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【第9話:経済の罠】

市場の中央広場。

俺は兵士に囲まれたまま、群衆の前に立たされていた。


ベルクが勝ち誇った顔で叫ぶ。

「見よ! この小僧の倉庫から密輸品が出てきたのだ!

庶民に甘い顔をして裏では不正を働く――実に卑劣だ!」


群衆の間にざわめきが走る。

「そんなはずない!」

「けど……証拠があるんだろ……?」



リオが必死に俺をかばおうとするが、俺は手で制した。

「いいさ。……ちょうどよかった。これで俺の“反撃”ができる」


ベルクが眉をひそめる。

「反撃だと?」


俺はゆっくりと口を開いた。


「ベルク。お前が俺の倉庫に仕込んだ“密輸品”――それは珍しい香辛料だな?」


ベルクの顔が引きつる。

「な、何を……」


「だが、間抜けなことをしたもんだ。

この町では、その香辛料は“昨日入荷したばかり”なんだよ」



群衆がざわめく。

俺は続けた。


「俺の倉庫は市場の外にある。昨日の夕刻にはすでに封鎖され、兵士が見張っていたはずだ。

つまり――その密輸品を“持ち込めた”のは、見張りをしていた役人側だけだ」


ベルクの額に汗がにじむ。

「ば、馬鹿な……!」


「さらにもうひとつ。俺は毎日の取引を“帳簿”につけている。

仕入れ、売上、在庫――すべて市場価格と一致するよう計算済みだ。

香辛料を密輸していたのなら、その収支に“矛盾”が出るはずだ。

だが、俺の帳簿には一切の不正がない」



俺は懐から一冊の帳簿を取り出した。

群衆の前でページを開き、数字を指差す。


「これが俺の取引記録だ。誰でも計算して確かめられる。

……逆に言おう。矛盾が出たら、俺が潔く牢に入ろう」


広場は静まり返った。

やがて数人の商人が前に出てきて、俺の帳簿を確認し始める。

「……本当だ。計算は正確だ」

「密輸なんてできる余地はないぞ!」


群衆が一斉にベルクを睨む。



「……さて、ベルク。

お前は俺を“密輸商人”に仕立て上げようとした。

だが、証拠はすべてお前自身の首を絞めるものになったわけだ」


ベルクの顔が真っ青になる。

「ま、待て……これは誤解だ……!」


だが庶民たちの怒号が広がる。

「役人が罠を仕掛けたんだ!」

「腐敗者を追い出せ!」


兵士たちすら動揺し、ベルクの命令に従わなくなっていった。



俺は静かに言い放つ。

「経済は嘘をつかない。

金の流れを追えば、必ず真実が見える」


その言葉に、群衆から大きな歓声が湧き上がった。

こうしてベルクは失脚し、俺は“経済の知恵で役人を退けた商人”として、一層名を広めることになったのだった。

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