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76、祭りの終わりと480万円の武器セット

皆を見下ろせる屋根の上、ルーフスさんと一緒に並んで腰を下ろす。


「あっはっは!濃縮1000%梅酒は誰が飲むのかしら?」


「負けないよ〜!」


「こっちは運の勝負なら負け知らずでね。」


賭けポーカーに興じるタマさんとシロさんハクさん、クニークルスさん。お酒を片手に調子の良いメリーさんに絡まれながらも、ロゼさんはモモコさんと何やら話し込んでいる。


「なかなか飲める奴だな。」


「兄貴ィ、まだまだこっからですぜ。」


「ふん、かかって来い。」


瓶を両手にイトウさんへ迫るイシダさんとコバヤシさんは男同士飲み比べに燃えていた。タマモさんとセルペンスさんも色々話しながら、ちょっと打ち解けた雰囲気になってるし皆祭りの宴会を楽しんでいるみたい。ブランさんはまだ来てないのかな?全部の屋台を回る気らしいし、楽しんでいるといいんだけど。


「見て。」


ルーフスさんはボクの肩を叩き、魔女帽子を脱いで頭を見せる。そこにあったのは小振りながらも太く強靭な角。R.A.F.I.S.Sの感知反応で分かってたけど、やっぱり亜人さんだった。


「オーガ。その中でも怪力のギフテッド持ち。腕は細いのに、片手で大男も投げれる。」


ギフテッド持ちだったの?!強化外装の性能もあるとはいえ、あんなに大きいヘビーカーボンを纏って身軽に動けるあたり凄い力だよね。


「大きく動かす時は加重のマギアーツで体重を増やす。だけど振り回すのには強化外装の力だけゃ足りないから。頑張ってる。」


ヘビーカーボンは超重量で知られるアダマンタイト繊維で作られた極めて強靭な工業用素材。そんなものを纏って動き回るなんて普通は考えられない。薙がれただけで並の強化外装じゃ真っ二つにへし折れちゃう。


ちょっと得意げなルーフスさんは魔女帽子を被り直し、んふ、と鼻を鳴らす。そして片言気味な口調で続けた。


「私、故郷の街では一番力持ちだった。特別な存在。普通のオーガとは筋肉の性質が違う。街で一番強かったけど、居場所無かった。」


強すぎる力は不和を生む。オーガはより力の強い者がイニシアチブを持つけど、それが小さな女の子だと多くの妬みを買った。結局冤罪で街からの追放を目論むならず者達から、通りすがりのウィッチワークス旅団の面々が救ってくれたみたいで。嵌めた奴らに1発ずつ拳を見舞った後に旅団に付いて行くことにした。


「ラフィに初めて会った時、側に居るだけで分かった。ラフィも特別な存在。私よりももっと特別。だから仲良くなりたいと思った。」


そうなんだ。でも、ええと。最初に会った時いきなり結婚しよだなんて言うし。


「人間の恋愛、面倒。気に入ったらオーガは即決即断。スキ、だから結婚する。おかしい所無い。」


「人間的にはおかしいですっ!まずはお友達からですって。」


ジト目でボクを見やるルーフスさん、恥ずかしくて慌てるボクの顔をまじまじと見てくる。


「うん、可愛い。スキ、結婚しよ。」


「まだ子供ですからダメです!」


ボクに手を伸ばすルーフスさんから、ひょいと抱き上げて腕の中に避難させるブランさん。いつの間に合流してたんだ。


「ニホンコクには婚姻の義務、出産の義務がありますがラフィ様はまだ婚姻時期まで当面の時間的猶予がありますので。当機がそれまで貞操を管理させて頂きます。」


飛んできたビール瓶を頭を逸らして回避する。


「な〜に訳わかんない事言ってるのよ!アンタはただの従者よ!」


酔ったタマさんは屋根の上に向かってヤジを飛ばした。


飲んで食べて祭りの熱気を楽しんで。そして宴もたけなわに笑い声を通りに響かせながら各々のタイミングで解散、その日を終えていった。


その翌日。


タマさんに呼ばれ、新しい武器を買うよう言われた。事前にお金は貯めておいたし足りるかな?ここ最近は大きな依頼を受けていないせいで貯金が心許ないけど。前買ったばかりなのにまだ色々必要みたい。今度はボクの貯金で買えるかな?


