モンスターブルと錬金術師
「わたしはエルル・ヴィルヌーヴ。錬金術士です」
モンスターブル目当ての男たちが暴れ出したことで、騒然とした王城前広場からは早々に撤収。
俺たちは残ったモンスターブルを抱え、エルルと名乗る少女のラボに来ていた。
おとなしくて、可憐。
どこか魔女帽にかぶられてるような少女の研究所は……またガラクタだらけだなおい。
下町の片隅、積まれたレンガ積みの一軒家。
そのリビングには無数の試験官やビーカーと共に、よく分からない品物が山のように置かれてる。
「なんだ、これ?」
俺が適当なものを指してたずねてみると――。
「気づいてしまいましたか!」
エルルが突然、その目をギラリと光らせた。
「それは張り付き手袋です! どんな壁や天井にも張り付くことができるという優れモノでお城の窓ふきから高山への登頂まで使える最高に可愛い一品なんです!」
一息で説明して、エルルは満足げに息をつく。
「あっ。ご、ごめんなさい」
慌てて頭を提げるエルルに、アニエスが苦笑いする。
「って、このバングルの作り……もしかして魔法威力の向上が目的なんじゃない?」
「分かりますか!? まだ未完成ですが、このバングルに埋め込んだ魔宝石によって魔法威力を向上させらるのではないかと思って! これがなかなか形にならないのですが、そこがまた可愛くてわたしは毎晩抱きしめて寝ています!」
再び鼻息を荒くするエルルに、アニエスはもう一度息をつく。そして。
「分かる!」
分かるのかよ。
並んだ数々の不思議道具に、アニエスまで目を輝かせ出す。
「待って! これって闇ランプじゃない!?」
「よく分かりましたね! 実はわたしが改良を施した特注品なのです!」
ランプを点けると、部屋が一瞬にして暗くなる。
なるほど、これが闇ランプか。
「すごい! すごいわ! やっぱり錬金術はいいわね! 魔法ではできないことが出来るものもあるし、誰にでも使える。そのうえ魔法の効果を底上げする物だってあるんだもの! これが黙っていられる!? いいえ、いられない!」
「……ククククク、フハハハハハ! いいだろう! ならば我が研究の成果たちを、ここで見せてやろうではないかっ!」
「モンスターブルの危険性はどうなったんだよ」
いよいよ口調まで変わり出したエルルが、ハッと我に返る。
「す、すみませんでした。分かってくれる方がいたので、ついうれしくなってしまいまして……」
ソファに座り直してため息をつくと、一本の薬ビンを取り出してみせた。
「これをご覧ください」
「なんだこれ?」
「強化剤です。これを混ぜて作ったモンスターブルは一気に危険度が跳ね上がります」
「危険って、どう危険なんだ?」
「異常な興奮を引き起こしてしまいます」
「異常な興奮? それって……!」
普段着に着替えたアニエスが、俺の方を見る。
やっぱり、そういうことだよな!
「ちょっくら聖女様のところに行ってくる……うぐっ」
アニエスが、俺の後ろ襟をガッツリつかんでいた。
「な、なにをしやがる」
「こっちのセリフよ。貴方こそ何をする気なのよ」
「決まってんだろ。聖女様に飲んでもらって、その目前をこれ見よがしに薄着で歩くんだ」
「だから止めたのよ」
「……ただ。興奮を促すだけではないんです。強烈な依存性も持っています」
「なるほど、その結果があの男たちの異常行動ってわけね」
「はい。一度口にしてしまうと、もう止められなくなってしまうんです」
プシッ!
「それで次からは、買おうと思っても価格を吊り上げられていて、お金を工面するのに揉めるっていう流れなんでしょう?」
「その通りです。しかも強い興奮は狂暴化まで引き起こして……」
「ひどいやり口ね。単純な飲み物だからかなり手に入れやすい。それでいて抜け出すのは難しい」
「ああ、絶対に口にしちゃいけないやつだな……ごくごくごく」
「ええ、絶対に……って、ちょっと何やってるのよ! 話聞いてなかったの!?」
プシッ!
「こんな危ないものよく平気で口にできるわねごくごくごく」
「そんなこと言われても、もうどうにもごくごくごく」
「分かってるならやめなさいよごくごくごく」
プシッ! プシッ!
「「ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく」」
「これが……モンスターブルの恐ろしさです」
「そうか……っ! 考えてみれば俺たちも事務所で飲まされごくごくごく」
「私たちもハメるつもりだったってことなのごくごくごく」
「ど、どうしよう! これマジで止まんねえぞごくごくごく」
なんてごくごく、なんて強烈な依存性なんだごくごくごく。
「……こちらをどうぞ」
奪い合うようにモンスターブルを吸いこんでいく俺たちに、エルルはグラス入りの透明な液体を手渡してきた。
「鎮静剤入りのモンスターブルです」
それを一気に飲み干すと…………なんだ? 気分が落ち着いてきたぞ。
「た、確かにこれは危険な飲み物ね。でも、どうしてあなたがこんなものを?」
正気を取り戻したアニエスが問いかけると、エルルは悲しそうに目を伏せた。
「……わたしが悪いんです」
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