518、ラフィ達が立てた強盗計画がカオスな街中で進行していく
ボクはパンタシアの中。冒険に行きたい、でも壊れた装備を直さなきゃいけない。中途半端な装備で行けるような、そんな生優しい世界じゃないのは分かっているから。
朝からベッドでタマさんにべったり。体温に甘えて、撫でる指先に頭を押し付けて、ふにゃ‥‥うとうと。フィクサーさんが誘って来れば、我儘なボクはフィクサーさんにも甘えちゃう。もっと甘やかして下さい。
あの事がショックで、気持ちが何だか萎えたままゴロゴロ。時間が経って、タマシティの被害は思ったよりも軽かったり、サンライズが一夜で急に姿勢を変えて事件の全部の罪を認めたり。逮捕されて法の裁きを受ける事になっていた。
タマシティの運営委員会がどうなるかはまだ未定。街の住人が不安な日々を送っているってネットニュースで見た。
「ラフィったらすっごい甘えん坊さんモードになっちゃった。」
「にゃはは、愛くるしいですね。大丈夫ですよー。今までずっと働き詰めでしたし、好きなだけ休暇を取っても文句を言われる筋合いは無いですよ。」
ブランさんはキッチンで美味しい朝ごはんを作ってくれて、ボク達は同じ食卓を囲ってフレンチ海鮮朝定食に舌鼓を打った。
「まさかこんな事件になるとはな。しかし、あの爆発でもラフィの獅子奮迅な働きのお陰で犠牲者は殆ど居なかった。まぁギャングが幾らか消し飛んだが、警察は皆無事に済んだな。」
「そーね。あの事件に関わった全員が捕まったわ。ラーイの一味もサンライズ関係者も。勿論ラフィを撃ったクソ野郎もね。シブサワに随分可愛がられたみたいで、あのスナイパー。辛うじてヒトの形を保っている感じだったわ。」
「体内に姿勢矯正骨格を仕込まれたのでしょう。拷問が過ぎるとアコライトでも治しきれませんので。体内に骨格を入れて無理やり立たせるので御座います。背骨バッキバキな肉人形状態でザマァって所でしょうか。」
朝食の会話の内容はちょっとバイオレンス。でも開拓者らしいと言えば、そう。
「メガシティをやりたいです。」
FDVRゲーム、メガシティ。
ゲームルールなんて制約無し、何でも出来る電子空間のOW。広大なサイバーシティで好きに暮らして、遊び呆ける事が出来ちゃう。
ベッドに並んでタマさんとフィクサーさんと3人プレイ。ブランさんは秘書業務をしてくれていて、カテンさんも農業を頑張ってくれるようだった。でも、遊びたいです。
今のボクは我儘な悪い子なんだから!
メガシティはそれなりに遊んで、今のボク達の居城はスターサンシャイン通りの大きなマンション。課金して手に入れた最上階のお部屋はとっても広い。ゲーム内で手に入れたインテリアを色々飾って楽しんでいた。
アバターは色々変えれるけど、結局すっぴんで元のまま。ボクがゲーム内で動く時、体格とかが違うと結構パフォーマンスに影響出ちゃう。ゲーム内でも飛んで、跳ねて、ズドン!とスナイパーライフルを発射するんだ。
タマさんは早速前々から準備を進めていたある計画について話し出す。
「そろそろやっちゃいましょうよ、強盗計画。」
「にゃは、ワタシが立てたんです。ゲーム内を騒がせてやりましょうか。」
「強盗‥‥!今日はボク達が悪党なんです!」
ゲーム内だから何をやってもOK!特にメガシティは禁止事項みたいなのが一切ない。良くも悪くも圧倒的自由度が売りなんだ。
街中じゃ銃乱射は日常風景、警察NPCとそこらで撃ち合って何かが爆発する音がいつも聞こえる。変な宗教の街頭演説に、演説する宗教家を空から急に落ちてきた気球が押し潰す。
トラバサミトラップを配置しながらデートするカップル、車で爆走し道路の起伏で吹っ飛んでそのままオープンカフェへロケット入店!