ブランさん、モモコさんが興味本位で付いてくる。今日は外出の予定が無いのと、お祭り後の街を自警団と見回りする為に組合警察の二人は今は居ない。


応接室にはソメヤさん、目元を隠すアイバイザーには『いらっしゃいませ』との文字が流れていた。


「よっ!しっかし熟練開拓者でもこんなペースでどかどか新兵器買い込む奴なんてそう居ないぞ?歩く武器庫でも目指してんのか?」


冬だというのにアロハシャツ一枚なソメヤさんは楽しげに笑い、


「今回の雪合戦でラフィの弱点が色々見えたからね。何与えても使い熟せるって頼りになっていいわよ。」


タマさんも尻尾でボクの背中を突いた。


「今回は在庫のあるモンだから即日対応出来るぜ。あんまし使いたがる開拓者はいねぇけどな。」


そう言って並べられた武器はまるで平たいバット6本。分厚く重量感があって、側面が黄と黒の虎縞模様になってる。はぇ〜って見下ろすボクはソメヤさんの説明を待った。


「こいつは純粋な質量兵器、まぁ質量兵器ってカテゴリ内じゃ軽量タイプだが。事前に伝えられてたミニフィーってのでもギリ取り回せるやつだ。タイタンフィスト社が送る、ダマスカス鋼製、特殊警棒“虎薙”だ。実際に背広組の奴らが使ってるモンと同型の武器さ。民間向けに細かい調整がされた代物で、初心者向けの手軽な質量兵器としてオススメだ。」


ま、組合警察の武器を好んで使う開拓者はそう居ないがな。


と、ソメヤさんは苦笑した。


「ダマスカス鋼製だからとにかく頑丈、どんなに無茶な使い方しても曲がりもしない。重量はクラスC規格。まぁ大抵の強化外装なら問題なく取り回せる。」


ダマスカス鋼は超重量で有名なアダマンタイトよりも軽い。あくまで比較すれば軽いってだけで、質量兵器にも工業用素材にもなる重量のある素材だった。アダマンタイトは高価だけどダマスカス鋼は比較的安価。値の上がりやすい質量兵器の中でも、リーズナブルなお値段の兵器に使われていた。


規格?と、疑問なボクの様子にモモコさんがちょいと説明を挟む。


「ふふん、強化外装ごとに出力が違うってのは分かるよね?より品質のいいやつだと重量物が持ち上げられたりとかさ。質量兵器ってのは文字通り非常に重たい武器だから規格分けされててね。規格に合わないやつはそもそも持ち上がらなかったり、故障の原因になるから使えないんだ。基本はAからDまであるね。そもそも質量兵器を持てる強化外装の規格が最低でもC以上なんだけど。」


そこにサッとブランさんが補足を。


「ラフィ様、別に出力規格が高い=戦闘能力の高い強化外装という訳でもありません。工事現場で使われるパワーアーマーの類も規格で言うならクラスAですし。そもそも質量兵器を使用しない前提ならクラスCあれば十分です。膂力の出力が低くとも、防御性にリソースを振った物の方が一般には好まれます。」


ボクの着ている強化外装もクラスCだっけ。クラスが高ければ高い程良い訳じゃなさそう。確かに出力過剰だと、一挙一動に気を配らないと周囲を破壊しちゃいそうだし。

そういえばまとめサイトの記事でよく強化外装の理想の出力規格について議論されてたっけ。クラスSSSSランクの強化外装が最強って書き込みに総ツッコミが入る流れは知っていてもちょっと面白い。実際にあったら文字通り小指一つでビルが倒壊しそうだし、出力が高過ぎて歩く事もままならそう。


解説どうも、とソメヤさんは苦笑し説明を続けた。


「虎薙は伸縮自在でね。最大5mまで伸ばして使える。射出速度は時速130km。瞬間的に最大速で伸びるから注意な。クラスC規格の強化外装なら反動にも耐えられる。ダマスカス鋼製だからとんでも出力でもなきゃ光学兵器で焼き溶かす事は出来ねぇ。ま、貫通しねぇから遠慮なく盾にも出来る。ただ、盾は別に注文受けてるんでな。ほらよ。」


そして追加で並べられた半透明な大きな盾6個。ボクの身長と同じくらいだけど、持った感じかなり軽い。


「ムラマサ工房製、空間固定式ミスリルシールド。液化ミスリルで塗装したシールドだ。軽く、光学物理両方への防御性能が高く、使用時に空間へ座標固定するから無衝撃。防いだけど衝撃でぶっ飛ばされたりするのを防げる。遮蔽代わりに使っても、突撃のお供にも。」


モモコさんもひょいと盾を持ち上げて翳し、


「どっちも背広組の連中が正式に採用してる装備だよね。」


なんて言った。使ってる姿は見た事ないけどメリーさんとロゼさんも持ってるのかな?


「んで、虎薙は一本30万。ミスリル盾は一個50万!計480万円!お買い上げどうも!」


高性能な銃器類よりかはだいぶ安いけど、それでも結構する。あれ?うう、孤児院にいた頃はこんな金額一生縁がないと思ってたし。金銭感覚が変わってきてる。シティで普通に暮らしている大多数のヒトからすればこんな金額の買い物、一生の内にそう何回もしない。そんな買い物をボクはパパッとスマイルで決済してしまった。


誰もが一度は開拓者に憧れ、初期投資の費用を捻出出来ずに現実を見て諦めてしまう。安全なシティの外で命を天秤に掛け、対価として大金をやり取りする。タマさんのお陰で憧れた世界に踏み出せた事の幸運を、しみじみと金額を聞いて噛み締めたのだった。

短いお話ですが17時頃に次の話も更新予定です

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