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61、ラフィ×5

アングルス、蜘蛛の巣街入り口に位置する雑多なマーケット“スパイダーヘッド”。アングルスで最も往来の多いその広場で街を揺るがす大事件が起きた。


早朝からいつも通り店の準備に取り掛かる店主達が、あんぐりと口を開けて見上げた先。広場の中央に一夜のうちに打ち立てられた一つの十字架に引っ掛けられたそれ。アングルスの街を支配する二大マフィアの片割れを牛耳る神出鬼没の怪人。


わざわざ生命維持装置を取り付けられた生首が不敵な表情で大衆を見下ろす。整った金色の髪と髭は若干の血に汚れ、その下に八つ裂かれた肢体が吊るされていた。意識などないがピクルスは最後まで笑みを絶ずに、そのままの表情で十字架に掛けられていた。


「クソが!!おい、見てねぇで散れ!今日のスパイダーヘッドは立ち入り禁止だ!どっか行けよおい!」


焦燥と怒りに身を震わせるチャガマは、まだ万全には程遠い傷付いた体を引き摺ってボスの元へ駆け付ける。直ぐに他の幹部連中も来るだろうが、このシマを受け持つチャガマが一番に来ない訳には行かなかった。


しかし民衆の表情は何処か懐疑的だ。以前ならマフィアの一声で蜘蛛の子は散って行ったのに、しかし幹部であるチャガマの一声ですらその足取りに迷いがある。値踏みされている。チャガマは背筋に冷たいものを感じていた。


今、街の支配者は誰なのか。そこに住まう人々の心の隙間に空いた僅かな風穴から、色街のボス猫が覗き込んでいた。





レイブンとの戦いを終え一先ずの平穏が帰って来た。レイブンが居なくなったお陰でボク達に掛けられた懸賞金は無くなり、その力を知った近隣の怪しいヒト達もちょっかいを掛けて来ない。ボクはいつも通り胡蝶之夢の癒し担当としてお嬢達を支えていた。


「ラフィくん、部屋の前にずっと居る護衛ってホントに邪魔〜。」


「ラフィくんを抱き枕にするだけでなんか言いたげな顔するしさ〜。真面目でツマンナイし〜。」


シロさんとハクさんに挟まれて揉みくちゃなボクは、控室のドアの向こうに目をやった。


結局組合警察のメリーさんは仕事があるって泣く泣く場を離れ、ロゼさんがボクの護衛として残った。メリーさんもこの街には居るみたいだけど、本部の方から仕事が入った以上断れない。ちょっと勝った顔のロゼさんに見送られて胡蝶之夢を離れて行った。


って、あの。そんなに胸元に頭を抱き込まないで下さい!恥ずかしいですって!


「まぁまぁ。ラフィくんの癒しを一番受けるには心臓に近い部分で密着した方がいいって分かったんだし?」


「むっふっふ、毎日抱き枕にしてるんだから研究だって進んじゃうよ〜。」


毎日密着して好きにされているけど、定期的に香水の匂いも変わる。心なしか最近はボクの好きな匂いが多くなってる気がするけど、香水について話した事ないし。どうしてバレるんだろう。


照れるボクは非力に抵抗するけど簡単に両手を握って押さえられ、ふわりと甘い匂いに包まれとろんとしてしまう。そんなボクの視線の先でドアが開き、夜空色の髪を靡かせたアモルさんが部屋を覗き込んだ。


「‥‥‥‥二人とも、指名入った。」


「え〜、今日は多いなぁ。」


「このままお昼寝したかったのに〜。」


両側の体温から解放され、惚けた頭をふりふりして座ったまま姿勢を正す。代わりに入ってきたアモルさんに手元のポットでいそいそとお茶を用意した。収納からお茶菓子も取り出し、お盆に乗せてすすっと差し出す。


「‥‥‥‥ありがとう。癒して欲しい。」


「は、はい。ええと、お身体に触りますね。」


ほっそりとしつつもお姉さんの大きな体にのしっと寄りかかる。結局抱き枕にされちゃうんだし、距離感の近さにむずむずするけど体重を預けて甘えるようにしていた。パーソナルスペースって言っていつもベタベタぺったりな感じは嫌がるヒトが多いって聞いた事あるけど、不思議とボクはペタペタするのが嫌じゃなかった。というよりいつも誰かの側にいた方が安心する。ボクがまだ小さいからって言うより、もっと本能的な欲求に感じていた。


シロさんハクさんと違いアモルさんは優しくボクの頭を撫で摩り、そっと抱き寄せて可愛がってくる。指先が髪を軽く撫でる度にちょっとだけこそばゆくて。時折くいっと指先に頭を押し付けて催促してしまっていた。


そんなアモルさんとの二人きりの時間も短く、すぐに他のお嬢達がやってくる。毎日真っ昼間から大繁盛しているだけあってお嬢達も休憩室に戻らず外で一服したりと慌ただしい。そんな中時間を作って休憩室にやってくる皆をボクは一生懸命癒すよう頑張っていた。


