新学期
夏休み前の終業式がある種心躍るイベントなら、九月の始業式はなんなんだろう。
少なくとも昨日の寝る前はかったるかった。
だけど、こうして久しぶりに同級生に会ってみると、学校も悪くないように思えてくる。
まあ、一日目は暇な始業式と、教室で宿題等を提出する儀式だけなので、まだ楽だ。
「たみっちゃん! おひさー!!」
朝、教室に行くと、てこてここちらに寄ってきたのは他でもない笹塚。可愛らしい。
「おう。夏休みどっか行ったか?」
「うん! 花火大会に行ったよー!!」
ほんわかと微笑む笹塚を目の保養にした。
「よお! たみっちゃん!」
染川は冷やかすように肩を組んでくる。
「ああ。元気にしていたか?」
「バイトが忙しすぎて死んだわー。今日もバイトだし。完全に死亡フラグ」
死亡フラグなんて言葉を使ってはいるが、こいつは絶対フラグが何かは知らない。
そのまま、俺は自分の席に着く。
隣には望月――――はいなかった。
「望月さんなら、川辺くんとどっか行ったけど」
クラスで一番望月と仲が良いハーフの美少女、塚本は何故か俺を睨みながらそう言う。
「ふうん」
「あの二人、仲良いよね」
だから何故俺を睨む。
「幼馴染だからな」
俺がそう答えると、塚本はふい、と視線をずらした。
「望月さんのほうは知らないけど、川辺くんは望月さんのこと気に入っているんじゃない?」
「そうかもな」
俺だってそれくらい気が付いている。要するに塚本は、二人の恋路を邪魔するなと言いたいのだろう。
俺の言葉に、塚本はますます不機嫌そうに形の良い双眸を細めた。
「ふうん。あなたの臆病って全然免罪符にならないから」
塚本とこんなに喋ったのは初めてかもしれないが、彼女はいつも言葉が足りない。
***
望月は授業が始まる直前になって教室に帰ってきた。
「川辺くんはいい人だね! ダフトパンクのおすすめの曲を教えてくれた!」
わざわざ聴いてやるお前もなかなか良い奴だと思ったが、言わなかった。
「よかったな」
「うん! 川辺くんってセンス良いしね!」
「俺よりな」
なんとなくそう返すと、望月は慌てて否定した。
「そんなことないよ! 田宮くんが勧めてくれた『カパネットにとり』もいい曲だったし!」
「あ~……」
なんと返せばいいかよくわからなくなって、お茶を濁す。
望月はにこにこと微笑んでいた。
***
「……そういえばずっと気になっていたんだが、額の怪我は?」
昼休みに望月に尋ねると、望月は曖昧に笑う。
「夏休みに遊んだ時に、田宮くんにCDを借りたじゃない」
「おう。昨日秋葉原行った時にな」
何週間も前みたいに話すなよ。
「それで、昨日CDを聴こうとしたら、手が滑って床に落としそうになったの。
で、その時ベッドの上に立っていたんだけど、床にダイブしてCDキャッチして、代わりに頭が床に直撃。気を失いましたとさ」
「CDくらい壊してもいいから、自分を大切にしろよ」
俺が呆れたようにそう言うと、望月は力なく笑った。
「自分でも、アホなことしたと思うよ」




