表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

(無題)

全てがバターの泡となり、溶けきったかに見えたその瞬間――

一つの泡が弾けずに残っていた。

その泡の中で、ムーンフィッシュ博士は目を開けた。

目の前に広がるのは、宇宙そのものが巨大な目玉焼きと化した光景だった。


「これは……何だ……?」


博士は呟いた。

だが、その声は音としてではなく、空間そのものの歪みとして伝わった。

彼の言葉が放たれるたび、目玉焼きの黄身が波打ち、白身が銀河のように回転を始めた。

ケルベロス・オルガンの音が再び響く――

だが今度は音ではなく、香りとして漂っていた。

それは焦げたトーストと湿った布団の間の匂いであり、意味のかけらを内包していた。


「博士……!」

パスタの断片となったマカロニ大尉が泡の中から声を絞り出す。

「俺たちは……どこにいる……?」


博士は振り返り、理解する。

「ここは……概念の底だ。」

「概念の底……?」


「そうだ。意味、物質、時間、音、全ての『存在』が解体され、ただ概念だけが残る場所だ。

俺たちは今、オムレツの定義の中にいる!」


その瞬間、巨大なフォークが宇宙を貫き、目玉焼きの黄身をぐしゃりと潰した。

液体が溢れ、空間全体に広がる。

それは言葉であり、数字であり、色であり、「バターは真理の証明である」という文章だった。

ナマズ・オブ・ザ・デッドの声が響く。


「お前たちはまだ理解していない。

理解しようとする行為そのものが、理解を不可能にしているのだ。

バターになるか、消えるか、選べ。」


博士は震える手で、泡の中の最後の粒子を掴んだ。

「俺は選ばない。選ぶという行為すら、もう意味を持たない!」

ケルベロスが笑う。

マカロニ大尉のパスタが涙を流す。


そして、宇宙が再び反転した。

全てがオムレツの中心に吸い込まれていく。

博士たちは渦に巻き込まれ、

「バターとオムレツは同義である」という数式の中を、永遠に落ち続けた。


そして、物語は続く。

理解を拒む世界の中で、博士たちはまだ、意味を探し続けている。

なぜなら、意味のない場所でこそ、意味がもっとも美しいからだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