暇人と冒険者ギルド
「くあーあ」
思わず大あくびが出る。
「暇ねぇ……」
元モンスターブル事務所だったレンガ建てに家具を運び込んで、はや三日。
もともと荷物がほとんどなかった俺は、少ない手持ちで適当に雑貨をそろえて終了。
それ以来ずっと暇だった。
おかげで十回もドスケベ聖女アンソロジーを読み込んでしまった。やっぱ、最高だ。
「まあ、看板も知名度もない状況じゃそうそう仕事は入ってこねえわなぁ」
「さすがにお金も尽きそうだし、何か仕事をしないと……」
そう言いながらペタペタと俺の頭を撫でるアニエス。
貴族だけあって、寝癖が気になるんだろう。
すでに俺の手持ちは僅少。
アニエスも実家への仕送りで僅少。
どうしたものかと話しながら街を歩いていると――。
「あれ、ここは確か……」
どこか北欧のロッジを思わせる建物が目に入る。
あせた赤い色の屋根には、見覚えがあった。
「冒険者ギルドじゃないか? なあ、ギルドなら仕事があるかもしれないぞ」
「それってあれでしょう? 冒険者たちが仲間を集めて一緒にクエストを受けるっていう。本で読んだことある」
ギルドか……いいな。
転移者としてこっちに来た俺は、仲間も同じタイミングでこの世界にやって来た転移者たちだったから、ギルドにはほとんど来たことがない。
「きっと老若男女問わず、いろんな冒険者で賑わってんだろうなぁ」
重厚な装備の剣士、凄腕の盗賊、生意気な魔術師に、スケベなプリースト。
「そしてなんと言ってもその看板は、元気で勝気な受付嬢だ」
この子がギルドの華なんだよ。
「実は有名な元冒険者とかだったりするらしいぞ」
「いいわね、なんだか私も楽しみになって来た」
「ここで名をあげれば、俺たちにも直接仕事が持ち込まれるようになるかもしれねえな」
「最高じゃない! さっそく入ってみましょう!」
思わずアニエスと顔を見合わせて、勢いよく両開きの木製ドアを開く。
「「すいませーん!」」
「……ああん? 今度はどこのゴロツキだい?」
やる気のなさそうな受付嬢が、酒ビン片手に振り向いた。
「間違えました」
ドアを閉める。
おかしい。俺の知ってる冒険者ギルドと違う。
首をひねりながら、もう一度そーっとドアを開けてみる。
「……ここ、アルテンシアの冒険者ギルドで間違いないよな?」
「ああ、そうさ」
「マジか。ゴロツキ展示場じゃなくて?」
ここには重厚な装備の剣士もいなければ、盗賊も魔術師もスケベそうなプリーストもいない。
いるのは使い込まれた木製のテーブルで、カード片手に酒を飲む冒険者らしき数人の男……いや、ヤカラのおっさんたち。
「間違いないさ、ここはアルテンシアの冒険者ギルドだよ」
そう言う受付嬢も、元気で勝気なギルド嬢から元気さと勝気さを引いて、やさぐれ汁で三日三晩煮込んで鍋ごと捨てた感じになってるんだけど。
王都のギルドだってのに、こんなさびれた感じなの?
「おい寝ぐせ頭のにいちゃん。お前みたいなひよっ子にできる仕事なんて、ここにはねえぜ」
そう言って、身の丈ほどもある戦斧を抱えた筋肉質の大男が笑う。
「可愛いお嬢ちゃんも貴族に飼われる方が向いてんじゃねえかぁ? ひゃっひゃっひゃ!」
同席の細長い泥棒面も、下卑た笑い声をあげた。
「にいちゃんみたいなボンヤリしたやつには、薬草拾いがお似合いだ」
「今じゃ薬草なんて二束三文だけどなぁ! あひゃひゃひゃひゃ!」
「余計なこと言うんじゃないよ。アンタたちさぁ、ここは初めてだろ? 仕事を受けるにはまず、ギルドへ登録するためのランク試験を受けてもらわねーといけないのさ。その試験結果でFからAまでのランク付けがされて、仕事はそれに見合ったものが受けられるってわけ」
なるほど、システム的には聞いてたやつと同じだな。
やっぱりここは冒険者ギルドで間違いない。
「んで、どうするんだい?」
雑に結んだ赤毛をいじりながら、気だるげに息をつくギルド嬢。
「受ける」
何せこっちには仕事がないんだ。
「そっちの嬢ちゃんは?」
「もちろん受けるわ」
「付いてきな」
そう言って受付嬢は、ギルド奥へと続く戸を開けた。
「おい、こいつらのランクでギャンブルといこうぜ。剣だけカッコいいにいちゃんは……Eランクってとこか?」
「はっはっは! あの寝ぼけヅラだぞ? Fに決まってんだろ」
「違えねえ! そんならEランク以上だったら掛け金十倍でどうだ?」
「それでも俺はFだ、ひゃひゃひゃひゃ!」
そんなゴロツキ達には触れず、先行する受付嬢。
どうやら行き先はギルドの地下らしい。
「あいつら……見てなさいよ」
一方、煽られてアニエスは意気込み始める。
「ちなみにギルドの仕事って、どんなのがあるの?」
確かに、それは気になるな。
「そうだなぁ。ええと最近だと……あれだ」
アニエスは期待に目を輝かせる。
「なに? 要人の護衛? それとも魔獣の討伐?」
「デカビッタCのビンにヒビが入ってないかを確認する仕事」
「ヒィッ」
アニエスが、めちゃくちゃに震え出す。
どんだけ深いトラウマを背負わされてんだよ。
「ほら、ここだよ」
白目をむき、震える足で階段を下りて行くアニエス。
たどり着いたのは、闘技場だった。
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