交易都市へ
「デッカ!?」
私は、さっきまでの弱気な感情が、全て吹き飛ぶような気分になる。
「本当に、あれが交易都市なんですか?」
サフィーも、目を白黒させている。
「はい、巨大な城壁がなるのは、『大帝国』が存在した時代、要塞都市としての役目を持っていたからですね。」
「要塞都市…ロマンあるわね〜」
「ビーノ様、元気になったのですか?」
フフ、当然!
「あんなにロマンのありそうな場所に行くのよ?ワクワクして、元気が湧いてきたわ!」
「そ、そうですか…何にせよ、ビーノ様が元気になって良かったです。」
要塞都市…イメージとしては、3重の壁があるイメージだけど…ここはどうなのかしら?
ん?
「ねえ、あれって…」
「交易都市というだけあって、人が…主に商人が沢山集まってくるので、検問の行列が出来るんです。我慢して下さいね?」
は〜!?
待てるわけないだろ!!
何時かかるんだよ!?日が暮れるぞ!
どうにかして、早く進めないかしら?
どうやって、早く入ろうか考えているとき、天啓が舞い降りた気がした。
「そうか…」
「ん?どちらへ?」
私は、馬車の外に出ると、ある馬車に走った。
「ビーノ嬢!?どうした!?」
ガッスの声が聞こえた気がしたけど、気の所為ね。
「おい、おっさん!」
「お、おっさん…あー、それで何かようか?」
そう、交易都市は、おっさんこと侯爵が統治する街だ。
なら、侯爵の権限で通してもらおうという魂胆だ。
「…という訳よ、やれ。」
「“やって欲しい”ではなく、“やれ”か…本当に強気だな。」
「分かったならやれ、やれの意味わかる?命令形だよ?」
おっさんが、なんとも言えない顔をしている。
私は、返事を無視して馬車に戻った。
「何してきたのですか?」
「おっさん…もとい侯爵に道を開けさせる様に命れゲフンゲフン、お願いしてきた。」
「お姉様…そのうち国王相手に命令しそうですね…」
サフィーとローケンが呆れている。
何故だ…
まぁ、いっか。もう少しサフィーに甘えとこ。
「お姉様、元気になったなら普通にしてください。」
「サフィー、そんな冷たい事言わないでよ。私は、傷付いた心を癒やしてるんだから。」
「はいはい…」
最近、どんどんサフィーが冷たくなってきてる…
もしかして、
「サフィー、もしかして溜まってる?」
私の発言にローケンがすっと馬車から離れる。
「いきなりですね。溜まってますよ?」
やっぱり、サフィーが冷たかった理由はきっとこれね。
「じゃあ、今夜は好きなだけおいで。」
「言質取りましたよ?本当にいいんですね?」
「ええ、沢山可愛がってあげるわ。」
それから、サフィーは急にご機嫌になった。
でもねサフィー、だからって私の腕に胸を当ててくるのは、違うんじゃないかしら?
これは…夜は大変そう。
すると、ローケンが入ってきて。
「本当に侯爵様に吹き込んだんですね…ビーノ様。」
「あ!通してもらえるの!?」
「はい、侯爵様の権限で通して貰えます。」
よし、これで、ロマンの塊、要塞都市に入れるわね。
ワクワクするな〜
しかし、
「交易都市の中に入ったら、まずは宿屋に向かってください。」
サフィーが余計な事言い出した。
ローケンは、微笑んで
「分かりました。」
私は見逃さなかった、ローケンの目には、私を哀れむ色があった事を…
「ちなみに、我々専用の宿があるのですが…どうします?」
「空き部屋があるの?」
「はい、十はあった気がします。」
私がサフィーに目を向けると、サフィーは目を輝かせていた。
「じゃあ、そっちでお願い。」
「分かりました、ごゆっくりお楽しみください。」
どういう意味かは、質問しないでおく。
そして、検問を終えて街の中に入る。
街はあった。
しかし、目に見えて治安が悪そうだった。
「壁周辺は、スラムか、治安の悪い街しかありませんよ。常に衛兵が歩き回っているので、小さな犯罪はすぐに捕まります。」
小さな?
何か含みのある言い方ね…
「街には、犯罪集団が数多く存在します。賄賂等で、衛兵から逃れたり、スリの常習犯を衛兵に付き出す代わりに、見逃してもらったり…腐敗している所もありますね。」
犯罪集団が衛兵と癒着するのはよくある話しだ。
不思議じゃない。
「壁は幾つあるの?」
「全部で4つですね。中央に貴族街。次にお金にかなりの余裕がある者たちが住む、上級街。お金に余裕がある者たちが住む中級街。普通、という感じの者たちが住む下級街。貧しい者、後ろめたい事がある者たちが住む貧民街。こういう分け方がされています。」
何と言うか、本当にこんな作りの街があるんだな〜って感じね。
「ちなみに、ローケンの店はどこにあるの?」
ローケンはどこで、商売をしているのだろうか…
「貴族街に2つ、上級街に2つ、中級に5つ、下級街に3つ、貧民街に4つですね。」
「16もあるんだ…」
相当な利益出してるよこの商人。
というか、コンビニみたいな数あるね。
今は、何処に向かってるんだろうか?
