アニエスと橋の上
「ま、そんなことがあってね」
「なるほど……」
おじさんと共に、深くうなずく。
「「それで性に目覚めたっつーわけか」」
「なんでよ」
俺の『なんでもします』プラカードを持ったまま、アニエスは即座に突っ込みを入れた。
「でも、同じ事件がきっかけになって”しだん”の二人が出会うなんてねぇ」
まったくおじさんの言う通りだ。
貴族の手柄のために無理やり連れて来たモンスターがきっかけで、こんなことになるなんてなぁ。
士団だけじゃなく、魔術師団の方も結構根深い立場の利権化が起きてやがんだな。
「まあそれはそれとして、そのプラカードは返せ」
「……なんでよ」
アニエスは不満そうな顔で、プラカードを抱きかかえる。
「年端もいかない娘が『なんでもします』なんて書いたカード持ってたら、どんなヤバいやつが声かけてくるか分かんねえだろ」
「どういうこと?」
「本当に性に目覚めることになるに決まってんだろ」
「な、何言ってんのよ。いやらしいわね」
このアニエスって子、見た目はかなりのもんだ。
どちらかというとスラリとした体形に、意外とある胸。
長めの髪は後頭部で一つに結んでる。
世間的には、絵にかいたような金髪碧眼のご令嬢ってところだろう。
中身がどんなか知らねー以上どうってことはねえけど、はたから見る分には十分過ぎる目立ち方をしてんだから、何が起こるか分かったもんじゃねえ。
「いいからそいつは返せ。俺には今夜の寝床が必要なんだよ」
「それは私もだって同じよ」
看板を守る様に強く抱きしめるアニエス。
そのまま二人『なんでもします』看板を引っ張り合う。すると。
「あ、あのぉ……はあはあ」
呼吸を荒くした一人の男が、俺たちに声をかけて来た。
「な、ななな、何でもしてくれるって、ほ、ほほほ、本当?」
ほら見ろ。息を荒くした見るからに変態な男が来ちまったじゃねえか。
「ま、そういうことだな」
「ちょっと貴方! 何勝手なこと言ってんのよ!」
まさかの事態に、慌てふためくアニエス。
「だから言っただろ? 生半可な覚悟でこの札を持つんじゃねえって。大変なことになるぞ。こういうタイプは本当に青少年にはお聞かせできないレベルのプレイを要求されるんだからな」
まったく、これだから素人は……。
顔を青くするアニエスに呆れながら、プラカードを奪い返すと――。
「それじゃあ……フヒヒ、よろしくお願いしまぁぁぁぁーす!」
男は官能的な舌なめずりをしながら、興奮に震える手を――――俺の肩に乗せた。
「…………はい?」
「あんたみたいなの……大好き」
ダッ!!
最高のスタートダッシュを決めた俺は、限界を超えた速度で街中へと逃げ込んで行く!
「ふひひ、恥ずかしがり屋さんなんだから。でもそんな羞恥心、すぐにめちゃくちゃにぶっ壊してあげるからねぇ」
ヤバイ! 何がヤバイってかつて大物魔族に火炎系最高の秘術を撃たれた時よりも盛大に鳥肌が立ってる!
本能が、本能が俺に逃げろと言ってやがる!
「ほーら、捕まえちゃうぞぉ」
お、おいおいおい! なんだよあの速さは!
男はすさまじい速さで迫って来る。
じょ、冗談じゃねえ! 今の俺はもう誰にも止められねえぞぉぉぉぉ!
「その、なんて言うか……悪かったわね」
服を半分脱がされて帰って来た俺を見て、アニエスが申し訳なさそうにする。
「……ね、ねえ」
「なんだよ」
「ええと、その……」
「なんだよ?」
「どんなこと……されそうになったの?」
「お前はお前で興味津々なのかよ……」
「べっ、別に興味はないけど……その、一応」
もじもじするアニエス。
まさか覚悟が足りなかったのが俺の方だったとはな……この看板、少し考え直さねえと……。
俺は『なんでもします』と書いた看板に、あらためて文字を書き足す。
その結果『なんでもします。いやらしいこと以外』と書かれた、すげー半端な看板が出来上がった。
「……いやちょっと待てよ」
「今度はなに?」
アニエスが怪訝そうな顔をする。
「これだと……豊満な身体と性欲を持て余した聖女が、行きずりの俺にその欲情を向けてくる依頼が来ねえじゃねえか……っ」
『いやらしいこと以外』の部分を消すか……いや残すか……悩む俺。
「君は本当にブレないねぇ……」
それを見て、感動したような顔で言うおじさん。
「――――ちょっといいかな?」
そこに、一人の男がやって来た。
俺は思わず身体をびくりと震わせて、『いやらしいこと以外』の部分をことさらに見せつける。
「頼みたい仕事があるんだけど」
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