お話ししましょう
ジュディアンナは下げていた頭をあげ、高台からエリック殿下とグーデル嬢を見下ろす。
さて、国王陛下の許しも出た事ですし、どうケリをつけようか。
「ッッ、私を見下ろすな!!!」
・・・・まずは、そこでキャンキャン吠えて煩い殿方にご説明を願いましょうか。
「殿下」
「ッ、」
ジュディアンナの凛とした声がホールに響き、エリック殿下はビクリと肩を震わせた。
「殿下は、私がグーデル嬢に悪質な嫌がらせをした、と、そう仰いました。その事について詳しいご説明をよろしいでしょうか」
そう言いながら高台を降りて行くと、カッ、カッ、カッ、とジュディアンナの履いているハイヒールの足音が異様にホール内に響いた。
いや、ジュディアンナの足音が異様に響くほど、ホール内が静まりかえっていたのだ。
だが、ジュディアンナはその静寂を気にする事なく、ジン皇子の傍に歩み寄る。
「13歳からギア王国へ留学していた私が、いつ、グーデル嬢に悪質な嫌がらせ行為をしたと言うのでしょうか」
淡々と静かな口調でなるべく優しく殿下に問いかけるが、エリック殿下とグーデル嬢は青い顔で一歩後退した。
「俺の婚約者は随分と御立腹のようだな」
隣から声には出さないが、ジン皇子の笑う声が聞こえた。
「怒っていますけど、何か?」
「いえ、ナンデモアリマセン」
「それと、面白半分で殿下を煽って要らぬ火の粉をこちらに飛ばさないでください。迷惑です」
「ハイ、スミマセンデシタ」
笑顔で答えたつもりだったのに、何故かジン皇子に目を逸らされた。
まぁ、目が笑っていない自覚はありましたけど。
「ッ、も、モニカがずっと学園で嫌がらせを受けたと私に泣いて言ってきたんだ!!モニカが嫌がらせを受けた時期が私と出逢ってからだから、その、婚約者、だったジュディアンナが、私の寵愛を受けるモニカに、嫉妬して、学園内で嫌がらせを強行させた」
「と、ご自分で解釈された訳ですね。エリック殿下」
「わ、私の言葉を遮るな!!」
先程は私を真犯人と言わんばかりに睨みつけていたのに、気まずそうに目線を泳がせ語尾が段々と弱くなっていくエリック殿下。
「私は婚約者だったのでは無く、婚約者ですらありません。何回このやり取りを繰り返すおつもりですか?」
「う、煩い!!」
「まぁ、その話は殿下の勘違いだったと置いといて」
「おい!無視するな!!」
「グーデル嬢」
キャンキャンと吠える殿下を無視して、殿下の後ろで震えているグーデル嬢の名を呼ぶ。
「ヒッ」
ビクリと身体を震わせ小さく声を痙攣らせるグーデル嬢。
そんなに怯えなくても取って食いやしませんよ。
「貴女が嫌がらせを受けたと言う事は事実でしょうか?」
「ッ、ほ、本当です!!嘘じゃありません!!」
「では、どんな嫌がらせを受けたか、教えていただけますか?」
「え?」
「どうかしましたか?まさか、私からの嫌がらせはすべで貴女の妄想の出来事なんて、そんな馬鹿げた事を仰るつもりではありませんでしょ」
「わ、私は嘘なんてついていません!本当に嫌がらせを受けていました!!」
「おい!ジュディアンナ!!モニカに酷い事を、」
「エリック殿下は少しお黙り下さい。話が前に進みません」
「ッ、ぐ、ぐ・・・・・」
話に割り込もうとしたエリック殿下の言葉を遮り鋭い眼で睨み付けると悔しそうに押し黙る殿下。
「では、グーデル嬢。何があったのかお話し願いますか」
「・・・・・・・・はい」
エリック殿下を睨み付けた眼を少し緩めて、グーデル嬢に問いかけると、硬い表情でグーデル嬢は小さく返事をした。
「い、1年くらい前にエリック様から声をかけられてから、しばらくしてクラスの女子生徒から無視されるようになって、私のペンなどに小物が時々無くなるようになったし、連絡事項も私には伝えられていない時もありました。
廊下を歩いているとクスクス笑わられたりもしました。先生に言っても生徒同士で解決しなさいって、取り合って貰えませんでした」
眼を伏せピンクのドレスのスカートを握り締めるグーデル嬢。
ジュディアンナはグーデル嬢の話を聞きながら目線を周りに走らせると、視界の端で数人の令嬢が青い顔で眼を伏せいた。
