602、冒険の果てでまた仲間が増えた
ピュア・クラウンの中へは自動ドアか、スマイルアプリによる転移か選んで入れるようだった。折角だからドアが開く所が見たいな。うん?ドアの開閉にも2つのモードがある。演出重視のセレブモード、普通に開くプライベートモード。
「開け、ごまっ!(˶ᵔᗜᵔ˶)」
つい言いたくなる。勿論セレブモードを選ぶよ!ワクワク。
ドアがゆっくりと開く。ドア部分が丸い機体に沿って持ち上がって行く様は、一般の横へスライドする構造と印象が違った。何というか、未来的?特別感がある。
中から濃い青金の霧のARがふわりと、開いたドアから漏れ出していった。ドライアイスの霧が地面を覆うよう、周囲が青金に染まってとってもゴージャス!
「何だか凄いね。ラフィの霧に似ている。」
オウルさんも期待した顔で霧の向こうを見つめていた。少しすると霧が晴れて中が見える。
「わぁっ!広い!」
思わず口を突いて出た感想は、皆が口々に吐き出した声と同じ。ドアの向こうに応接室のような空間があった。
「構造的にはなんちゃってプライベートルームでしょ?アレみたいな拡張性は無いし、搭載可能な設備にも制限が掛かるけど‥‥とは言っても流石は最高級品ね。良いじゃない。」
「ささ、中をご覧になって。赤翼の最新を堪能して下さいませ。」
ビャクヤさんの声に背中を押されて、ボクがヒョイと1番乗り。同時にホロウインドウがピコン!と自己主張する。
『にゃは、セキュリティも万全のようで。』
ホロウインドウ内のフィクサーさんと、収納内のアクアマリンに住むウィンディーネが検出されたようだった。登録の無い魔法生物の侵入アリ、だって。
「大丈夫ですよ。」
2人を登録するついでに、周囲にいる皆も同時にスキャンしてメインユーザーかゲスト扱いか共同所有者に設定するかも表示された。初期設定を済ませなきゃね。
共同所有者に設定出来るのはセキュリティの観点から1人まで。夫婦で使う事を想定しているのかも。タマさんを登録しておいた。パンタシアもそうだったし、これでおあいこだね。一応ボクの生体認証があれば、他のヒトにも共同所有者権限を一時的に付与出来るようだった。
わっ、内部で働くアンドロイドやドローンの登録管理も出来る。当然のようにスクトゥムロサのアイコンがあって、ブランさんのIDを入力すれば登録出来た。登録しておけばブランさんもピュア・クラウンの設備管理が出来るようになるんだ。この前の修理の件で、ブランさんのIDが本社に正式に登録されたお陰でスムーズに進む。
簡易なメンテナンスから、ブランさんによる遠隔操作まで。マニュアルパイロットとしてスクトゥムロサに操縦権をお任せ出来るんだ。
そんな初期設定もボクの演算容量からしたら簡単な物で、一瞬で終わって足を止めずに中へ進む。最高級品でもタクポだから土足OK、床一面は純白のフローリング。靴で踏んでも土も汚れも付かない。透明なバリア装甲みたいなもので汚れを弾いているのかな?感触に違和感は一切無いけど、R.A.F.I.S.Sが床全体から発生する演算を拾っていた。
赤翼の技術、凄い。
敷かれたカーペットは綺麗な青色で、金の装飾が美しかった。白、青、金。ボクのイメージカラー。対して壁はシックな艶のある黒を基調とした大人な感じの装飾。高級ホテルの一室‥‥というよりも高級ホテルのラウンジの一画を切り取ったような感じがした。
『にゃはは、この内装。分かってますね。資産家がピュアシリーズのタクポをお披露目したとして、中身が私室全開な雰囲気では失笑されてしまいます。社交の場である事が大事なのです。』
そっか。ラウンジみたいに沢山椅子や机が並んでいる訳じゃないけど、備え付けのソファー席と机のセットが2セット。そして奥にバーまである。家具類はボク達が好きに入れられるよう最低限だけ。かなりスペースに余裕があって、何を入れようかなって早速迷っちゃう。
「ラフィよ、そこに我が寝そべられる専用のソファーを置きたいな。横になるタイプか、巻くタイプか迷うが。深未踏地の開拓中、場合によってはこの中で寝泊まりするのだろう?用意しなければならない物が多いな!」
テンション高くウキウキなカテンさんと一緒にお喋りしながら、更に奥へ続くドアの前に立った。
「こんな物もあんの?ドアの代わりにバリア装甲とARね。」
「ふふふ、そうですの。ここから先はプライベートな空間、IDに登録された者だけが通り抜けられるのですわ。」
ゲスト扱いだと抜けられないバリア製のドアは開けずともすり抜けられる。勿論デザインはARだから好きに変えられた。入り口でメインユーザーに登録したタマさん達はそのまま素通り‥‥
ゴツンッ?!意外な音に驚いて見やれば、ビャクヤさんがおでこをさすっていた。きゃっ?!ごめんなさい!ビャクヤさんもメインユーザーに!
