517、一夜戦争に誰も気付かず
事件当日深夜。
タマシティの夜は緊迫感で張り詰めていた。誰もが思う、これから戦争が起きると。通りには誰も居らず、ドアをピシャリと閉めて目を閉じる。
都市運営委員会が、シブサワグループ全体を裏切って暴走した。ラフィはハッキリとサンライズが裏切ったと宣言、それ以降一切メディアにも姿を見せず。サンライズはラフィによる名誉毀損行為だと息巻き威勢の良い態度を取っていたが‥‥
企業社会に生きる誰もが分かる。
戦争になると。
シブサワグループ代表、シブサワ・テツゾウは事件発生後1時間で会見を開き即座に声明を発表。
『とんでもない事をしてくれた。都市内で戦術核を使用したという報告を受けている。我々は今回の事件の真相、その全てを一切隠さずに公表する覚悟がある。陰謀、隠蔽、断じて許さん。』
『そして、ラフィの故郷を護ると誓ったのにこのような事態になってしまい‥‥誠に申し訳ございません。からなずや然るべき対応を。』
全国へテツゾウが頭を下げる姿が中継され、様々な憶測が飛び交う。
【シブサワグループ株価急落キター!!】
: 名無しのありんこ
シブサワ最低だな
: 名無しのありんこ
あんだけラフィに引っ張って貰ったのに故郷爆破してて乾いた笑い出たわ
企業社会の腐敗もくる所まで来たな
: 名無しのありんこ
シブサワはもう終わりだって有識者は言ってるぞ
実際株手放す奴続出でヤバい
: 名無しのありんこ
手放すの遅れた鈍感ありんこ連中がハムで阿鼻叫喚XDXDXD
一瞬でシブサワ株が紙切れになった気分どう?
: 名無しのありんこ
もう終わりだよこの企業
: 名無しのありんこ
ラフィが可哀想過ぎるXD
故郷を魔王に蹂躙された後に今度は核で焼き払われるというオーバーキル
: 名無しのありんこ
幸い生産区の一部が消し飛んだだけで周辺の避難が粗方済んでたから人的な被害は軽微
とは言え都市の生産業にどんだけダメージが入ったのか
: 名無しのありんこ
企業戦争にしても都市のインフラにダメージ与えた時点でどう言い訳しようが企業テロ扱い、関係者は極刑っす
: 名無しのありんこ
ギャング達が勝手にやったから俺は悪くないだそうだXD
んなアホな言い訳通る訳ないだろ
: 名無しのありんこ
既にギャングのボスの証言やら身内の告発やらで証拠固め進んでるんだよなぁ
ラフィの事どんだけ気に入らなかったの
: 名無しのありんこ
ラフィからの信用が失墜したしもうどうしようもないな
これでラフィが完全に世捨て人みたいになって世間が姿を消したらファンが暴動起こすぞ
: 名無しのありんこ
既にトウキョウシティの本社ビル前で大規模なデモ行進が起きてる
そりゃあんだけ活躍した守護天使を裏切って故郷焼いたんだぞ
完全に色んな不満爆発して大事になってら
: 名無しのありんこ
でも復讐の為にラフィが大暴れしなかったのは冷静だな
完全にキレたラフィがサンライズ本社を襲撃して皆殺しにするんかと
: 名無しのありんこ
あのラフィがすっげぇ冷たい目でカメラ見てたよな
マジでキレてた
: 名無しのありんこ
てかタマシティの方ヤバくね?
なんか空気感が
夜間の外出を控えるよう警察が家にまで来て警告して来たんだが
: 名無しのありんこ
何処の家にも警察が行って夜出歩くなってめっちゃ言ってくる
これは戦争ですわ
ふらふら出てって巻き込まれても多分補償は何も降りないやつ
: 名無しのありんこ
タマシティという試される大地
魔王の次は企業の戦争の舞台になるのか
地方の都市がグループを裏切って、勝手に独立宣言をしてしまった場合。本社が遠くの都市にあるから手が出せずにそのままか。
そんな訳が無い。
前例が殆ど無いせいでこういう事態にシブサワ本部がどう動くか予測が立たない。ただ、テツゾウ周辺の一部の者達は知っている。
プライベートルームを利用した、各都市への裏口の存在を。大勢の軍隊の出入りに特化した特殊規格のゲート。それは都市運営委員会ですら一切把握していない、万が一の緊急事態に対応する為のもの。
深未踏地を跨いで都市が離れているから何をしようが無敵、やーい!悔しかったら掛かってこーい!