この様子だと、嫌がらせの話は嘘とは言い難いようだ。
「その度にエリック様が慰めてくれたんですけど、段々、物が無くなる回数が増えて、嫌がらせもエスカレートしていきました。
学園のロッカーに枯れた花が沢山押し込められていたり、大好きなお菓子の箱に虫や酷い時には手足が千切れた人形が入っていたりもしました。
他にもプレゼントが贈られてきたと思って開けたら小さな動物の死体が入っていてたり、送られた手紙の内容には私の普段の行動がビッシリ書かれてました。
他にも私の家には私宛に首輪や悪趣味な子供っぽいドレス一式が贈り付けられて、『娘さんにはコレがお似合い』ってメッセージまで付いて。
最近じゃ、誰かに見られているような視線も感じるし」
堰を切ったように止め処なく語る内容のグーデル嬢に私も周りも軽く引いてしまった。
あ、この人、結構本気で、イジメに合っていた。
目が死にかかっている。
・・・・・・でも、この内容は嫌がらせと言うよりも、
「・・・・・グーデル嬢、ちょっとよろしいでしょうか」
「、な、何ですか」
「その事は先生方にご相談されましたか?」
「・・・・どうせ、また生徒同士で解決しなさいって言われるだけです」
話を一旦止めて、ジュディアンナが質問するが、拗ねた子供にように唇を尖らせるグーデル嬢。
つまり、言っていなかったと・・・・。
「・・・・・・何故、そのような嫌がらせが私の所為だと思われたのでしょうか」
思わず溜息を吐きたくなるのを抑えて質問をする。
「え?だって、エリック様に相談したらエリック様が自分の婚約者のジュディアンナ様が私に嫉妬して、学園の生徒を使って私に嫌がらせを仕掛けたに違いないって」
きょとんとした顔をするグーデル嬢のその言葉にジュディアンナは
「はぁぁぁ・・・・・・」
その場で深く溜息を吐いた。
「・・・・・グーデル嬢。私は貴女と今日が初対面。悪口を言おうにも貴女の事は知りませんでした。
更に貴女がらせにあっていた時は私はギア帝国王立学院で勉学に勤しんでいました。
もし、私の言葉に疑いがあるのであればギア帝国王立学院への問い合わせをお勧めします」
「え。・・・で、でも!!」
「それに私は面識の無い人に枯れた花も虫や手足が千切れた人形入りのお菓子も行動を書き綴った手紙も悪趣味なドレスを贈る趣味はありません。
因みに、私の友人達知人達は自分の考えをしっかり持っている方達なので、安易に人を陥れる事はありません」
「でも、う・・・・ぁぅ・・・・」
言おうとする事をジュディアンナの言葉に遮られ、たじろぐグーデル嬢。
さっきまでの仔犬のような威勢は何処へやら。
「それに、話を聞いていると、前半は確かに学園内でのトラブルのようですけど、途中から嫉妬からの嫌がらせと言うよりも、ストーカーの被害のように聞こえるのですが」
「へ?」
少し困った顔をするジュディアンナの言葉にグーデル嬢が間抜けた声を出す。
「え?ストーカー?」
「はい。枯れた花や虫や人形は大目に見て嫌がらせと捉えて差し支えないでしょうが、狂気じみた悪質なプレゼントや行動を綴った手紙や何処からか見られている視線は・・・・・どちらかと言えばストーカーの類いだと思いますが?」
「え、嘘・・・」
ジュディアンナの言葉にサァ、と顔色を青くするグーデル嬢。
「お心当たりはありますか?」
「ッ、・・・・・・いいえ、何も・・・・・」
そう答えたものの、青い顔で視線を泳がせるグーデル嬢。
心当たり、というよりも思い当たるところはあるらしい。だけど、今はそれはどうでもいい。
「グーデル嬢」
「ッ、」
「貴女に対しての私からの嫌がらせは、貴女とエリック殿下の勘違い、と解釈してよろしいでしょうか」
「くッ、う、うぅぅ・・・・」
悔しそうに、小さな唇を噛み締め、睨んでくるグーデル嬢を見て淡く色付いた唇に不敵な微笑みを浮かべるジュディアンナ。
「無言は肯定と受け取ります」
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