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一日目

▼勇者が現れた。

「ギャアァァァッ!!」

▼勇者は力尽きた。

「…全く最近の勇者は軟弱者ばかりで相手にならんな。」

勇者パーティーを迎え撃つ為だけの【終焉の間】別名【無駄に大きい豪華な部屋】から魔王の自室に戻る。特に変わったところのある部屋ではないが机の上には大量お菓子が鎮座ましましていて、机は書類二枚分並べられる程度の面積しか見えていない。

魔王は甘党だ。

「つかなんでこんなに勇者いんだよ…普通一人だろ、俺だって一人なんだから…」

ぶつぶつ良いながらポテチの大袋を開ける。

今のマイブーム。甘くはないが部下に進められ、チープな味に病み付きになった。

「そもそもなんで彼奴等何度も生き返るんだよ…化け物じゃねぇか、魔王だって名乗れるだろうが…」

つか何度も死ぬ位ならレベル99にしてから来いっての…

パリパリパリパリ…ピンポンパンポーン♪

『▼勇者が現れます。魔王様は早急に【終焉の間】にスタンバイしてください。』

「はいはいはいはい!土日は勇者が多いなこの野郎…」

城内放送にせっつかれながら、ポテチの空袋を丸めゴミ箱に突っ込み【終焉の間】に急ぐ。


ドンドンッ

勇者が【無駄に大きい扉】を激しく叩く。

ったく今回の勇者は礼儀がなってないな…

魔王の定位置【無駄に豪華な椅子】に座り、服装を整えて怖い顔を作る。

魔法を使い【無駄に大きい扉】の閂を抜く。

何故自分で開けに行かないか。答えは一つ、カッコ悪いからだ。

ぎぃぃい…

如何にもな音を立てて扉が重々しく開く。無論、雰囲気の為に蝶番に油は挿さない。

▼勇者が現れた。

「ふはははは、よく来たな、勇者よっ!?」

よ、の声が完全に裏がえった。それ程に俺は愕然としたのだ。

何故奴はあんなモノを持っている…!?

勇者は気にすることも無く話を続ける。

「お前が魔王か!お前の部下達は倒させてもらったぞ。」


え、何、スルーの方向なのか?つっこんだら負けなのか?

否、きっと負けなのだろう。頑張れ俺、心を強く持て、魔王。

「あ、ああ奴らはただの駒に過ぎん。幾らでも代わりはいるのだからな。」

無事テンプレートのセリフを続ける。頑張ったな俺、誰か褒めろ。

「くっ、冷酷とは聞いていたが部下といえど、仲間に対しその扱い…許せない!この俺の剣で朽ちるが良ぃ「待て待て待て!!」

無理だった。俺の心は保たなかった。仕方ないと思う。

「…聞こう、勇者よ…貴様が持っているその武器は何だ?」

勇者は右手の武器を俺に向けている。

普通の勇者達は魔王を倒す為に特別な剣を用意することが多い。

【聖剣】であったり【光の剣】や【退魔の剣】だったり。最低でも何らかの【妖刀】などを用意するものだ。

しかし目の前の勇者のそれは俺の知るどの剣にも当て嵌まら無いように見えた。少なくとも俺には。

いや、もしかしたらシークレットアイテムかもしれないし、油断は禁物だ…。

「【檜の棒だ】!!」 「初期装備じゃねぇかぁぁぁあ!!何でそんなに誇らしげなんだよっ!?」

やや食い気味に叫ぶ。そう、奴が右手に持っているのはただの木の棒。この状態でテンプレート通りに進められる奴がいたら連れてこい、崇めてやる。

「え、何、魔王舐めてんの?魔王なんて初期装備で余裕的なアレ?アレなのかこん畜生!!よりにもよって剣ですらねぇしせめて木は木でも『木刀』にしろっパーティーメンバーだって一人も連れてねぇしっ!!」

「長文お疲れ魔王。一息で言い切ったな。つか初期装備とかメタ発言すんな。」

基本的な勇者パーティーは勇者が剣士、あとは魔法使い、格闘家、弓使いが基本だ。なのにコイツはその内の何一つ満たしていない。

「では質問に答えよう、何故敢えて【檜の棒】なのか…。」

真面目な顔で俺を見据える。

「他の一度死んだ勇者たちから『魔王様マジチート、無理ゲーww』って話を聞いて既に諦めているからだ!!」

「諦めんなよ勇者ぁあ!!それでも勇者か!?」

…こんな勇者は初めてだ。何というか、やる気を削ぎ落とされる。

「では…どうやって【檜の棒】一つでここまで来ることができた?部下は居たはずだが」

そう、例え闘う気が無くとも城の警備はザルじゃない。ここまでにいた兵が見逃す筈が…

「あいつらなら金を握らせてお願いしたら快く通してくれたぞ。」

「勇者にあるまじき行為!!つか俺の部下達何買収されてんのぉぉお!?」

とりあえず奴らには再教育が必要だ。減給は必至。

しかし、だ。

「俺を倒すことを諦めていると言ったな。では何故ここに来た。」

「暇つぶし。」

「仕事を何だと思ってんだ!?勇者達と違ってこっちは忙しいんだよ!」

「冗談を真に受けるなよ~。チートとか言われる魔王様の顔拝むために来たんだよ。ついでに【檜の棒】で倒せるか試しに来た。」

何にせよ舐めているようにしか思えない。とりあえずほんの少しは魔王を倒す気が有るらしい。

「あ~じゃあ、かかってこい勇者よ。捻り潰してくれるわ!!」

気を取り直して本来の魔王業務に戻り、テンプレート通りのセリフを吐く。

「覚悟しろ魔王っ!!」

あちらもテンプレート通りに切りかかる。【檜の棒】で。それを俺は【魔剣・黒龍】で迎え撃つ。

▼勇者の攻撃。

ぱきぃっ!!

軽いを音を立てて【檜の棒】は大破した。

「「……………」」

そりゃそうだ。

在る意味予想通りではあるが、勇者が何の疑いもないように切りかかって来るので少し位粘るかと思ったが…やはり【檜の棒】は【檜の棒】だった。

「一応聞いておく…どうする?」

「どうしようか?」

色々な勇者を相手にしてきたが一撃どころかこちらが攻撃する前に勇者が勝手に武器を失ったことなどないので非常に対応に困る。

「…選択肢をやろう。1,素手で俺とやり合う。2,帰る。3,自害する。さあ選べ。」

正直素手の勇者に負ける気はしない。武器があっても負ける気はしないが。尚ここまでやる気が無い勇者なら恐らく始末しなくても問題ないだろう。

「…2で。俺帰るわ。」

「賢明な判断だな。」

勇者はヘラリと笑って部屋からでようとして振り向いた。

「また来るわ。」

そう言って手を振るので

「…次はまともな装備で来い。」

とだけ返した。

▼勇者は立ち去った。



【無駄に大きい扉】が音を立てて閉まる。閂をかけ直し自室へ戻った。

机の上に常備されている菓子類から緑の包装のパイの箱を開けて食べ始める。

今帰っていった勇者とは闘った訳でも無いのに他の奴らを相手するよりも疲れた。サクサクとパイを食べながら振り返る。あんなふざけた勇者は初めてだ。

だが、面白い奴ではあった。

あいつはきっと勇者には向いていない。

そしてそんなあいつが次いつ来るかと、どこか楽しみに思っている俺もまた魔王には向いていないのだろう。






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