こういうお店って都市じゃ夜の店ってイメージだったけど、色街に昼夜の概念は無かった。ボクは夜は休みなのにね。


そんな日常座臥(にちじょうざが)の中、オチヤマさんの呼び出しを受けた。


「やあやあ、おっちゃんがラフィを呼んだのはラフィの事を色々調べたいからね。こうして来てもらった訳だ。」


そこは色々な道具が備え付けられた応接室。ボクの体の隅々まで調べる為の機材が沢山並んでいた。会釈をする白衣のヒト達もいそいそと忙しそうに動き回っている。あ、この前オチヤマさんを引き摺って行ったぐるぐる眼鏡のお姉さんもいた。


「こいつらは一体何者なんだい?」


応接室を覗くモモコさんのおでこがタマさんの尻尾で突かれる。


「ラフィを調べてくれる業者さんよ〜。アンタはあっちでゲームでもしてなさいって。」


「気になるだろ。僕も覗かせろ。」


そんなやり取りを背に、ボクの体を調べるよう手に機器を持った白衣のヒト達がいそいそ。よく分かんない魔具を翳して何かをスキャン、好奇に揺れ動くボクの視線を無視して次の魔具が取り出される。そうやってごそごそされていると段々むずむずしてきた。ボクの奥底に眠る記憶を引っ張り出されるかのような不思議な感覚。


「やっぱりラフィの体には色々マギアーツが仕込んであるね。それも相当高度なもんだ。現時点でハッキリ言える事は、ラフィは何らかの軍用品と深い関係があるって事だねぇ。バトロイドではないけど、似たコンセプトで開発されたに違いない。いや、もしかしたらもっと別の目的が?何だろうねぇ。」


わくわくした声色のオチヤマさんがデータを纏めた書類を眺めて笑う。むぅ、開発されたって言われると変な気分。でもボクってもしかして量産されてたりするの?


「多分、それは無い。ざっと仮にラフィを開発する予算を試算したが‥‥ニホンコクの国家予算並みだね。一体分作るだけの予算がよくまぁ降りたもんだ。量産なんて無理無理。」


兄弟とかは居なさそうかな?ちょっとだけ寂しい。でも何処がボクを産んだのだろう?国家予算ってまさか本当に政府が?そんなまさか。でもボクを産み出したヒトがいたら会ってみたいな。


「それで、いかが致しましょうか?準備は一応出来てますが、ラフィのマギアーツを下手に刺激すると何が起こるか。」


止めたそうな眼鏡のお姉さんの声を無視してオチヤマさんは手元のスイッチをいじいじ。今にも押しそうに指先をわきわきさせている。


「でもさ、まさか自爆のマギアーツなんて仕込んでるとは思えないし。んふふ、おっちゃん我慢がね。だって国家予算並みのマギアーツだなんて気になるじゃん?その一端でも知れれば大きい利益になると思わない?」


「ですから念入りにもっと時間を掛けて調べ上げてからですね。」


「それって何ヶ月後よ?んふふ、科学の発展の為には多少のリスクは仕方ないのさ!」


「ですから!」


「いいや!我慢出来ない!限界だっ!押すね!」


オチヤマさんがスイッチを押すと急に背中がむずっとして、強制的に収納のマギアーツから大きな羽が飛び出した!それは天使の羽では無く、縁の黒い真っ青な蝶々の羽。同時にこの羽の事を思い出す。


“ユリシス”と名の付いた大容量の収納拡張パーツ。軍用品レベルの規格外な容量を誇る遠い場所の最新鋭の技術の結晶。


でもそれがこのユリシスの真価じゃない。あくまでユリシスは入れ物で、中には大量の生体ゲルが詰められ、設計図とセットになっている。生体ゲル自体は市販品でも補充可能な使い捨てだけど、設計図に通して出力すれば‥‥


「うわぁっ?!」


オチヤマさんがボタンを押すと同時に大きな青い羽が展開、一同が驚いて後ずさった所へ羽の中からぴょこっ?!と4体の小さな影が飛び出した!


それは服も再現された限り無くそっくりなボクの分身体で、身長がボクより一回りだけ小さい。ボクの脳波に接続されると、頭に付いたふんわりアホ毛がピクリと動いて辺りを見回した。アホ毛と言ってもホイップクリームを乗せたような小さな毛の塊みたいなもので、ボクの脳波の刺激を受ける度にぴくん、と触覚みたいに揺れ動く。


「‥‥‥‥っ!!‥‥‥‥っ!」


喋る機能は付いていないボクの子機達、“ミニフィー”は両手をわたわたさせながら皆を見回し、


「「「「増えた?!」」」」


応接室は驚愕に揺れたのだった。

ーユリシスー

戦車だろうが、軍艦砲だろうが丸々入る、軍用品の運搬を目的とした大容量の収納。中には生体ゲルがたっぷり入っているものの、それでもかなり容量が空いている。それはただ可愛いを増やす為だけのおもちゃにあらず。

ラフィはユリシスによって真価を発揮する。

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