100年ほど前実際にそういう事件が起きていた。
大企業グループの1企業が都市運営委員会を任され、田舎都市なのを良い事に勝手に多くの自治法を敷いた。ニホンコクの憲法を無視した横暴に本社が苦情を飛ばせば、急に独立宣言を出し自治区を設ける事を公表。
結局国家への裏切りと見做され、ジエイタイが急行。1日の武力衝突の末解決に至ったが。もっとスマートな解決を出来るよう、ごく一部の上流層が対策マニュアルを受け継いでいっていた。
プライベートルームの内部はそのままシブサワPMC旅団大隊、第4旅団大隊の移動軍事拠点へ繋がっている。彼らの得意分野は電撃戦、何かと便利に使われるシブサワPMCの便利屋さん。
第1旅団から第3旅団までは基本的に都市防衛や、ジエイタイと共同でヤマノテシティの移動経路の確保に専念していて動けない。フットワークの軽い第4旅団大隊が今回も駆り出されていた。
「作戦予定時刻‥‥作戦開始。」
シグが全体の指揮を執り、ウメが現場指揮官へ指示を飛ばしていく。光学迷彩を纏った戦闘ヘリがサンライズ本社を包囲、特殊部隊が屋上から降下していく。
「あまり都市を騒がせすぎないよう。向こうも必死に抵抗をするでしょうが、事前に共有したターゲットだけは生きて確保して下さい。死なせないように。」
ウメの指示を聞くロウは班を率いて突入していた。他にも3班、別の降下地点からビルへ侵入している。
「ラフィの故郷をくだらねぇ理由で爆破しやがって。」
声に怒りを滲ませるロウの背後を大柄な兵士、ゴウキが守る。
「田舎都市だからやりたい放題が通用するって思ってるあたりクソだな。」
暗いビルの廊下、案の定防弾シャッターが閉まり臨戦態勢が整っていた。何処かへ逃げて各個撃破されるよりも、ビルに籠城して耐えるつもりか。シブサワ上層部へ交渉する時間を稼ぐのが目的だろうが。
「目論見が甘いよね〜。モモコ様もテツゾウ様もスッゴいキレてんだし交渉なんか出来る訳ないじゃん。」
エイミとコナンがシャッターへC4-5爆弾を設置。爆風に指向性を持たせ、その威力を従来品のC4の数倍に引き上げたシブサワが開発した粘土のような爆弾。威力が高くしかし誘爆は一切しない。起爆に専用の雷管がセットになった特殊な装置が必要になる。
「お邪魔しまーす!」
コナンが起爆すれば、小さな音を立ててシャッターに大穴が開いた。爆風、爆音はマギアーツによって完全に制御され余計な破壊を齎さない。
ヒゲがするりと光学迷彩を纏って中へ入り込み、卓越した身のこなしでクリアリング。目前にあったマシンガンタレットは、コナンのクイックハックでロウ班のIDを味方として識別していた。タレットは沈黙したまま、ロウ達は素通りして行く。
「プロ相手に素人の籠城戦なんか通用するかよ。」
廊下を音も無く進み、直ぐに1箇所を守る警備隊と遭遇。ただし向こうはロウ達に気付かず、天井のタレットの照準が隊長の頭を狙った事で初めて異変に気付いた。
メカニックのコナンはハッキングにも秀でた才能を持つ。第4旅団は元々精鋭だけがなれるシブサワPMC旅団大隊の花形。そこに所属する兵士に凡才は居ない。
「何だ‥‥?!」
それを最期の言葉に、隊長の頭部が吹き飛んだ。バリア装甲を撃ち抜く事を前提に開発されたタレットは、頭上から凶弾をばら撒いてあっという間に1部隊を殺してしまう。
「おー怖い、怖い。」
無数に展開したホロウインドウを制御するコナンをヒゲは小声で茶化し、一歩先に飛び出したエイミの報告がロウ班を更に前へと引っ張った。
「向こうのセキュリティ、1世代は前のものっすね。簡単に侵入出来ちゃう。田舎街にいちゃ時代に取り残されちゃうよなー。」