一夜経てばどんな破壊も元通りだから、尚更皆普段の鬱憤を晴らすかのよう好き放題暴れていた。
‥‥因みに全部ボク達が実際にやったプレイだったり。操作の難しい気球を宗教おじさんの頭上へ持っていくのは大変だった。でも押し潰した時に謎の歓声が上がって、良くやった!なんて沢山褒められちゃった。
「あの宗教おやじ、意外と良い装備持ってたわよねー。全部揃えるのに1千万は掛かるでしょ。」
死ぬと装備を全部ロスト、けれど所持金だけはそのまま。あっ、所持金ってゲーム内の通貨ね。リアルマネーじゃないよ。で、オンラインショップなり街頭の店舗なりで装備を購入し直して出直すんだ。ワンボタンでプリセット装備を一括購入!でも所持金が足りなかったら、地道にNPC相手にアルバイトをして稼ぐしか無い。
偶に富豪がユーザーイベントで一攫千金のチャンスを皆に競わせて、そんな様子を動画に撮っては配信したりもしていた。その内ボク達もユーザーイベントをやりたいな。
‥‥因みに外付けの装備とは別に、インプラントを体内に沢山仕込んだりも出来る。そっちは死んでもロストしないから、コツコツお金を掛けて強化していけば死んでもある程度強さを保てたり。
ホロウインドウに投影された強盗計画の図面。
今から美術館に搬入されたって、数日前から噂になっていた未公開の秘宝を奪いに行こうかなって。公開前に秘宝はもう厳重に管理された倉庫内にあって、盗めるものなら盗んでみろって風に鎮座する。何組かの腕に覚えのある強盗チームが向かったけど、失敗したってゲーム内SNSに流れて来ていた。
「超強いNPC警備隊、最高レベルのハッキングインプラント前提のセキュリティ、そんでもって大人数お断りなギミック。鬼畜ステージに諦めムードなのよね。」
同時に忍び込めるのはまさかの3人だけ。個々が最高レベルの装備と技量を持っていないとお話にならない。現役開拓者さんでも匙を投げる難易度。でも、ボク達なら。
「さーて、お宝を掻っ攫いに行きますか。」
ゲーム内の時間はリアルの時間よりもゆっくり流れる。リアルの10分がゲーム内体感時間の30分。1日に数回ゲーム内で昼夜が入れ替わるんだ。街をぶらぶらして夜を待つボク達は、その場の思い付きで発着場へ急行。タクポを購入して、“アタックポ”を楽しむ事に。
やる事は単純。他のヒトが乗っている空飛ぶ乗り物へ、見境なくタクポで突撃するイタズラ。丸型のタクポの形状が複雑な物理演算を齎すのか、当たりどころによっては質量差のある相手を変な挙動で吹き飛ばす事が出来ちゃう。
「タマの嫌がらせスキルは日に日に上達していますね!お空の旅を楽しむユーザーを墜落させてやろうなんてな〜んて悪い猫ちゃんでしょう。」
「いーじゃない。これはそういうゲームだから。快適な空の旅を楽しみたいんならもっと平和なゲームやりなさいよ。」
「うう‥‥でもちょっとワクワクします。現実のボクなら絶対やらないような。そんな悪い事です。」
フィクサーさんはボクを誘惑するよう肩を指でなぞる。
「それもまたヒトの多面性です。聖人がプライベートでもひたすら清貧に過ごしますか?いえいえ、脳内妄想で気に入らない奴を叩きのめし、匿名掲示板で毒を吐き、まとめサイトのコメント欄を荒らし、容赦ない毒舌レビューを投稿します。」
タマさんの尻尾がボクを突く。
「そーよ。ゲームの中でも守護天使でいるの?つまんないじゃない。別にPvP推しのこのゲームのユーザーなんてぶっ殺し合ってナンボな連中ばっかよ。嫌がらせされた程度で運営に通報しながら泣きじゃくるアホは1時間もプレイする前にアンストするわね。」
ヒトの醜い部分を押し付け合って、晒し合い、蠱毒を楽しむ。死んでも失う物は軽微だし、取り戻すのも他所の同ジャンルと比べると簡単な部類。この毒気がたまらないって、多くのヒトを魅了した。
お陰で同時接続数はダントツトップクラス!セールスランキングも上位を常に維持する正に覇権ゲーム!
負の感情に塗れた黒塗りのタクポが浮かび上がった。タクポの操縦をタマさんが、ぶつかって減った耐久値をボクが直し、フィクサーさんが周囲の警戒を。スリーマンセル嫌がらせチーム、発進!!
3分後‥‥
黒塗りのタクポがビルの窓を割って突入、NPCが集うオフィスの中で爆破炎上していた。
同じ事を考えて空を飛ぶユーザーは沢山。ボク達も3機ぐらい空飛ぶ車を弾き飛ばして笑っていたけど、結局ステルス迷彩タクポにぶつかられてビルに突っ込んじゃった。
勿論装備は全ロスト、多分回収に行く前にボク達を撃墜したヒト達に奪われちゃっただろうなって。ボク達も同じように奪ってたけど、その分も持っていかれちゃった。
「フンガ───ッ!!やってくれるじゃない!」
「にゃはは、まぁこうなる気がしていました。」
「あはははっ、でも面白かったです!」
自宅のマンションの一室にてリスポーン、装備を一括購入し直して準備を整えた。
「だったらロケラン担いで全部手当たり次第撃墜してやるわ!!」
「誘導式のを買いましょう。」
「でしたら手堅いユニオン製品をいかが?火力控えめ、ですが追尾性能とロックオン時間の短さがウリですよ!」
同じ武器種でもメーカーによって結構ガッツリ性能が違う。フィクサーさんは嫌がらせコンサルタントとして的確なアドバイスをくれた。
場所はソーラーパネルの並ぶ、大きな施設の屋上。来るまでにセキュリティを回避しながら、ダンジョンのような内部を通って来なきゃいけないから簡単には来れない。でもロケランバーゲンをするならここが絶好の狙撃スポットなんだ。
「さーあ、憂さ晴らしに付き合って貰うわよ!」
ソーラーパネルの裏からコソッとランチャーを担いで、数100m先を飛ぶアタックポをロックオン!向こうにもロックオンされた警告音が飛ぶけど、そんなのお構いなし!
