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600、300年後のあなたへ捧ぐ、ボク達の歌

ライブの熱気は何日経っても冷めやらず。


都のそこかしこから聞こえる歌は、ニホンポップにロックな音符。中でも1番の流行りはラップだった。ボクが数曲歌ったラップソングをキッカケに、エルフの皆が見様見真似でラップを口ずさむ。


ラップバトル‥‥というのはライブに無かったし、ラップソングのカラオケが流行ってる感じだけど。


「シャーリア、降り立つ、白翼の主、美声で都を席巻、世間を染め上げる♪金、蒼、カワイイ、包むは白翼♪その名はラフィ、イェー。」


新曲を口ずさむオウルさんとハイタッチ。タマさんの呆れ顔は無視される。


「我はカテンぞ神の偉業が農地を興す、農業創業高級ブランド金の(ごう)を纏う龍♪神陰る世と言えど稼いだ金で座るは上座♪神話は無くとも我は知らんわ、そんな事より今を楽しむ、少年を風で押す旅続く、空の果までイエー♪‥‥とな。」


ブランさんのホロウインドウに50点の文字がデカデカと。抗議するカテンさん、イエイッ⭐︎と身を揺らすオウルさん。


「ニホンコク語とラップの相性は抜群だな。複雑な言語が上手く噛み合う様は美しい。」


エンリッヒさんも日夜ラップを研究しているようだった。


ライブを皆が喜んでくれて、そのお陰か沢山のエルフさん達がファンになってくれたみたいで。力を認められるだけじゃなくて、そういう所が認められるのが1番嬉しかった。


アッハさんを中心に出来たファンクラブ。得意げにホロウインドウを操るアッハさんが、ボクのライブ映像を流して注目を集めている。好きな物を共有出来た喜びに皆が笑い、都は一層明るくなっていた。


S.N.S連盟の大使館の窓口に、そっとボクのぬいぐるみが設置される。


「ラフィぐるみは大好評さ。博物館のシャーリア館へ展示品の寄贈を募っていてね。ラフィぐるみと交換したいって向こうから申し出てくれたんだ。いやー、ラフィは人気者だね。」


モモコさんの調子の良い報告に、ちょっと恥ずかしくなっていた。でも博物館の展示品が沢山集まって、シャーリア館も見所満載な場所に出来て良かった。


そんな中、正式にボクが白翼の主としてシャーリアに就任する式典が行われた。特別顧問っていう正式名称とは別に、肩書きのような感じで白翼の主の名前も公表される。


S.N.S連盟が招いた大勢の記者達がエルフ達の後ろに集う。場所は宮殿前の大広場。設営された大きな壇上でボクは皆を見回した。


4貴族も勢揃い、ヨルガルドさんも参列していた。もうボクを試すような目をしていなくて、けれど感情を排した顔で式典へ臨む。


先ずは4貴族の当主達が席を立ってボクの前へ。一人一人祝辞を述べて行く。


「我々は白を司るラケルタクル家。白とは教えであり、導きであり、我々を崇高たらしめる聖なるもの。白翼の主よ、我々白の真なる導き手となるようお願い致します。そこに在る事を我々一同、嬉しく思います。」


ジズディスさんと目を合わせる。サッと一礼して身を引いた。


「私らは緑を司るサンラリタル家。緑とは糧であり、シャーリアの食を護る者。白翼の主よ、不毛と化したこの地に再び糧を齎して下さった事を心から感謝致します。」


アッハさんはこういう式典は窮屈そうで。固い動きのまま一礼して席へ戻る。


「ワシらは黒を司るゴウ家。鉄の流れたワシらが振るうは金槌、この宮殿から剣一本に至るまで全てを創造した灼ける炉の護り手。白翼の主はワシらに次なる道を示して下さった。拓けた可能性に感謝を。金床の音を以て白翼の主の支えとならん。」


ロゥさんは野心的な眼光を隠そうともせず、頷くボクへ一礼した後戻って行く。


そしてヨルガルドさんがボクの前へ立った。大柄なエルフのお爺さんが‥‥ボクの前へ跪いた。


「我らは赤を司るニチック家。赤とは剣。シャーリアを護る盾でもある者。‥‥先ずはこの度、不遜にも白翼の主を試すような事をしてしまい申し訳が御座いません。」


ボクは一歩前へ出て、ヨルガルドさんへ続きを促す。


「我々はシャーリアの戦士団、白翼の主へ忠誠を誓います。」


口ではそう言うけど、心の中では絶望のような気持ちを感じていた。


何も出来ずにS.N.S連盟に踊らされ、ボクにも一撃でやられてしまった。戦士達はタマさんとブランさんに傷一つ付けられず、完全に自分達が時代遅れの骨董品となってしまった事実を突き付けられた。


剣は通じない。エルフの長い年月を掛けて研鑽を積んだ魔法でさえ上回られてしまう。自分達の存在価値が崩れ去った。ヨルガルドさんの心が泣いていた。


エンジェルウイングが展開する。ヨルガルドさんの背中を包み込んだ。


「ヨルガルドさん。命じます。」


ハッとしてボクを見上げた顔を真っ直ぐ見つめる。


「ニチック家率いる戦士団は、今後シャーリアの護りを担って貰います。」


「しかし‥‥」


弱気な事は言わせないよ。


「ボク達の兵士達も、いつまでもここに駐留する事は出来ないのです。大使館と小さな領土を護る最低限の人数しか残りません。この都を護るのは、貴方達です。」


驚いて目が見開く。分かるよ。戦士団を解体、そのままPMCがシャーリアを占領すると思っていたんだよね。でもそんな事はしないって話をボクは聞かされていた。風聞も良くないし、PMCの皆はとっても忙しいから。