『ラフィさま、誰も彼もメインに登録するのは良くありません。特別ゲストに登録しましょうか。』
フィクサーさんがアッハさんやロゥさんの面々も特別ゲストに放り込んでしまった。メインユーザーに登録されたヒトなら、こういうゲストの許可とかを弄る事が出来た。特別ゲストは、今回の来訪に限って好きな部屋へ移動出来る権限を持つヒト達。ラウンジルームのみしか入れないただのゲストとは違った。
メインユーザーは常用する身内向け、特別ゲストは来訪者向けっぽい。
パンタシアと違って厳しいセキュリティと、客の格付けを出来るようニーズにあった感じになっている。パーティーの主催者と親しくなれば、特別ゲストとしてご案内。ラウンジにしか入れないヒト達を横目に、更に奥の特別な空間でもてなされる‥‥みたいな。
ボク達からすると持て余すけど、そういうニーズがあるんだろうなって言うのはコーポのヒト達と関わる内に理解出来ていた。見栄や格付けは大事だよね。
「奥には居住区画、探査コントロールルーム。そして好きに使えるお部屋が2つありますわ。」
ピュア・クラウンの内部はパンタシアと同じく異空間になっている。お陰で部屋数も多かった。居住区画にはオープンキッチンを備えたリビング、ドアを隔てた部屋は寝室に。天井シャワーと大きな浴槽が付いた広めのお風呂もあった。黒い大理石の床がツルツル、星空のように金の装飾が散りばめられていた。
脳波操作で天井からシャワーが降り注ぎ、お風呂は家族4人が足を伸ばして入っても余裕があるサイズ感。これなら寛げそう。
「虹渦島の観葉植物に浴場へポン置き出来る奴あったわよね。高温多湿で育つアレ。」
「カリドゥス種ですね。一面真っ赤な場所に沢山生えてました。」
火の属性大好きな大型多肉植物で、ぷっくりした葉が薔薇のように盛り上がった特徴的な見た目をしているんだ。葉っぱで出来た薔薇が地面からモリモリモリ!と連なって塔になった感じで、吸った魔力に反応して大きく色を変える性質もあった。
『虹渦島産の観葉植物は超人気ですからね!苗から育てるには専用の設備と、深未踏地の環境が必須ですが。ある程度生育した個体なら都市へ持ち出しても問題ない頑丈さがウリです。』
オウルさん達にもカリドゥス種の画像を見せてご紹介。ほ〜、と不思議そうな声が漏れ出した。シャーリアには無い不思議植物だよ!
