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40、綺羅星街の珍味道中

シロさんとハクさんに連れられ、その日の夜は外食をする事になった。当然のように奢られる気満々でタマさんも付いてきて、ブランさんはイルシオンの収納のマギアーツ内に入って貰った。だってご飯は食べないしね。味覚はボクとリンクしてるから近くにいれば味を楽しめるんだ。


「な〜んかタダ乗りって感じでズルいわよねー。」


タマさんは袖口の空間圧縮のマギアーツで小さくなったイルシオンを尻尾で突いた。と、タマさんの尻尾を押し退けてブランさんの小さくなった頭が袖から覗く。


「所詮当機はモノですので。お食事デートと聞いて着飾ったその装飾品一個一個まで個別に席料を払うおつもりで?」


ひぇぇっ?!袖から頭が!怖い!直ぐに戻ってよぉ!


一同はぎょっとした顔で袖の中に戻っていくブランさんを見ていた。そんな中タマさんは普段見せない顔をパーカーのフードで隠す。そう言えば耳にイヤリング付けてるな。


「えっと、似合ってますよ。」


「そう?‥‥恥ずかしいからあんま見んなっての。」


ちょっと突き放すタマさんの尻尾はボクの腕をぎゅうって巻き締めていた。


「ここだよ〜。」


そう言ってハクさんが指差した先にあるのは、全体的にどこか退廃的で薄暗いアングルスに似つかわしくないお洒落な街並み。


綺羅星街(きらぼしがい)って言うんだよ〜。へっへっへ、大人向けな高級ショップ立ち並ぶアングルスの夢の街でっせ〜。」


シロさんもちょっと浮かれた風に、上品に瞬くネオンのゲートの下でクルリと回った。ネオンでギラギラした色街付近の歓楽街と違い、全体的に色合いが目に優しく静かな雰囲気をしていた。通りにはゴミ一つ無く、脇のゴミ箱さえも建物と色合いを合わせたシックなデザイン。街灯が道ゆく人々のお洒落な装いをふわりと照らし、夜の綺羅星街を柔らかく包んでいた。


通りのお店は野外席の多いバーから、楽器屋さんなんてものまで様々。どこからとも無くジャズが通りに控えめに聞こえて来る。アングルスにこんな場所があったんだ。タマシティにも行政区まで行けばあるのかな?でも、ここの自然と安らげる空気感はあの街では出せないと思った。


「いい場所よね〜。一応宿もあるけど、ここのはすっごい高いのよ。流石のアタシでも1年近く滞在するのにここの宿を借りるのは厳しいわね。あくまで酔い潰れた奴が一晩過ごす場所よ。」


そうなんだ。思わずずっといたくなるような居心地の良さを感じながら、シロさんに手を引かれて一つのレストランに行き着いた。レストラン“ジェ・ラ・ラング・パンダントゥ”。欲しがる舌って意味の高級レストラン。お店の部分は5階の部分にあって、一面ガラス張りのホールから綺羅星街を見下ろせるんだって。5階まではレストラン付属の売店や、大きなお風呂やマッサージを楽しめる健康ランドのような施設が入っていた。


「うっわ〜、アンタらどんだけ稼いでんのよ。」


「今回の掃討戦でたっくさん絞ったからね〜。ラフィくんに貢ぐ為ならこれくらい軽い軽い。」


み、貢ぐって。そう言われるとちょっと気が引けちゃう。


「ラフィくんは私達の命の恩人だし、可愛い天使だし、遠慮しないでいいからね。欲しかったら‥‥」


ボクの肩を叩いてハクさんは隣のホテルを指差しウインクを送る。しかしタマさんに引っ張られたボクはとっととエレベーターに引き込まれてしまった。


エレベーターが静かに止まり、ふわっといい匂いのするレストランへ到着する。そして優雅に振る舞うウエイターさんに案内され、窓際の4人席へ腰を下ろした。


「わぁっ。」


綺羅星街とはこういう意味だったんだ、って素直に納得してしまう景色が広がっていた。アングルスの街は大きなドームの中にあるお陰で空がよく見えない。中央の一部は空いているデザインだからそこからは見えるって話を聞いたけど、乱立した建物が邪魔で見上げても見えるものじゃなかった。でも、ここからなら。


見下ろした先で柔らかに光る街並みはカラフルな天の川。一つ一つの商店の明かり、街灯の(ともしび)が綺羅星のよう。この光景を見れただけでも満足げなボクの席に、早速コース料理の前菜が運ばれてきた。


