ヘリスが、気まずそうな顔をする。
「お姉ちゃん可哀そう…」
「そう?ありがとう、メリーちゃん。」
「え?」
子供の純粋さには、救われるわね。
メリーちゃんは、どうして感謝されたか分からなくて、首を傾げてる。
「そうか…では、私がその人間達に変わって謝罪を…「いらないわ」え?」
ヘリスは、首を傾げる。
「お母様を殺されたのは、少し許せない自分がいる。でも、今の生活ができてるのは、人間に巣を、お母様を殺されたからなの。」
ヘリスの首の角度が、更に深くなる。
「きっと、あのままだったら、私達は姉妹で殺し合わないといけなかった。もちろんサフィーとも。」
私は、サフィーを見て…サフィーはまだ怒ってる。
「この世で誰より大切なサフィーを殺すなんて、あり得ないわ。それなら、私は自ら死ぬこと選ぶわ。」
「私もですよ?お姉様。」
サフィーが、優しく声を掛けてくれた。
「やめてサフィー。貴女が死ぬ姿なんて見たくない。私より先に死なないで。」
「私も、お姉様が死ぬ姿なんて見たくないですよ。」
サフィーは、膝からメリーちゃんを降ろして、私の隣にくる。
そして、上目遣いで、
「死ぬときも一緒ですよ?お姉様。」
「分かってるわ。サフィーを置いていったりしない。」
凄くいいシーンに見えるけど、ただの心中宣言だ。
実は、かなりイカれた会話だったり…
「ゴホン!お二人共、それは後でお願いします。」
イチャイチャし始めた私達を、ローケンが叱る。
「あー、だから、今の生活が出来てるという面では、人間に感謝してる。人間を皆殺しにしようとかは考えてないから、安心して。」
「そうか…それは良かった、と言っていいのか?…よくわからんな。」
なんとも自信のない言い方だな~
まぁ、ヘリスってこんな感じのイメージだし、別にいっか。
「そうだ!リリーが、妻が目を覚ましたんだ!」
「それは良かったですね。貧血が治るまでは安静にするよう、言っておいてくださいね?」
「ああ、分かっている、本当に、感謝している。何か私に出来ることがあれば、何でも言ってくれ。」
出来ることね?
ん〜、ん!
「だったら、剣術の指導が出来る人を、紹介してくれない?」
「剣術の?」
「私は、人外の力に任せて、剣を振り回してるだけで、剣術に関しては、まったく知らないの。」
これで、まともな剣の扱い方をできる。
心技体の、『技』をここで習得する。
出来なくても、初歩的な技術くらい持っておきたい。
「そう言えば、ビーノ様は、剣の手入れはどうされてるのですか?」
「剣の手入れ?」
「まさか、してないのですか?」
剣の手入れって、拭いたりするくらいしか、したことない。
「なら、この街の腕の立つ鍛冶師を紹介しよう!」
「ありがとう、助かるわ。」
ヘリスが鍛冶師へ、紹介状を書いてくれる事になった。
「さて、話しは終わりですか?」
サフィーが、急に質問してきた。
「私からは特に…」
「そうですか。」
サフィーは、こっちを向いてにっこり笑うと、
「お姉様、それでお仕置きの件ですが、」
「え?」
「え?」
お仕置き?
サフィー、まだ怒ってるの?
「お姉様、出会ったばかりの幼女に手を出して、私が許すと思ってるのですか?」
「うん、ちょっと待ってサフィー。その言い方は誤解を生むわ、私が幼女事が手を出す変態みたじゃない。」
横目で周りを見れば、ヘリスが警戒した目で、私を見ていた。
睨んでいたの方が、あってるか…
「血の繋がった妹に、手を出すんですよ?変態じゃないですか。」
「サフィーが誘ってきたからでしょ?」
「私は、忘れていませんよ?昔、『自分好みの、可愛らしい妹だ』って。」
「私そんなこと言ったっけ!?」
全然記憶にない。
「確かに、私は年下の小さい女の子を見ると、つい、頭を撫でたくなるけど…けっしてロリコンじゃない!!」
「それが、ロリコンんですよ!!」
結局喧嘩になり、
「メリーを近づかせない方が、いいだろうか…」
「サフィー様がいるので、大丈夫だと思いますよ?」
「確かに、サフィー嬢が止めてくれそうだ。」
何故か、二人の間では、サフィーの方がまともみたいになっていた。
サフィーは、全然まともじゃない。
メリーちゃんだったから、大丈夫だったけど、もしそれ以外の女性だったら、確実に殺られてた。
だって、サフィーは、歪んだ上に極度の『姉至上主義者』だから。
まぁ、立場が逆だったとしても、私はサフィーと同じ事をする。
だって、私も歪んだ上に極度の『妹至上主義者』だから。
私達は、お互い歪んでるからこそ、歪んだお互いを愛する事が出来る。
元より、常人の考え方なんて持ち合わせていない。
特に、恋愛に関しては。




