エリック殿下の暴走
エリックはずっとイライラしていた。
思い通りにならない。自分の思い描いていた、シナオリ通りにならない。
否定され、訂正された。
自分がずっと正しいと信じていた。
今まで、全て思い通りにしてきた。やりたい事だけやって、やりたくない事はやらなくていい。
周りが勝手にやっていた。周りがなんでもしてくれた。
否定なんて許さない。訂正なんて必要ない。
生意気なジュディアンナが悪い。理解しようとしない周りが悪い。
能天気な兄よりも私の方が優れている。
王位とは程遠い第5皇子など私の足元にも及ば無い。
なのに、何故、私の思い通りにならない!!?
異常なほどの自己中心的なエリックの思考。
エリックの中で何かがプツンと音をたてて切れた。
「エリック殿下に何を言われ、言い包められ、思い込んだのか知りませんが、時と場所と相手は選んだほうがよろしいですよ」
「うっ、うううう」
溜息を吐きながらのジュディアンナの言葉に涙目になるグーデル嬢。
「おい!!モニカを泣かせるとは無礼だぞ!!ジュディアンナ!!」
「私は真実を言ったまでです。寧ろこのような公の場で勝手に婚約者だと言われ、謂れのない罪をかけられ迷惑を被っていたのは私と私の父です」
「わ、私はこの国の王子だぞ!?ふざけるのも大概にしろ!ジュディアンナ!!」
「私は当然の主張をしているだけです」
「うるさい!!!」
「いい加減、子供のような主張はお辞め下さい。はっきり言って見苦しいだけです」
冷ややかな目をするジュディアンナに顔を真っ赤にして吠えるエリック殿下。
「ふ、ふざけるなぁ!!私はこの国の次期国王になる身だぞ!!身の程を弁えろ!!!」
ホールに響き渡る程の大声を張るエリック殿下の言葉に、思わず絶句する。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・フッ」
ジュディアンナは小さく乾いた笑みを零し、クルッと振り向き高台にいる国王陛下へ真顔で、
「国王陛下、リーナ叔母様。大変です。エリック殿下は大変厄介な熱病を発病したご様子です。早急に治療と隔離が必要です」
「ああ、そうだな。タチに悪い病気は早々に対処せねばな」
感情が消えた真顔のジュディアンナに国王陛下はすぐに答えてくれた。
国王陛下が右手上げると、ホールに控えていた衛兵が殿下とグーデル嬢に近づく。
近づいてくる衛兵に怯えるグーデル嬢。
「え!?ヤダッ!!」
「なっ!!父上!!私は病気では無い!!」
「いや、貴殿の発言は頭が沸いているとしか思えん発言だぞ」
「何だと!!?」
ジン皇子の指摘に噛みつく勢いでジン皇子に睨み付けるエリック殿下。
「第1王子の兄上がいるのに第2王子である貴殿がどうして次期国王だと言える。ライアン殿下が王位を放棄したと宣言したのなら話は別だろうが、そのような話は聞いていない」
「兄上は既に王位を棄てたも同然。ならば、第2王子である私が王位を継ぐのは自然の流れだ!!」
「はぁ!?」
「私が王位に就けば、ジュディアンナ!!私を侮辱したお前など簡単に裁くことが出来るんだぞ!?そこの生意気な第5皇子も一緒に跪かせてやる!!」
いや、本当に何を言っているのでしょう。この人は。
興奮しているのか、いきなりのエリック殿下の暴走に周りが騒つく。
「ライアン殿下が王位を破棄!?」
「そのような話聞いていませんぞ!!」
「何かの間違いでは??」
「だが、もし本当にライアン殿下が王位を退いたのなら次期国王は本当にエリック殿下が?」
「いや、それは・・・・」
「とい言うよりも、この発言はあまりにも、」
周りの貴族達からライアン殿下の王位破棄の事実確認を求め、不安と混乱の声が騒つく。