「星屑草の海鮮サラダになります。」


そんな料理の簡単な説明をウエイターさんがしてくれる。ボクの興味は窓の景色からお皿の上で光る不思議なサラダに移っていた。どうやら深未踏地でしか採取出来ない貴重な食材を使ったコース料理らしい。深未踏地に生える多くの植物の栽培には実際の所失敗していて、開拓者が採取してきた僅かな量が市場に出回っているのが現状だった。どうも空気中の成分がどうとか、特殊な成分を含んだ土がどうとか色んな原因を聞いたことがある。


「これこれ、結構不思議な食感なのよね。」


タマさんは食べた事あるんだ。詳しく聞いた事無いけどタマさんは深未踏地に行ったことがあるんだよね。早くボクも行きたいなぁ。


手の届かなかった憧れの断片が、今目の前のお皿の上で薄ら光っていた。一緒になった赤身のお魚と口にかき入れる。つるんとしたお魚の食感に対し、お魚を海苔で巻いた様な独特な食感が合わさり驚いて目を丸くした。海鮮サラダを食べたと思ったら軍艦巻き食べたような‥‥そんな不思議な食感。


味は酸味の効いた美味なドレッシングが大部分を占めてるけど、ついクセになる味だった。


次に出たのはトビアカエイという不思議な生き物が、姿焼きでそのまま散りばめられたグラタン。程よい温度で食べやすいグラタンを掬えば、スプーンにちっちゃなエイのような生き物が。


「知ってる?深未踏地ではそれが群れで飛び回ってるんだって。」


そう言うシロさんも実物を見るのは初めてみたいで、恐る恐るって風に齧っている。皮がカリッと香ばしく、鶏肉のような味わいのお肉はふわとろに柔らかく。一口サイズの唐揚げが詰まったグラタンって味だった。


目の前で湯気を揺らす機械の塊がお皿の上に鎮座している。細長く四角い4対の脚を持つ蟹の様な見た目の不思議な鉄塊。プルプル震えるフォークで突けば硬質な感触を指先に返してきた。


皆の視線が自然とタマさんに集中する。深未踏地経験者のタマさんならスマートな食べ方を知ってるはず。


「何見てんのよ?これはね。」


徐に食器入れから取り出したるは細長いペンのような器具。スイッチを入れれば僅かな作動音と共に短いレーザーの刀身が伸びた。スッと指先で振り下ろされた光のナイフが鉄をバターのように両断し、プシャっと芳醇に匂い立つ溶けた肉のような物が中から溢れ始めたのだ。


「キカイヤシガニの蒸し焼きね。調理に半日くらい掛かるけど、結構イケるのよ。」


ボク達はいそいそと食器入れから器具を取り出して戸惑いながらも見様見真似でありついた。因みにレーザーナイフは使い捨てみたいで、数秒間の点灯の後儚くも消えてしまった。


鉄製の脚を持ち上げてお皿に傾ければ、トロトロトロ‥‥と中身が全部出てくる。白っぽい内容物はスプーンですくって食べるみたい。口内を直ぐに通過していく肉ゼリーはすっごい濃厚で、ちょっと咽せそうになる。だけどついスプーンでちまちますくって口に運びたくなる、クセになる味わいをしていた。


湯気立つ金魚鉢が運ばれてきた。スプーンで底を突けるくらいの深さだけど、中で小さなお魚が沢山泳いでいる。横から見れば、石や水草を模した加工された野菜類が青色ゼリーの敷き砂の上に据えられていた。


「スープだって。」


「踊り食いの一種かな?」


目線を合わせるシロ、ハクさんは中身をスプーンで掻き回す。するとゼリーが溶けて青みがかったスープに変身した。何これ面白い!金魚鉢がスープになるまでの様子を動画に撮りながら、ボクもくるくるとスプーンを回した。後でエステルさんに送って自慢しちゃおう。


味は塩ベースの上品な味わいで、口の中で動き回る小魚に驚いて目をパチパチさせてしまった。驚き一杯の魚介スープだった。


最後に来たのは贅沢なフルーツ盛り。ふんわりと白く発光するパウダーが振りかけられたそれは全て深未踏地産の果物だ。赤、青、黄と鮮やかなフルーツはどれも可愛いデザインにカットされていた。


ブルーベリーみたいな小さな小粒の集った房から摘めば濃縮されたビックリする程の甘みが。

赤白の縞縞模様の果肉を頬張れば、甘くて辛い不思議な味が。

パインを思わせる切り身の齧り付けば、ザクッとリンゴを齧ったような見た目と齟齬の大きい食感と柑橘の味が。


どれも珍味って言葉がピッタリな果物で。最後まで飽きない、食の遊園地を満喫したのだった。

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