「ですから今後貴方達を信用して、ボク達の戦い方を叩き込みます。装備も与えます。」


‥‥PMCが現役で使う物よりもグレードが下なお古になるけど。けれど襲撃してくる原生生物を倒すのなら十分な筈。


「ヨルガルドさん。貴方達もボクを信用して下さい。頼りにしています。」


暫くボクを見つめた後‥‥急に涙が溢れ出して、豪傑の顔がくしゃっと歪んだ。思わず漏れた嗚咽を隠すよう、その場に蹲る。こんなに体が大きいのに、その背中が小さく見えた。


シャーリアを護る為にいた筈なのに。疫病、コーポの陰謀、ボクとの激突。ずっと振り回されて何も出来なかった。身を焦がすような焦燥に苦しんで、長い生の中で培った自尊心がヒビ割れて悲鳴を上げる。


エルフの長い人生をあっさり否定する理不尽の連続。泥濘の中足掻いたヨルガルドさんは憔悴しきっていた。


でも、ボクは見捨てないよ。シャリアの代わりにこの都を護るんだから。


「ヨルガルドさん。貴方だけに教えます。ボクだっていっぱい失敗しながらここまで来たんですよ。」


タマシティを護る為に未来からやって来たのに、お母さんを目の前で失ったショックで記憶を閉ざしてしまって。結果タマシティを壊滅から守れたけど、多くの市民の犠牲者を出してしまった。


いつもの探し物だって楽観的に構えていたら、結果ジャーノンとオオカミさんを亡くしてしまった。気付いた時には手遅れだったんだ。


事前に男性を狙った性被害の話を聞いていた筈なのに、ボクに倒されて無防備になったラファエルさんを放置して攫われてしまった。もしボクが気を回していたら、ラファエルさんは辛い性被害に遭わずに済んだかもしれない。


まだまだあるけど‥‥ここまで色んな失敗を積み重ねて来たんだ。ヨルガルドさんへボクの冒険の一端をR.A.F.I.S.Sで共有する。驚いてボクを見上げたヨルガルドさんは、ボクの目を見て涙を拭った。


ボクは完璧な存在じゃないんですから。だからこそ、これからはヨルガルドさん達にも支えて欲しいな。強い所だけじゃなく、弱い所も見せてボクの姿は等身大に。見上げるような存在じゃなくて、ありのままで良いから。


「‥‥不肖ヨルガルド。我々は“ラフィ様”へ忠誠を誓います。いつでも頼って下さい。」


サッと立ったヨルガルドさんは軍人の凛々しさを取り戻し、目元を赤くしながらもボクへ敬意を示した。


「お願いします。へこたれちゃダメなんですから。」


4貴族の祝辞が終わる。空歌の姫が次いでボクの前へ。文言は儀礼的で、白の祭場でボクへ語った内容と同じだった。今度は差し出された手をにぎにぎしないよ。事前の失敗のお陰で、ちゃんと儀式を終えられた。


そして最後にボクから。


大きくエンジェルウイングを展開、皆へ呼び掛け気持ちを語っていく。


「今日から正式に白翼の主として貴方達を護ります。ボクが主だなんて不思議な気分ですけど。」


思い起こされる。孤児院のフェンスから未踏地へ手を伸ばしていたあの頃。見上げた空の遥か彼方へボクは辿り着いていた。


「世界を開拓して切り拓く、開拓者として冒険して来ました。まだ開拓者となって1年ぐらいですけど、世界の光と闇を垣間見て来ました。勿論、シャーリアでも。日向と日影、正義と悪、弱肉強食。それだけじゃ説明出来ない複雑な世界。何が正しいのかボクでも見失いそうになってしまいます。」


タマさん達へ視線をやる。頑張りなさいよ、と小さく手を振るタマさんへウインクを。


「これまで大勢がそんなボクを助けてくれて、一緒に走って行く事を選んでくれました。ボクが白翼の主としてシャーリアを護りますが、あなた達にもボクを支えて欲しいです。良きパートナーとして、これからも並んで進めたらなと思います。」


片手を振れば皆が拍手をして、ボクもぴょんっ!と跳ねながら笑顔で返した。ボクの前でシャーリアのエルフ達が一堂に揃って、声を大きく聖歌を合唱する。祭事で合唱をやるって聞いていたけど、今この瞬間。大切な式典に歌を捧げてくれた。


磨き抜かれたその歌声はとっても美しく、特に貴族達の歌声は際立っていた。シャリアは皆が歌う所を見下ろしていたのかな。


でも、ボクだったら。


皆が合唱を歌い終わった後、咽頭マイクで大きくなった歌声をこの空へ響かせた。歌には歌で応えるんだ。びっくりするエルフ達へ、聖歌を高らかに歌う。


この歌はただ気持ち良く歌ってお終いってものじゃない。静謐の揺籠に続いて、また一つニホンコクと歩んで行くヒト達と出逢えた。この歌声がいつまでもこの空に響いていて欲しいって思うんだ。ボクが歌わなくても、皆の声が歌を風に乗せて。


今から300年先。そこで待っているお母さんが暮らす平和な世界。


300年後のあなたへ捧ぐ、ボク達の歌。


ボクの声にエルフ達も合わせてくれて、魔王とヒトが一つになった合唱が蒼穹を震わせたのだった。


───眠れるエルフの歌姫との出逢いが、ボク達の新たな冒険の幕を開けた。


────苦難の先に捉えた光は黄金卿。雲海の遥か上に浮かぶ天空の都。


─────時を動かした先でボク達は混ざり合う。この歌声で。


──────それは永遠に続く平和と共存を願う歌。


───────語り継がれれば神話になるんだ。


この冒険、出逢い、その全部が。記者達のカメラが記録して、神龍と悪魔がその目と耳に刻む。歴史がまた一つ動いた瞬間を。

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