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521、許し合うという事

ボロボロのトラックがマンションの地下駐車場へ消えて行く。セキュリティゲートが閉じて、不法侵入を防ぐバリア装甲が展開された。一先ずは安心、ボク達の拠点へ帰ってくる事が出来た。


「はーい、むちむちビーナス像配達完了ね〜。」


「てかそれ何だよ。タマはそんな趣味してたのか?」


アリスさんとチズルさんが荷台のドアを開け放つ。イーッ!と睨むタマさんの隣、セクシータマさん像が鎮座していた。


「アタシにも分かんないわよ。触ったらこうなったの。」


「この像は触れた者の理想に合わせて変わる代物です。そんなに貧相な体付きでもないのに、妙なコンプレックスでもお持ちで?」


フィクサーの手には『コンプレックス』と書かれた旗の立つお餅が一つ。タマさんの尻尾が無言で叩き落としてしまう。


「はぁ、先ずは部屋に運び込みましょ。」


「そうです。ここも絶対安全では無いのですから。」


運び出された台車がガラガラと車輪を鳴らし、お部屋直通の転移陣へ向かった。


ボク達の拠点の一室には、こうやって強盗して集めた色んなアイテムが飾られたお部屋があった。その中央で早速ゴッズクラスが一際眩く輝く。


「‥‥やった!やりました!最高レアですよ?!ゴッズッ!きゃー(,,>᎑<,,)!!」


実感が湧いて来て、思わず小踊り!セクシータマさんな見た目をどうにかしようと、タマさんは何度も触って悪戦苦闘。フィクサーさんが触れれば、グニャッと像がうねる。瞬く間にボクとフィクサーさんがペッタリ隣り合って、トロフィーの上に座る像へ変化した。


「理想‥‥まぁ、思い描いた物を即座に反映して姿を変える面白グッズですね。一度アクティブにすると、暫くクールタイムが挟まるようです。それに同じプレイヤーが連続して操作する事も出来ないと。パーティーグッズ的な用途でしょうか。」


「そうだったんですね。面白いアイテムです。」


ボクもかき集めた沢山のレジェンダリー品を、丁寧に机へ並べて行く。


「ラフィも結構集めたのね。キラキラしてるのが好きなの?」


「はいっ。宝石とか眺めてるだけでうっとり出来ます。」


アリスさんはボクの耳元で、


「今度宝石を贈るわ。」


こっそり囁いてくれた。


「えへへ‥‥楽しみにしています。」


笑顔が向き合う。差し込まれる黒い尻尾、タマさんがボクの背中を抱いた。どうしたの?


「ほらほら、とっとと飾り付けしましょ。成果物をスクショしてSNSで煽ってやろうじゃない。」


ボク達の手で美術品の数々を、こうした方が見栄えが良いとか色々話し合いつつ綺麗に並べて行く。


「ではでは。ピース!」


フィクサーさんが自撮りのポーズでスクショをパシャリ!ボク達の笑顔と悪い顔が混ざった1枚が投稿された。


リビングをオンラインショップで買い漁ったパーティーグッズが賑やかす。大きなホールケーキ!骨付きチキン!フライドポテトにチェロス!味覚をハッキリさせる課金コースに皆入っているから、料理の味をざっくり再現した分を楽しめる。本物には及ばないけど、ゲーム内で何の気無しにお口へ放り込む分には丁度良い的な。


「あの!やっぱり。呼びたいです。」


準備が進む中、祝勝の乾杯をちょっとだけ待ってくれるように呼び止める。タマさんは好きにしなさい、フィクサーさんは丁度良い機会ですね、と。


タマシティの一件は、直ぐにシブサワグループが動いて決着を着けてくれた。サンライズで事件に関わったヒト達は皆罪を償わされ、厳しい処分を受ける。誰彼構わずでもなくて、ちゃんと証拠を集めて裁判で正式に起訴する形で。


企業戦争のアングラで終わらせず、誠意を持って応えてくれた。


タマシティの一件をボクは許すとか、許さないとか。その恨みが向く先はサンライズであって、モモコさん達じゃない。許しは裁判で決める事であって、ボクが勝手に代表の面をして決める事でもない。


シブサワグループが責任を全うしたのなら。


怒って裏切られたなんて言ったけど、やっぱりシブサワの皆はボクの大切な仲間で。仲直りする切っ掛けが欲しかった。でもボクの方から頭を下げて歩み寄るのも何だか納得いかないし、どうすれば良いか分かんなくて。遊びに没頭して現実から目を背けていた。