「しっかしここにお湯を張るんだろ?ニホンコクは豪勢やっちゃな。あの大衆浴場とやらとは比べ物にならない。」
貴族と風の主は居ても、シャーリアに“高級品”という概念が無い。物資も食料も乏しい世界だったから。庶民と同じ物を使い、同じものを食べた。違うのは住む場所とお仕事だけ。
敢えて言うなら贅沢する事を“黄”と表現するけど‥‥
「ムズムズするのぅ。オウルよ、黄と言うには‥‥なぁ?」
「シャーリアの言語の表現力の限界を日々痛感するよ。因みにニホンコク的には黄とか白とか、そういう言い回しはかなり変に聞こえているらしい。」
オウルさんの古代エルフ語にアッハさんとロゥさんは首を傾げた。黄、と言っても向こうの意味合い的に、厳密には色をそのまま慣用句にしている訳じゃないみたい。
でもニホンコク語に直訳すると黄とか白とかしか言いようが無い。微妙なニュアンスの違いは、高性能な翻訳AIでも壁を完全に無くす事は出来ないようだった。
「ニホンコクでは沢山の対価を払えば相応の贅沢が出来るんです。博物館で働いてお金を稼げば、こういう設備を買ったりする事も出来ます。その。時間は掛かると思いますが。」
見た目はともかく、個人用の広いお風呂ぐらいなら数ヶ月分のお給料で買えるかな?天井シャワーとか、AI制御浴槽とか、薬湯・電気風呂・ジャグジー切り替え機能とか、選べる数十種類のアロマとか。そういう多機能型にするなら‥‥年単位。
このお風呂には基本機能として全部搭載されていた。というよりこの価格帯のお風呂ならこれらは大体最初から備わっている事が前提。タマさんと一緒にパンタシアリフォーム計画を楽しんでいる時に、カタログで散々見たから覚えているんだ。高いとお風呂だけで数千万するよね。
『にゃは、しかしこういうお風呂は高いですよ〜?顧客は資産家、安さよりも高価さと相応の機能性に洗練されたデザインが尊ばれます。自慢出来る金額の高くて良い物を欲しがる層がお客様ですから、値段に一切の遠慮がありません。寧ろブランド料で値段マシマシです!』
フィクサーさんが見せたカタログへ目をやったオウルさんは思わず噴き出す。驚くアッハさんとロゥさんへ、「買うのは無理だと思うよ。」とだけ伝えた。お金の価値を正しく理解するオウルさんは、キラキラ贅沢なお風呂の値段を前に、パンタシアの露天風呂が幾らするのかと悩ましい顔をしていた。
ビャクヤさんは得意げな顔でエルフ達を見やる。
「金額というのは時としてヒトへ権威を与えますの。これだけの資産を持つラフィさんは、将来的に貴族達から更なる尊敬を得る事になるでしょう。貿易が始まれば嫌でも金の価値を知る事になりますから。」
こんな凄いプレゼントをしてくれた赤翼は、ただ良い物をくれたってだけじゃなくて。ピュア・クラウン自体をボクの活動の追い風にしようとしてくれていた。
「ビャクヤさん、ありがとうございます。とっても気に入りました。タマさんもボクも、インテリアを揃えたりとかお部屋弄りするのが大好きなんです。ピュア・クラウンで冒険する事を考えただけでドキドキです!」
きゅっ!と手を握って改めてお礼を言う。お礼は何度言っても良いものだから。感謝の気持ちは声に出さなきゃ!
「ひゃっ?!え、ええ。どうもいたしまして。これから宜しくお願い致しますわ。」
ホロウインドウの中でフィクサーさんが、早速ルームデザインコンサルタントとしてタマさんへカタログを紹介していた。カテンさんも龍の視点で欲しい設備を付け加え、ボクもアレが欲しい、コレが欲しいと話し合う。勿論後でブランさんにも聞かなきゃね。
「ラフィ、私はニホンコクの小説が詰まった本棚が欲しい。紙の書籍が廃れて久しいと聞くも、実際本の詰まった棚にはインテリアとしての需要があるらしい。それとロッキングチェアもセットで。アレは良い物だ。」
遠慮なく会話に混ざるオウルさんを、ロゥさんが引き留めようとするも‥‥振り向いたタマさんが小さく溜息を吐いた後に、
「はいはい、寝室の脇で良い?専用に一部屋は要らないでしょ?省スペースは大事よ。」
ボクも、
「ビャクヤさん、寝室のここの壁際をもう少し改装して広げる事は可能ですか?ここを本棚のあるスペースにしたらオシャレかなって。」
ロゥさんもアッハさんも、オウルさんの背中を見ながら一歩下がっていた。一緒に沢山冒険したオウルさんはもう仲間だよ。
「あ、エンリッヒさんにも聞きますか?」
「エンリッヒはいい。元々アイツは鏡面世界に引き篭もってシルフと魔力で交わるのを趣味にしているから。冒険好きなタイプじゃない。」
ロゥさんの拳がオウルさんの背中をど突く。ヨタヨタする背中をアッハさんも引っ叩いた。
「‥‥本人に後で聞いておきます。あと、シルフさんとそういう仲だって吹聴するのは良くないです。」
皆が知ってても敢えて言わないのがデリカシーだよ!オウルさんはゴメンとここに居ないエンリッヒさんへ謝った。
因みに後で聞いたけど、エンリッヒさんは冒険の為にピュア・クラウンへ居場所を作る必要は無いって言っていた。代わりにパンタシアのツリーハウスへ、大きな鏡を設置したいって。エンリッヒさんにも報酬が出るから、買った分を置くスペースが欲しいみたい。
勿論大丈夫だよって笑顔で返した。