「エリック。それは一体どう言う事だ。ライアンが王位を棄てたとは、何のことだ」
言葉は静かだが、明らかに怒りを含んだ国王陛下の言葉に、エリック殿下は気にすることもせず、
「決まっています。兄上がビオラ嬢を妻に迎えたからです」
「え!?」
何故か自信満々にそう言い放つ。
興奮でエリック殿下の目は血走り、明らかに異様に見えた。
エリック殿下の口から親友ビオラの名が出た事に、驚くジュディアンナ。
まさか、ここでビオラの名前が出てくるとは思わなかった。
「・・・・ライアン殿下の王位継承破棄とビオラ、いえ、妃殿下様と何の関係があるんですか?」
「何を言っている。兄上は自分の力で立つことも出来ない女性、欠陥を持つ女性を娶った。欠陥の女性と結婚。つまり、兄上は国王なるのを諦めたと言うことだ」
「・・・・・・・・・・・」
エリック殿下の言葉に周りの動きが止まった。
「意味がわからない」
意味の分からない自論を熱演するエリック殿下にジュディアンナも思わず息が詰まった。
意味不明な自論だが、解ることが一つ。
この人はビオラとライアン殿下を卑下している。
「・・・・エリック殿下。ご自分で何を言っているのか、理解出来ていますか?」
先程の怒りとは違うまた別の怒りの感情が溢れるのを抑えつつ殿下を睨み返す。
「は?何をだ?」
睨み返す私をエリック殿下は鼻で笑う。
「大体兄上は物好きだ。わざわざ、欠陥持ちの女性を妻に迎えたからだな。あの身体では、この国の跡を継ぐ御子を産むのも難しいだろうな。やはり妻にするなら健康体で従順な娘に限る」
とぼけた様に嘲笑うエリック殿下に今まで以上に嫌悪感を抱く。
エリック殿下は先程まですました顔をしていたジュディアンナが明らかに嫌悪感の表情を変えた事に気を良くしたエリック殿下は嘲る笑みを深くする。
周りから白い目で見られ、衛兵に囲まれているのに、エリック殿下の暴走はまだ続いた。
「いくら顔が良くても、あのような立てない脚では王家の恥さらしもいいところだと言うのに、兄上はビオラ嬢以外の妻を娶らないと宣言までした。挙げ句の果てには御子を身籠らせるとは、生まれてくる御子もどんな欠陥を持って生まれてくるのか分かったものではない。
ああ、そんな娘と交流関係にあるお前も同格か?」
「いい加減にして下さい!!」
あまりの親友への暴言にジュディアンナが声を荒げた。
今この場にビオラが居なくて本当に良かった。
「ビオラは、妃殿下として立派に役目を果たしライアン殿下を支えています!!私の事はともかく、彼女の、私の親友の事を何も知らないのにそんな事を言うのは止めてくださ、」
バリン!!!
エリック殿下のあまりにも酷い言葉に反論しようと声を上げる私の言葉が何かが割れた音で遮られた。
「ッ!!??」
「ッ、」
ジュディアンナとジン皇子は音に驚き反射的に音がした背後を振り向くと、目に写ったのは、いつもの大らかな笑顔のライアン殿下ではなく、感情が見えない真顔で握り締めた右手から真紅の滴を滴り落としているライアン殿下の姿だった。
ライアン殿下、怒りでワイングラスを握りつぶした・・・・・・。
「!!、ライアン!!」
悲鳴に近い声を上げたリーナ叔母様が、すぐさまライアン殿下に駆け寄る。
「・・・・ああ、大丈夫ですよ母上。手袋はしていたので怪我はしていませんよ」
声に抑揚が無く、眈々と答えるライアン殿下に思わず背筋が冷たいものを感じた。
「エリック。俺は前にも忠告したよな。俺の妻を欠陥扱いするなと・・・・・」
抑揚の無い低い声。
そして、同時に思った。
あ、あのバカ殿下、終わった、と。
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