トウキョウシティで散々企業の闇を見て、シブサワを信じられない気持ちが心の片隅に出来ていて。それがあの一件で爆発しちゃったんだ。


「モモコさんは今回ボク達を助けてくれましたから。呼ばないのはダメです。」


もう一度会ってお話がしたい。ゲーム内のスマイルがコール音を鳴らす。


『ラフィ‥‥』


モモコさんの声。元気が無くて、弱々しい声。


『今から祝勝会をしますから。一緒に打ち上げをしたいです。来て下さい。』


『‥‥分かった。』


短いやり取りで通話が切れる。


モモコさんは直ぐにやって来た。ドアの向こう、玄関へ上がらずにボクを見つめる。ドアを開けたボクも見つめ返した。皆が心配そうに後ろから見守ってくれている。


「ラフィ!本当に、済まなかった!!」


モモコさんは深々と頭を下げた。ボクはそんなモモコさんを見たかった訳じゃない。ただモモコさんと友達として仲直りしたいのに。今のモモコさんは企業の重役、シブサワのNo.2としてそこに居た。


「おーい!ここはゲーム内よ?リアルを持ち込んで何シケた面をしてんのよ!」


タマさんの文句がモモコさんへ突き刺さる!


「そうよ!ここは外交の場じゃ無いんですけど〜?とっとと上がってって!乾杯出来ないじゃない!」


アリスさんも口調を合わせて、上品な令嬢をお休みしたラフなスタイル。


「おやおや、企業のエリートがメガシティに権力持ち込んで振る舞ったらゲーム内SNSで晒されちゃいますよ〜?全プレイヤー平等がここの掟です。」


フィクサーさんも、はえ?な表情のモモコさんを茶化してヘラヘラ笑った。


「モモコさん。ボクは仲直りしたいんです。でも、モモコさんは立派な立場で。モモコさんが指示した訳じゃないのに、立場のせいでボクに頭を下げて。」


「ここでなら本音で話し合えます!!」


モモコさんは目を見開いて、ボクに肩を掴まれながら揺さぶられた。


「タマシティがあんな事になった事を!ボクはずっと覚えています!絶対に忘れません!!」


ビクリ、モモコさんの体が震える。


「でも!!だから何ですか?!覚えています。忘れません。それでもボクは許しあいたいです!ボクもシブサワの信用を下げるような暴言を吐きました!裏切られたなんて言葉で世間からすっごい叩かれて大炎上中です!」


「だから‥‥!ごめんなさい。」


熱くなった目から感情が頬を伝って、モモコさんに気持ちをぶつけてやった。


許す、許さない。0か100かじゃなくて、50の気持ちでボクは納得するんだ。忘れなくても許す事は出来るし、お互いに辛い気持ちを飲み込みあって支え合っていく事も出来る。