エイミの合図で進んだ先、5人の遺体を跨ぐ。エイミの手にはビームクローが光っていた。
「ロウったら怒んないでよ。ほらほら、急ぎでしょ?」
「エイミ‥‥!はぁ、ラフィの件で怒ってるのはお前だけじゃないんだ。」
そして役員達が立て籠もる、厳重な警備で固められたホールのドア前へ到達する。ドアを5機のタレットと、バトロイド、そして精鋭の警備隊が守る。
ロウ班以外の班も同着し、指示を待っていた。
「良いか?俺達が連中を制圧するが、ターゲットの確保が先だ。タイミングを間違えるなよ。」
同時刻、役員達が立て籠もるホールの窓辺へ戦闘ヘリが突っ込んでいた。スナイパーが特殊弾頭を発射し、防弾ガラスへ直撃。特殊弾頭は粘土のようにベシャッ!と広がってガラスを覆う。
C4-4弾頭は、マギアーツ通信によって遠隔爆破が出来るEX弾頭。一般には出回らない、シブサワPMC内部でのみ使われる特殊作戦用の爆弾だった。
爆破音は極小、割れたガラスを潜ってビルの壁面に待機していた数人が一気に突入する。ARで投影された分身体が30体、その中に紛れてターゲットへ駆動魔具を走らせた。
「なんだ?!」
「コイツらどこから?!」
「今交渉中だ!」
場は混乱し反撃もままならない。
「ターゲット確保。」
辺りに転移阻害結界が貼られているものの、結界の発生装置が撃ち抜かれて破壊されてしまう。そのままターゲットは転移でヘリの中へ攫われた。
仕事を済ませた一隊はそのまま紫電M10を引き抜き、混乱する警備隊へ発砲した。
「突入!!」
ドアの外に混乱が伝わって、対応に迷いを見せたその瞬間!ロウ達も光学迷彩を解きながら本格的な襲撃に転じた。本社を守る警備隊も、言わば企業テロリストの兵隊。降伏するのならともかく、銃を手にしている以上容赦はしない。
「クソッ!クソッ!クソッ!!ダメだ?!」
複数人のハッカーはタレットをハッキング、バトロイドにもクイックハックが幾つも飛んで回路ショートを起こして煙を上げる。数人の警備隊はあっという間に蜂の巣になって散らばった。
勢い任せな開拓者や傭兵とは一線を画する、被害を最小に完璧に勝つ訓練された精鋭の戦い。練度に雲泥の差がある警備隊はまるで抵抗出来ずに壊滅した。
「作戦終了。全班、帰投して下さい。」
ウメの声を通信越しに聞き、ロウ班はさっさと迷彩で姿を消したヘリへ乗り込んだ。見下ろす夜景にマスコミの報道ヘリの姿は見えない。街の住人達の多くがここで起きた戦いの事を知らないだろう。
誰にも知られずに容疑者達の確保が済んでしまった。
ヘリからあっという間に、サンライズの代表と重役達はテツゾウのプライベートルームの1室へ。ここで起きた事は一切外へ漏れない。
裸で天井から伸びた鎖に吊るされる。物々しい器具を持った外交官達に囲まれた。キュエリはまず一言。
「まぁ、代表も時間がなくてね。お前達と問答するのが惜しいのだ。素直に全部吐くまで、ここで尋問といこうか。欲しいのは証言と証拠。全部提出して貰おう。」
「こ‥‥!このっ!こんな事をして‥‥!」
「さて、始めよう。オーソドックスなやつが良いか‥‥いや折角だし独創性に溢れたものにしよう。考案しても実験出来る機会は早々無くてね。しかしこの場は、法の目が届かない。」
プライベートルームで起きた事は‥‥一切外部へ漏れない。
彼らの悲鳴が幾度と無く途絶え、優秀なアコライトがヒトの姿を取り戻させ、再び騒がしくなる。大丈夫、メディアにその姿が晒される時は傷一つない姿になっているのだから。綺麗なスーツを着込んだ姿の、死んだ目をした廃人達をカメラが映す事になるのだった。