白煙の尾を引くミサイルがボク達3人分飛んで行って‥‥撃墜!
あ‥‥あははっ!あはっ、あはは!
「ラフィのその顔たまんないわよね〜。」
「ラフィさまの貴重な悪人顔。ゾクゾクしますね。」
「悪に振り切れないちょっと引き攣った感じが最高。」
「背徳感と良識の狭間で揺れる良い表情ですよ。」
2人がボクの顔をスクショに撮ってニマニマ。もぅ、恥ずかしいですって!
「この顔を後でロゼに送って驚かせてやろっと。」
「ダメですよ。ロゼさんは疲れているのですから、変な冗談で困らせないで下さい。」
「罪の無い一般ユーザーを撃墜しておいて、そういう所はしっかりしているのも良いですねぇ。」
フィクサーさんも、イジらないでって。
10機ぐらい落とした後、ゲーム内SNSにロケランバーゲンしている奴がいるって話が話題に上がっていた。もう討伐隊が組まれてる?!指名手配されるぅ!
「ここからが本番よ!全部返り討ちにしてやるわ!」
「はいっ!沢山罠を仕掛けましたから!」
「ワタシがセッティングしたんですよ、寄せ集めは敵じゃ無いですね。」
階下のダンジョンのような建物内部のそこかしこにトラップが。原始的なトラバサミ、センサー地雷、ロケランタレット!
「これをやる為の準備資金の用意に結構掛かってますし、動画に撮った分でファンを沸かせてやりましょうか!」
金策3日分の成果を見せる時!
階下の様子は仕掛けた監視カメラで丸わかり。ボク達は悪い顔でカメラを覗き込んでニヤニヤ。
突入して来た第1陣、1個100万円する高級ステルス地雷を踏んで大爆発!高過ぎてそうそう使われないマイナー兵器が火を噴くよ!!装備破壊効果のある兵器類は、倒したユーザーの装備をその場で全てロストさせる凶悪な物。でも当然剥ぎ取れないからこういう防衛戦以外だと使い道が乏しい。その上すっごい高い。
「様子見の軽装備連中でしたが、向こうも装備破壊地雷にビビって弱腰になりましたね。予想通りです。」
高性能で防御性能ピカイチな“ガチ”な装備は当然何千万円も掛かる。1着用意するだけでかなり大変な重装備は、ここ一番って時に使うけど‥‥そういう厄介な装備を着てくるヒトをこれで弾けた。
突入するのは軽装備ばっかり、そんな軽装備を刈り取るタレットと視認性の悪いトラバサミ。タレットに気を取られて足元がお留守なヒト達が、次々トラバサミに噛み付かれて跪いてしまった。
罠の配置が、余りにも邪悪。フィクサーさんは悪い顔でケラケラ笑って、カメラの向こうで悪戦苦闘するヒト達を動画に収めていった。
SNSは大荒れ、正体不明のロケランバーゲンがガチなトラップダンジョンを作ったと大騒ぎ。
「‥‥さて。この辺で良いでしょう。」
フィクサーさんはボク達の肩を叩いた。そう、これも強盗計画の作戦の内。
もうゲーム内の時刻は深夜に差し掛かっていた。このゲームをやる上で一番厄介なのはNPCじゃなくてユーザー。不確定要素になるこういうお祭り騒ぎが好きなヒト達をここに釘付けにして、少しでもリスクを減らして動きたい。
「今宵、メガシティをワタシ達3人で引っ掻き回してやるんです。」
「あはは、動画の再生数が今から楽しみね。」
「早く行きましょう!怪盗ラフィが全部頂いちゃうんですから!」
ボク達はそっと光学迷彩を纏って、“ガチ装備”の姿で屋上から姿を消す。事前に用意したワイヤージップ伝いに、美術館までビル上を駆け抜けたのだった。
因みにメガシティ内の通貨や装備を直接リアルマネーで購入する事は出来ません。
効率の良い金策(銀行強盗ミッション、密輸品の荷運びミッション、腕に自信があるならPvP闘技場の賞金)を行えば1千万単位を稼ぐ事も難しくはないです。
但しどれもそれなりなプレイスキルや、高級装備に仕上がったインプラントが求められます。
ラフィ達は闘技場と銀行強盗を中心に3億ほど稼ぎ上げて強盗計画を実行に移しました。




