空中を乱舞する
ぷいっと後ろを向いて拗ねてしまったアウエルは無視して、ウルフェインに尋ねる。
「どうします、まずは我々の動きを見ますか?こちらの動きを把握していただいた方が、後々やりやすいですよね」
首を傾げるウイネに、ウルフェインも少し考えてから同意する。
「そうだな。とりあえず、動ける速さや範囲くらいは確認しておきたい。あと、馬が怯えないかも見てみなければ」
「分かりました、アウエル様もそれで宜しいですか」
「べっつに、いいわよぉ」
つーんとそっぽを向くアウエル。その態度はさておき、了承は得たと判断し、居並ぶ戦乙女達に視線を巡らせる。
「三番隊!直ちに騎竜し、高速で竜舞!」
ウイネの鋭い声に、乙女らを乗せた二十頭ほどの飛竜が、即座に空に舞い上がる。ゴウゴウと巻き起こる凄まじい風圧に、近くに立っていた騎士たちが思わずふらつく。ちなみに乙女達は風圧なんて馴れたもの、自分の相棒が素早く広げた翼に守られ、髪を舞わせる程度で終わった。
「ウイネ、竜舞とは何だ?」
ウルフェインの疑問も尤もだろう。竜舞とは、本来ユルフェルの祭りで披露される、竜の神に奉納する為の曲技飛行だ。ただその難しさから、積極的に訓練に取り入れている。
一斉に舞い上がった飛竜達は、空に円を描いたかと思うと凄まじい速さでその形を変えて行く。円から線へ、線から球へ、空へ散り地に降り、そして急転換しまた空へ飛ぶ。
低空で飛んでいる訳でも無いのに、どこからか突風が巻き起こり、地上は軽い嵐だ。縦横無尽、自由自在に高速で空を舞う飛竜達は、圧倒的でひどく美しかった。
「これは戦乙女の行う飛行訓練の一種ですが、これなら飛行技術が分かりやすく理解していただけるでしょう?」
「そうだな、これだけ動けると分かれば、作戦を考える時にも役に立つ。この速さはかなり戦力になるだろう」
「そう言っていただけると嬉しいです」
満足げに頷くウルフェインに、誇らしくなって顔が綻ぶ。他の騎士達も、戦乙女と飛竜の息の合った動きに感心しているようだ。
「馬達も思ったより落ち着いてますし、いざ混戦になっても大丈夫そうですね」
さすがは勇壮と知られるウルディルドの馬、と言えばいいのか、最初は飛竜に驚き、恐々と荒ぶっていた馬達も、少し時間がたった今では落ち着いている。これなら近くで戦う事になっても大丈夫だろう。ただ、飛竜の起こす風圧には慣れて貰わねばならないが。
「ああ。そういえば、戦乙女は槍しか使わないのか?みな槍を持っているようだが」
「そうですね。飛竜から攻撃するには、剣では長さが足りませんし」
ウイネの背に収まる槍に目を向けたウルフェインに、肩を竦めてみせる。剣など持って飛竜に乗った日には、刃を擦らせる事すら叶わないだろう。……もしくは落馬ならぬ落竜をするか。落竜なんてしたものなら、あまりの恥ずかしさに里を歩けなくなる。
「なるほど、だから槍なのか。ウルディルドでは余り使われないからな……。そうだ、うちの奴と模擬戦でもやってみないか?普段槍を相手にしないんだ、いい訓練になるだろう」
「はぁ、模擬戦ですか……まぁ、特に問題はありませんが」
「あらっ!いいじゃなぁい、面白そうだし」
模擬戦と聞き食い付いてきたのは、以外と戦闘狂のアウエルだ。
「言っときますが、アウエル様だけは無しですよ」
「っえぇぇぇ!」
そんなぁ!と嘆く人に呆れた顔を向ける。アウエルに模擬戦なんてさせてみろ、怪我人どころか死人が出る。
「そちらはどなたが出られますか?」
「そうだな、俺の直属の部下を出そう」
「わかりました、ではこちらも私の部下を出します。いいですか?」
「もちろんだ」
お互いにニヤリと笑い、部下を呼ぶ。演習場の真ん中に場所を作り、いざ模擬戦の開始だ。
「わっくわくしちゃうわぁ!」
「ドキドキです」
上機嫌なアウエルと共に、実はこっそり楽しんでいるウイネ。普段は落ち着いているウイネも、やはり短気で好戦的な戦乙女の性質を持っているのだ。
「両者、前へ!」
ウルフェインが真ん中に立ち、声を張る。相手は栗毛の馬に跨がった、まだ若そうな騎士だった。こちらからも飛竜に乗った少女を送り出す。お互いやる気は満々のようだ。
「原則、飛行は禁止する。いいな?それでは……はじめっ!」
降り下ろされた手を合図に、いきなり正面からぶつかり合う。
――ガキンッ!
甲高い金属の当たる音が響く。上手く飛竜の翼の下に潜り込んだ騎士が、剣を繰り出す。それに飛竜が素早く体を回転させ、上から少女が槍を突き下ろす。それを剣で受け止め、巧みに馬を操り、後ろに回り込む。
――キンッキンッ
何度も繰り返される激しい攻防に、観戦していたウイネもつい前のめりになっていく。
「ほう、あの者も中々やるな」
演習場の真ん中からウイネの隣に避難していたウルフェインが、思わず称賛した。その言葉に、つい顔をにやけさせる。
「ねぇねぇ、なんかあの二人、何か話してなぁい?」
「……あれ、ほんとですね」
確かによく目を凝らすと、戦いの最中、お互いが接近した時に口が動いている。
「あの馬鹿めっ、真面目にやらんかっ!」
ウルフェインが顔をしかめ罵った時だった。
「っこぉぉおんの、ボケぇぇぇっっ!!」
――ドゴォォッ!!!
戦っていた少女が、いきなりものすごい叫びと共に、馬上の騎士を蹴り飛ばした。綺麗に吹っ飛ばされた騎士は、大きな音をたて、地面に落下する。
「あら、勝負あり?」
「ありじゃないですか?」
「……そうだな。こんなにあっさり負けるとは、なんて情けない」
「まぁまぁ。それより、試合終了ですよね?」
「ああ、少し行ってくる」
両者そこまでだっ!と叫びながら、ウルフェインが倒れた騎士に駆け寄る。どうやらあの騎士は、気を失っているようだ。
「大丈夫でしょうか?」
「大丈夫なんじゃない?ほら、もう目を覚ましたみたいだし」
ウルフェインに支えられ、頭に手を当てながら首を振っている。そして何か問いかけたウルフェインに、顔を上げて答える。
――バコッ
「あら、殴られた」
頭を殴られ、またもや地面に倒れこむ騎士。
「また気絶しましたね」
「ほんとねぇ。まったく、忙しい子ね」
「負けたら殴られるんでしょうか?随分と厳しいですね」
慌てて他の騎士が駆け寄ってくる様子を見ながら、呑気に会話する。やはり彼はあの見た目通り、厳しい人なのだろう。騎士達に押さえ込まれながらも、いまだ殴りかかろうと暴れるウルフェインに、もはや扱いが猛獣のようですよ、と心のなかで教えてやる。
「……で、いつ仲良くなったの?」
「……」




