62、小さなボク達のいる生活
地面に手を付いて皆を見回すミニフィー達は、ボクの脳波に反応してぴくぴくと頭のアホ毛を動かす。ボクの視線がタマさんを向けば、ミニフィー達の視線もタマさんの方へ。そのままおもむろに立ち上がりタマさんにてくてく歩み寄ってわちゃわちゃと纏わりつく。
あっ!そうじゃないって!記憶の一部が戻って、新しい事が出来るようになったから後で褒めて欲しいな。
なんてふんわり考えていた事が動作に反映されてしまった。ミニフィー達はあくまでボクの子機であって自我はない。ラジコンみたいなもの。簡単な命令を与えて遂行させられるけど、ボクの感情がそのまま所作に反映されちゃう欠点もある。
「ら、ラフィがたくさん‥‥!ふ、ふふふ、何よ?甘えたいの?」
ニヤケきった顔のタマさんが両手をわきわき。ぴゃいっ?!と反応したミニフィー達が一斉に逃げ出そうとするも、伸ばされた両腕が2体のミニフィーを抱き上げてしまった。きゃーっ?!って風にじたばたするも非力な抵抗虚しく、次第に諦めてスン‥‥と大人しく身を任せる。
いつも通りのタマさんとのやり取りを見せられ気恥ずかしさにむずむずするボクは、興奮気味に説明を求めるオチヤマさんに知っている事を語って誤魔化していたのだった。
「ふぅむ、生体ゲルかぁ。生体ゲルはまだ途上中の技術でね。まだまだ医療用ぐらいにしか使われていないんだ。しかしラフィを産み出した組織は生体ゲル技術に随分お詳しいようだ。」
生体ゲルは元々医療用の万能細胞から発展した技術って話だけど、設計図に通す事で生物すらもゲルから生み出せるんじゃないかって思想で研究されている。そう聞くとちょっと怖い技術かも。
一応医療分野では一部生体ゲルが使われ出しているから、伝手があれば補充は難しく無いと思う。でも結構お金かかりそうだなぁ。ユリシス内に収納すれば再利用出来るけど、折角出したミニフィー達をすぐにしまっちゃうのは勿体無いって感じていた。
「一応ラフィの癒しの力を感じるわね。まぁ、オリジナル程じゃ無いけど。」
「ミニフィーはボクの力を遠くに伝播させる為の中継機として機能します。ボクに接続されていれば癒しの力を周囲に振り撒く筈です。」
ふと思い出した記憶とはいえ、さっきまで知らなかった事をつらつらと説明するのは不思議な気分。余ってふらふらしていたミニフィーはオチヤマさん達に囲まれて色々調べられ、残った一体は何となくボクの隣で待機させていた。
一回り小さいボクはほっぺを触った感じすっごいぷにぷにな肌触り。自分よりもぷに感が強い。服の材質もちょっとすべすべする感じで、見た目を真似ているだけで強化外装としての機能などは引き継がれていなかった。でも一応体そのものにマギアーツが仕込まれてるから、戦闘を踏まえた一通りの動きは出来る筈。
口元に手を翳してみても呼気を感じないし、首を触ってみても脈を感じない。見た目はすっごい似てるだけに材質が生体のラジコンって、不思議な雰囲気だった。
意識すればふりふりと体を振ってミニフィーが踊り出す。軽快なステップもお手のもの。ぽんっと手渡した帽子を指先でくるくると回してウインクを送った。
「な、なぁ。ラフィ。」
応接室のドアを少しだけ開いて覗き込むモモコさんが口元をふにふにさせてミニフィーを指差す。
「僕に売ってくれたりとかしないか?金ならあるぞ。」
「非売品ですっ。」
そうだ、胡蝶之夢のタマさんの部屋の前で警備してるロゼさんにも見せてみよう。お使い中のブランさんは帰ってくるまでお預けかな?えへへ、驚くだろうな。
応接室の皆がミニフィーに夢中になっている間に、ボクはこそっと部屋を抜け出した。
パンタシアを抜けると掃除だけ済まされて生活感の無い部屋に足が着く。ミニフィーを操ってドアの向こうへ向かわせた。
「あっ。出かけるんですか?」
廊下からロゼさんの声がした。ミニフィーとは視界を共有出来るお陰で、ボクを覗き込むロゼさんと目が合った。
「‥‥っ!‥‥っ!!」
発声機能の無いせいで答えられないミニフィーは両手をバタバタさせて精一杯アピールする。そんな様子にロゼさんは疑問な声を出した。
「どうしました?ええと、何というか。背が縮みました?それにこのアホ毛。」
伸ばした指がアホ毛に触れるとふわりと指先が沈み込み、触手のように動く毛先がくるくるっと急に巻き付いて指先をぎゅうっと巻き締める。ひゃわっ?!というロゼさんの驚愕の声が廊下に響き、一度引っ込めた指先が再びアホ毛の塊に沈んでいく。
アホ毛がクリクリと突き回され、毛先がきゅうっと巻き付き、すっごいニヤニヤ顔でロゼさんがミニフィーを弄り回す。そんな様子を部屋のドアの隙間からジト目で覗き込んでいた。
ミニフィーは玩具じゃないよ!あっ!服の下に指を入れるのはだめぇ!
