表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
本編
9/42

対応は鬼のよう






 午後の強い日差しの中、ウルディルドの野外第二演習場には、普段は見ることのない、多くの野次馬が集まっていた。彼らのお目当ては、何を隠そう戦乙女との合同訓練だ。

 ユルフェルの戦乙女と騎士団の合同訓練は、もちろん歴史上初めての事だ。どこからかその話を聞きつけ集まった野次馬は、まだ現れぬ戦乙女に興奮を隠せないようだった。

 

 もしかしたら彼女達を間近で見れるかも知れない、とそわそわ落ち着かない空気の中、それは唐突にやってきた。

 

 ――バサッバサッ

 風を掻く音が辺りに響き、空が一瞬で黒く染まる。

 

 群がる野次馬は勿論の事、整然と整列していた騎士達までもがどよめ気をあげる。そんな周囲の反応を気にもとめず、次々と空から舞い降りてくる飛竜達。それらが巻き起こす風で、砂が舞い上がり、人々の視界を遮った。

 

 ――ドスンッドスンッ

 次々に地面に響く音は、飛竜が着地する音だろう。

 

 興奮した馬の嘶きとそれを慌てて宥める騎士の声、俄に騒然とした演習場。風の呻きと荒れ狂う砂埃がようやく収まり、人々が恐る恐る目を開ける。

 

 そこには、数多の飛竜が威風堂々と居並ぶ、畏怖すら抱く光景が広がっていた。

 

 戦乙女を背に乗せたまま翼を折り綺麗に整列した飛竜達は、艶やかな黒い鱗を纏い、鋭く光る金の目を前に向け首を上げ微動だにしない。人々はその光景の美しさと迫力に、知らず知らずのうちに圧倒されていた。

 

 その時、またもや空から飛竜が降ってきた。素人目にも格が違うと分かる二頭が、居並ぶ飛竜達の前にふわりと着地する。

 

 首から胸に掛け、斜めに走る大きな傷跡を持つ飛竜、ルェドゥラ。その背に乗るのは、戦乙女筆頭のアウエルだ。

 そしてルェドゥラよりも一回り大きく、気が立った様子で周囲を威嚇するのは、筆頭補佐であるウイネを乗せたユェドゥラだ。ウイネを乗せたユェドゥラは、ざわめく野次馬が気にさわるのか、長い尾を苛立たしげに地面に打ち付け、低く唸りながら牙を剥く。その首を宥めるよう軽く叩いたウイネは、居並ぶ乙女達に向かって、頭上に上げた右手を水平に、すっと下ろした。

 それを合図に飛竜が一斉に身を屈め、その背から乙女達が飛び降りる。

 アウエルはその光景に満足げに頷き、ウイネを褒めた。

 

「また一段と動きが揃うようになってるじゃなぁい」

「動きの乱れは気の乱れに繋がります。皆、日々精進しておりますよ」

 

 全く真面目な己の右腕を満足げに笑ったアウエルは、徐に首を巡らせ、浮かべていた笑みを消した。

 

「別に普段珍しそうに見られるのは気にしないけど、訓練の時まで来られるのは、とっても気にさわるわねぇ」

 

 地面に飛び降り珍しく苛立つアウエルは、普段の不真面目な印象からは想像出来ないが、訓練等においては非常にストイックで厳しい一面をもつ。その厳しさは、常に真面目で妥協を許さないウイネですら、目を見張るほどだ。

 

「確かに、我々は見せ物では無いのですから、少しは遠慮していただきたいものですね。可哀想に、私のユェドゥラも気が立っているようです」

 

 アウエルに続いて地面に降りたウイネも、ユェドゥラにすり寄りながら野次馬を睨む。

 

「ほんとよねぇ、どうにかしてくれないかしら」

 

 そう二人が話していた時だった。

 

「っ貴様ら!一体此処で何をしている!とっとと出ていかんか阿呆共め!」

 

 演習場に大きな怒声が響き渡る。肩を怒らせ憤怒の表情で演習場に入ってきたのは、野次馬の事を聞き慌てて駆けつけたウルフェインだ。


「今すぐ解散しろ!訓練は遊びじゃないんだぞ、大馬鹿者が!」

 

 野次馬に怒鳴り散らすウルフェインは、申し訳ないがどう好意的に、優しくみても、地獄から這い出して来た荒ぶる鬼にしか見えない。

 

「ひゅーひゅー!やるじゃない!見直したわぁ」

 

 野次馬を鬼の形相で演習場から追い出したウルフェインに、アウエルが満面の笑みで拍手を送る。ウイネも少し表情を輝かせ、おぉーと拍手した。

 

「っ申し訳ない、我が国の者が失礼をした。今後はこの様なことが無いよう気を付けるので、気を悪くしないでいただきたい」

 

 フーッフーッと肩で息をし、鬼の形相で荒ぶるウルフェインは、もし次この様なことが起これば、今度は野次馬を絞め殺してしまうのでは無いだろうか。

 

「大丈夫ですよ、フェイン。貴方が追い出して下さいましたし、ユェドラも落ち着きましたしね。なぁユェドゥラ」

 

 先程まで苛立っていたユェドゥラも、野次馬が居なくなった事で落ち着いていた。それどころか、上機嫌にウルフェインの体に頭を擦り付け、撫でろとせがんでいた。

 

「ふふっ……撫でて欲しいそうですよ」

 

 ユェドゥラの反応に戸惑っているウルフェインに促す。ウイネの言葉に安心したのか、ウルフェインは言われた通り優しく撫で始めた。

 

「あっらぁ、いつの間にそんなに仲良くなったのよ、ユェドゥラまで懐いちゃって!」 

 

 聞いてないわよと憤慨するアウエルに、何で一々報告する必要があるんです、と呆れるウイネ。

 

「っもう!いいわよ、とっとと訓練始めるわよっ」

 

 ふーんだっ!とへそを曲げたアウエルに、やれやれと肩をすくめたウイネは、目が合ったウルフェインと揃って苦笑した。

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