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元”しだん”とモンスターブル

「「試供品の配布?」」


 アニエスと声が重なる。

 場所は橋の上から移り、男が使っているのだろうイエローグレーのレンガが積まれた一軒家。

 ライトブラウンの髪を撫でつけた商人の男は、一つの木箱を持ち出して来た。

 中には、多量のビンが詰められてる。


「そう、最近アルテンシアの一部で話題になってる栄養ドリンクなんだけどね、これを王城前広場で配ってほしいんだ」

「なるほどなぁ」


 ビンを一本取り出してみる。するとそこに書かれていた商品名は――。


「モンスターブル……」


 こ、この安易なネーミング、完全に転移者の仕業だな。

 おそらく転移者が個人的に作った物にこの商人が目を付けて、レシピを譲り受けた。

 そんなとこだろう。

 本当、こっち方面の転移者は自由にやってんなぁ。


「二人もちょっと一口飲んでみてよ」


 男が金属でできたフタを開けると、プシッ! と心地よい音が鳴った。

 牛が爪で引っかかれてるロゴのそれを手に取って、さっそく口を付けてみる。

 口中に広がっていく強烈な炭酸。

 あ、ああ……ああああ! 懐かしいなぁこの感じ!


「これが疲労回復や眠気覚まし、集中力の向上になるんだよ」

「ふーん、それはすごいわね……ちょっとお手洗い貸してもらえます?」


 部屋を出て行くアニエス。


「これを配るだけ?」


 アニエスが戻って来るのを待って、男に問いかける。


「もちろん。配布量に応じて報酬の上乗せもするつもりだけど、どうかな?」

「「やります!」」

「んーでも二人か。一人いてくれれば十分なんだけどなぁ……」


 男の言葉に、俺たちはすぐさま立ち上がる。


「こんなお嬢より俺の方が圧倒的に修羅場を潜り抜けてるんで! 絶対使えます!」

「そんなことないわ! こういう仕事は身ぎれいさが大事なはず! こんな気の抜けた髪ボサ男には務まらないわ!」

「この髪は計算だから。親近感を覚えさせるための演出だから。本気の俺はぴっちり七三分けだから!」

「私だっていざという時は七三よ!」

「あはは、それなら今回は思い切って二人に頼んじゃおうかな。それで数多くさばけた方には今後もお願いしちゃうって感じで」


 今後も仕事がもらえる?

 その言葉に、自然とにらみ合う俺たち。

 こんなおいしい仕事、絶対に譲れねえ……っ。


「配布の際には専用衣装を着てもらうことになってるから、それに着替えてね」


 早くも火花を散らし出す俺たちに、男は紙袋を二つテーブルに置いた。


「それじゃそろそろ工場の方に行かないといけないから、配布の方よろしくね。報酬は明日にでもここに来てくれれば」

「「はい!」」


 事務所を出て行く男。


「負けないわよ」


 アニエスはさっそく衣装袋に手に伸ばす。

 勢い勇んで中身を取り出して――。


「なに……これ」


 そのまま硬直した。

 専用衣装を手に、身体をプルプルと震わせ始める。

 テカテカな素材で作られた胸元だけを隠すタンクトップに、ホットパンツ。

 そして胸元にはモンスターブルの文字。

 これあれだ。イベントの時に立ってるコンパニオンというか、ラウンドガールというか。

 とにかく、この世界にしては結構攻めた格好なのは間違いない。


「こ、こんなのを着て……街中に立てっていうの?」

「なんだ、できねえのか?」

「できるわけないでしょう! これでも一応貴族の三女なのよ!? それがこんな……」


 へそ丸出し、太もも全出し。


「その程度の覚悟しかねえんだったら、この仕事は俺のもんだな。言っとくが手加減はしねえぞ」

「でも、こんなの……っ」

「それが仕事をするって言う事だ。覚悟なき者に仕事はできねえのさ。何でもします(いやらしいこと以外)の看板はウソだったのか?」

「くっ」


 衣装を手に悔しがるアニエス。

 よし、俺もこの隙に着替えてしまおう。

 こういうところからしっかり、仕事への意識の違いを見せておかないとな。

 しょせんは修羅場を知らない小娘よ。人生の経験が違う。

 俺は意気込んで、紙袋から衣装を取り出した。



 ――――テカテカのへそ出しタンクトップと、ホットパンツを。



「アニエスのとまんま同じじゃねえか!!」


 あ、あ、あの商人…………渡す衣装を間違いやがったな!!

 まさかの事態に驚愕する俺。

 その肩にポンと、優しく手が乗せられる。


「……貴方の覚悟、見せてもらうわよ」

お読みいただきありがとうございました!

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何卒よろしくお願いいたします!

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