「宿はどこにあるの?」
「貴族街ですよ。」
「え?」
貴族街?貴族が住んでるんじゃないの?
「貴族の館が多いだけで、お金のあるもの、商人や上級冒険者等は、貴族街にいますよ?」
なるほど、貴族専用ってわけじゃないのか。
それでも、金が掛りそうだけど。
それから、街並みを眺めること三十分。
やっと宿に着いた。
「やっと着きましたか…」
サフィーがうんざりしている。
「そう?私からすれば、もうって感じだけど?」
「ほとんど変わらない街並みを見て、何が楽しいんですか?」
サフィーには、この良さが伝わらないか…
そんなサフィーの為に私がいっぱい街のこと調べて、連れ回さないと!
「にしても、」
私は、もう一度宿を見て。
「これ本当に宿なの?」
私には、ただの豪邸にしか見えない。
確かに、そんなに多くの人が泊まるとは思えない。
従業員も、来るとすれば貴族街の2つからだろうし。
それなら、ホテルみたいにする必要は無いだろう。
だからって、貴族がいそうな豪邸にする必要はあっただろうか?
「さぁ、お二人共、付いてきてください。」
私達は、ローケンに連れられて、寝室に向かった。
「ここがお二人の部屋です。」
「ひろーい!!」
「高級ホテルのスイートルームみたい…」
サフィーは、興奮して飛び跳ねてるし、私は、目の前の光景に開いた口が塞がらない。
「ベットもふかふかね。枕なんて、日本の低反発枕と変わらないくらい柔らかい…」
もしかして、勇者が関わってるのか?
「それは、三百年前の…」
「やっぱりね。」
ローケンが熱く語っているが、興味ないので聞いてるふりだけしてる。
三百年前の勇者…本当に何者なんだ?
後世に影響を残し過ぎでしょ。
ん?
ん~~?
「ねぇ、ローケン。」
「はい!」
「これは?」
私は、物凄く見覚えのある物を見つけた。
「魔導ドライヤーですね。魔石をエネルギーにして、熱風を送る魔道具です。」
やっぱりドライヤーか…
あっちにはコンロが…コンロ!?
「あれは、魔導コンロですね。さっきの魔導ドライヤーもそうですが、これらは、偉大なる天才魔道具師、“ツクル”様が考案なされたものです。」
魔道具師ツクル…絶対日本人だ。
おそらく、三百年前の勇者の一人だろう。
「そいつは、勇者の一人よね?」
「そうですね。ツクル様が考案なされた魔道具は、数多く存在しますが、そのいくつかは、廃れてしまっています。」
廃れる?
現代科学の結晶たる、家電製品を、ファンタジーのエネルギー、魔力で動くようにした物が?
「確か、銃?でしたっけ?あれが最たる例ですね。」
「は?」
銃が廃れた?
そんな馬鹿な…
誰でも、お手軽に強くなれる、現代科学の結晶である銃が廃れた?
「昔は軍隊で使われていたそうですが、今では、あまり使われていませんね。」
は?
使われていたのに廃れた?
魔法で強化された銃なんて、チートだと思うけど…
「銃は、魔力の消費が激しいんです。個人の魔力だけでは戦争の際にまかないきれず、魔石を使う必要があります。」
魔力消費が激しい…
「魔石を戦争に使うと、魔石の価格が高騰します。魔石は魔道具に必須の物です。高騰すれば、魔道具が使えなくなり、生活が苦しくなります。」
なるほど、魔道具を使わない平民には、影響は少ないだろうけど、貴族や金持ちは戦争の弊害をもろに受けるのか…
「逆に、魔力を大量に持つ者からしてみれば、銃以上の火力を魔法で出せるので、あまり意味がありません。何なら、魔力の消費が激しい銃は、ハイコスト・ローリターンなんです。」
確かに、魔法で絨毯爆撃ができる私からすれば、そんな武器使い物にならない。
魔導銃じゃなくても、強力の個相手では、効果が薄いだろう。
ドラゴンなんて、劣化ウラン弾を使った対物ライフルでも出さない限りまともにダメージを与えられないだろう。
銃が廃れるのも納得ね。
ん?急に寒気が…
「お姉様、いつまで話してるつもりですか?」
サフィーが不機嫌そうに話し掛けてくる。
「わ、私は店の様子を見てきます。」
冷や汗だらだらのローケンが走り去っていった。
「フフフ、これで邪魔者はいなくなりましたね?お姉様♡」
何故か、冷や汗が止まらない。
そして、私はサフィーという名の猛獣に捕まった。
結局、一睡もさせてもらえなかった。