慌てて後ろから飛びつくボクに、ロゼさんは更なる驚愕の声を上げて廊下を騒がせたのだった。
「ラフィ様。更なる拡張機能の入手、まずはおめでとうございます。」
興奮冷めやらぬロゼさんにミニフィーとセットで抱かれたままのボクに、お使いから帰ってきたブランさんが一礼。軽快な音のクラッカーを無表情で鳴らして祝福する。
「あ、はい。」
クラッカーの音にびっくりなボクはミニフィーと一緒にピクリと反応し、クラッカーに変化したブランさんの指先に目線をやった。そんな機能もあったんだ。
「ラフィって結局何者なのですか?バトロイドでは無いですよね。」
「ただの天使のような美少年です。」
疑問なロゼさんは澄ました顔で適当に流すブランさんをジトっと睨む。ボク自身もよくわかってないから仕方ない。いつもお人形さんみたいに抱き抱えられてるせいで、愛玩動物なんじゃないかと不安になったりもするけど。流石に人型ペットだなんて倫理的にもアウトな代物の話なんか聞いたことないし、こんな色々多機能にするとも思えないし、そもそもペットに戦闘力なんて持たせないし。
ちょっとだけシュンとして大人しくなったミニフィーを横目に、ボクは頭を悩ませたのだった。
ミニフィー達がやってきたお陰で週休2日のお休みを取ることが出来るようになった。ボクがお休みの時はミニフィーが代わりに控室にちょこんと座って皆を癒す。ボクに接続されていればミニフィーからは癒しの力が伝播するから代わりがこなせるんだ。
だけど。
「やっぱりラフィくんがいい!抱きしめても反応薄いよ〜!」
そんな苦情を受けるも、タマさんとブランさんがしっしと追い返す。タマさんとしてはこの街にいる間に少しでもボクに開拓者として経験を積ませたいって言ってたし、やっと取れそうな時間を守ってくれたのだった。
胡蝶之夢の用心棒としてあまり動けないタマさんに変わり、外出する時はブランさんとロゼさんに付き添われていた。
「あっ!そっちに行きました!」
ブレードランナーを駆るボクが指差した先で猫ちゃんが走る。蜘蛛の巣街の狭い家々の隙間を縫って駆ける猫はあっという間に路地裏を抜けてしまう。と、待ち構えていたミニフィーが猫に飛びつき、しかし腕の間をすり抜けてしまう。
「きゃあっ!待ってぇ!」
続いて飛び出したミニフィーが前から飛び込み、頭の上に肉球跡を残されて成果なし。そんなミニフィーの上を跨いで飛んだボクの腕の中に猫がすっぽりと収まった。抵抗されても強化外装に傷付けられる訳もなく、なんとか迷い猫を確保出来たのだった。
開拓者組合を経由することも無い現地の小さな依頼を、ちょっとずつこなしては僅かながらだけど自分で稼いだ報酬を受け取る。勿論アングルスで流通しているのは現金‥‥しかも旧ニホン貨幣。1円玉から一万円札までなんだかやたらと細かい通貨を巾着袋に入れていた。
もう都市じゃ使われていない現金だけど、これもれっきとしたニホンコクが価値を保証する公式通貨。お札の手触りが独特なすべすべ感でちょっと触っていて面白い。未踏地で仕事をする開拓者じゃなきゃ見る機会もあまりないお金にちょっとワクワクしていたのだった。
ー旧ニホン貨幣ー
お札と小銭に分かれた現金。金貨、銀貨、銅貨は亜人種が持ち込んだもので、種類多くもニホンコクはザックリ金銀銅以上の区別をしなかった。
お札は10000円、5000円、1000円に分かれ、その下に硬貨が500円、100円、50円、10円、5円、1円と続く。種類多く複雑で、何より嵩張る金は電子化に伴い重さを無くした。
ヒトはホロウインドウ上で動く数字の多寡に一喜一憂し、触れない金の価値に実感を持たず。姿の無い資産は数字の大きさでのみ尊さを感じさせた。金の輝き、重み、束ねられた紙幣の幸福感は何処へ。価値は変わらずとも、金は道具とはまた別の存在へと変質してしまったかのようだった。