シブサワへ復讐したい訳じゃない。大炎上させて気分良くなったりもしない。この気持ちに決着を着けなくても生きていけるし、また新しく信頼を築き上げていく事も出来る。


仲直りとは、そういう事。


叩きのめすんじゃなく、和解する。ザマァ!するんじゃなく、握手を交わす。


「モモコさんが良いって思ってくれるのなら。仲直りしましょう。これからも一緒に進んで行きたいんです。支えて欲しいです。ボクもシブサワを応援します。」


ボクは手を差し出した。


「ラフィ‥‥ははは、済まないね。僕も仲直りしたいんだ。シブサワがどうだなんて無粋な事は言わない。社の利益の為じゃなく、僕自身がラフィと仲直りしたいんだ。」


モモコさんの手がボクの手を握ってくれた。


「ごめんなさい。」


「ボクも、ごめんなさいです。」


後ろの皆が安心したように息を吐く気配を感じた。


「ラフィったら、大人びた事を言うわね。大人でも許し合うなんて簡単じゃ無いわ。ムカついたから生涯の宿敵ー!なんて良くある話じゃない。」


「そりゃ古今東西、ヒトの最大の娯楽は結局闘争にあります。にゃは、怒りですよ。何かに怒りを抱いて脳内でカッカしている時が最高にヒトを高揚させるのです。」


「そんなもんか?まぁ、ムカついた奴を張っ倒すのが楽しいかと聞かれたらな。」


「ハムハムで炎上騒ぎを探しては執拗に指摘し回る厄介なご意見番連中だって、そういう娯楽に脳が麻痺してるんでしょ。」


アリスさんはウンザリしたように吐き捨てた。


モモコさんもこれには苦笑い。


「まぁ過去にそうやってヒトを集めて、社会を混乱させようとした悪質なSNSは法規制されたけどさ。社会派な意見を語り合う場かい?」


ボクはモモコさんの手を引いてお部屋に引き入れる。


「でも、感情を制御する事が一番大切です。ボクは感情に振り回されて大切なモノを失いたくないですから。」


R.A.F.I.S.Sが感情を平らにならしてくれるから、尚更そう思うようになった。無感情で居るのは勿体無いけど、自分の手綱は自分でしっかり握っていないと。


「じゃあ、気を取り直して。」


ボク達の手にはオシャレなボトル。ゲーム内のお酒アイテムは未成年でも飲める。雰囲気だけ楽しむものだし、味はリンゴジュースだけどね。でも見た目はシャンパンみたいで雰囲気出る。


「「「乾杯ッ!!!!」」」


今日の強盗計画の成功に!モモコさんと仲直り出来た事を祝して!!


飲んで食べて、語り合う。モモコさんに強盗計画の色々を聞かせてあげた。


「タマさんのセクシーな姿の像を抱えて逃げたんです!」


「ムチムチバインなタマ像はそりゃあ目立ちました!にゃははは、後でブランにもスクショを見せてやりましょう!」


「あれは傑作だったよね!笑っちゃって横転させちゃうかと思ったわ!」


「そういや結局何であの姿になったんだ?」


チキンを咥えるチズルさんに骨で指されたタマさん。言いたくなさそうだけど、ボクが見つめると遂に観念して。


「‥‥ラフィったら胸が好きでしょ?アタシだって小さくはないけど、クニークルスの奴のたわわを見てるとちょっとだけ羨ましくなんのよ。」


へっ?!あ、あの?!そうじゃなくってぇ!


ピャーッ!と慌てるボクの前、アリスさんとチズルさんが自分の胸元を見る。モモコさんはふむ、と考えて。フィクサーさんはにゃははと笑った。


「確かにラフィさまは胸元に頭を預けるのが大好きですね!正面から顔を埋めてギュッとされると、真っ赤になりながらもベッタリなんです。」


フィクサーさんまで!もう!


「ええと、その。えっ‥‥!えっちな理由じゃないです!ええと。」


説明するのが恥ずかしい。ただ、


「胸元に甘えるのが好きなんです。だって、ボクのお母さんは。」


母性というか‥‥柔らかな温もりが好きだった。安心出来て心地良いから。大きいからとか、小さいからとか。そういうんじゃないよ。


「でも柔らかいのはそれとは別に好きでしょ?」


タマさんのぶっちゃけた声。少しだけ黙って、ボクは頷いた。それはそれ、これはこれで‥‥好きです。でもそういう風に意識してくっ付くと、体が反応しちゃってムズムズしちゃうから。恥ずかしいし。


モモコさんも気持ちは分かるけど‥‥とフォローしてくれた。


「別に胸が好きな男性は珍しく無いし、一般性癖ってやつだよ。しかし女性になった際の胸元の膨らみはもう少し調整しようかな。あんまり大きくすると姿勢がね。結構アレ重いよね。」


男女どっちにでもなれるモモコさんは女性的な悩みにも理解があって。


「そーね。アタシも豊胸は散々考えたけど、流石に重心の位置に影響出るし。ねぇ外付けの良い物知らない?なんかこういう業界胡散臭い商品多いのよ。」


「外付け品、普段慣れてない重量が前に付くせいでめっちゃ猫背になるって話。垂れない奴が多い分前のめりになっちゃうそうよ。」


「デカいけど垂れないって実際クソ程邪魔になりそうだな。」


あれ‥‥?なんか話が変な方に流れちゃう。酔っ払っている訳じゃないのに、いかがわしいよ。


「ねぇ、盗んだやつ見せてよ。放っておいて行こっか。」


モモコさんに誘われて、美術品の並ぶ大部屋へ。皆が気付かず猥談に咲かせた花はドクダミのよう。下品な雰囲気がどんよりリビングを暗くしていた。


「これが件のやつか。ふむふむ、触ると理想を反映するのかい?」


「はい。そろそろクールタイムが終わるかな?ちゃんと理想を思い浮かべながら触らないと反応しません。」


「なら僕が失礼しようか。」


モモコさんが宝珠に触れる。その形が大きく変わっていって、手を繋いで歩くボクとモモコさんの姿へ変化した。


「これからも宜しく頼むよ。ラフィ。」


「はいっ!一緒に行きましょう!」


仲の良い像を前にボク達は笑い合ったのだった。

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