↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の妹がこんなにヤンデレデレになるなんて〜Another story  作者: 虹の箸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/9

妹がデレデレになった件

僕の心配は、どうやら杞憂に終わったらしい。

両親からあの事実を告げられて、二日後の朝。

結衣は何事もなかったかのように部屋から出てきた。

いや、正確には、何事もなかったわけではない。

むしろ、僕の知っている妹は、どこかへ行ってしまったのかもしれない。

「おっにいちゃーん! おはよっ!」

「……ぐえっ!?」

突然、腹のあたりに衝撃が走った。

寝ぼけ眼を開けると、長い黒髪が目の前でふわりと揺れている。

僕のベッドに飛び込んできた結衣が、満面の笑みで僕を見下ろしていた。

「もう、いつまで寝てるの? 早く起きないと遅刻しちゃうよ?」

「ゆ、結衣……?」

「はーい、結衣ですよー。お兄ちゃんの可愛い妹の結衣でーす」

……誰だ、こいつ。

いや、顔は間違いなく結衣だ。

透き通るような白い肌も、長いまつ毛も、見慣れた妹そのもの。

ただ、僕を見る目が違う。

ここ数年、僕に向けられるのは、いつだって氷のように冷たい視線だった。

それが今はどうだ。

頬をほんのり染め、嬉しそうに目を細めている。

まるで、ずっと欲しかったプレゼントをようやく手に入れた子供みたいに。

「……熱でもあるのか?」

思わず額に手を伸ばすと、結衣はびくりと肩を震わせた。

「ひゃっ……!」

「あ、悪い」

慌てて手を引っ込めようとした、そのとき。

結衣が、僕の手を両手で包み込んだ。

「……もう一回」

「え?」

「おでこ。もう一回、触って?」

「いや、だから熱があるのかと思って……」

「ないよ。でも、お兄ちゃんになら、触ってほしい」

そう言って微笑む結衣の頬は、さっきよりも赤かった。

……本当に、どうしたんだ?

「なあ、結衣。昨日まで僕のこと、あんなに嫌ってたじゃないか」

「……嫌ってないもん」

小さな声だった。

「え?」

「なんでもないっ! それより、早く起きて!」

結衣は誤魔化すように笑うと、僕の掛け布団を勢いよく剥ぎ取った。

「ほらほら、着替えなきゃ! 私、手伝ってあげよっか?」

「自分でできるから! ていうか、部屋から出てくれ!」

「えー、ケチ」

唇を尖らせながらも、結衣は素直にベッドから降りた。

けれど、部屋を出る直前。

ドアノブに手をかけたまま、こちらを振り返った。

「……ねえ、お兄ちゃん」

「なんだ?」

「今日から、また昔みたいにしてもいい?」

いつもの勢いが、少しだけ消えていた。

「昔みたいに?」

「一緒に学校行ったり、お話ししたり……そういうの」

結衣は視線を落とし、制服のスカートをきゅっと握った。

「……駄目?」

そんな顔をされたら、断れるわけがない。

そもそも、僕はずっと結衣と仲直りしたかったのだ。

「駄目なわけないだろ。僕は嬉しいよ」

「……っ!」

結衣が顔を上げた。

その表情が、ぱっと明るくなる。

「ほんと!?」

「ああ。昔みたいに仲良くできるなら、僕だって――」

「やったぁ!」

最後まで言い終わる前に、結衣が飛びついてきた。

「お兄ちゃん、大好きっ!」

「うわっ!? だから急に抱きつくなって!」

胸元に顔を埋めた結衣は、しばらく離れようとしなかった。

……まあ、いいか。

きっと、あの話を聞いて、家族の大切さを改めて感じたんだろう。

僕もそうだったし。

そう考えれば、結衣の変化にも納得がいく。

……少なくとも、このときはそう思っていた。

*

「お兄ちゃん、一緒に行こっ!」

朝食を終え、玄関で靴を履いていると、結衣が鞄を抱えて駆け寄ってきた。

「本当に一緒に行くのか?」

「もちろん! 約束したでしょ?」

「いや、まあ、そうだけど……」

これまでは、僕が家を出る時間になると、結衣は決まって自分の部屋に引っ込んでいた。

それが今日は、僕より先に玄関で待っている。

「ほら、早く!」

結衣が僕の手を取った。

そのまま勢いよく玄関を飛び出す。

朝の空気は少しひんやりとしていて、通学路には同じ制服を着た生徒たちの姿がちらほら見えた。

「……なあ、結衣」

「なあに、お兄ちゃん?」

「手、離さなくていいのか?」

「どうして?」

「いや、ほら。学校の知り合いに見られたら、変に思われるだろ」

結衣はきょとんとした顔で僕を見上げた。

それから、ふふっと笑う。

「別にいいよ?」

「よくないだろ。お前、学校じゃ結構有名なんだろ?」

「そんなの、どうでもいいもん」

そう言うと、結衣は繋いでいた手を離した。

……ようやく分かってくれたか。

と思ったのも束の間。

今度は僕の腕に、ぎゅっと両腕を絡めてきた。

「これなら、もっとくっつけるねっ」

「いや、そういう問題じゃない!」

「えへへ」

結衣は幸せそうに笑っている。

その無邪気な笑顔を見ていると、強く叱るのも気が引けた。

とはいえ、周囲の視線が痛い。

すれ違った男子生徒が、僕たちを二度見した。

「あれ、結衣ちゃんじゃね?」

「え、隣の男、誰……?」

ひそひそと交わされる声が聞こえる。

そりゃそうだ。

入学早々、学校中の注目を集めている美少女が、男の腕にべったりくっついて歩いているのだから。

「……結衣、お前、恥ずかしくないのか?」

「ちょっとだけ」

「だったら離れたほうが――」

「でも、離れるほうが嫌」

結衣はそう言って、僕の腕を抱きしめ直した。

その声が妙に真剣だったので、僕は思わず黙ってしまった。

「……三年も我慢したんだもん」

「え?」

「ううん、なんでもない!」

結衣は慌てたように首を振った。

それから、話題を変えるように口を開く。

「ねえ、お兄ちゃん。私がこの高校を選んだ理由、覚えてる?」

「ああ。家から近いから、だったよな」

「……それだけだと思ってた?」

「違うのか?」

結衣は少しだけ唇を尖らせた。

「……鈍感」

「なんでだよ」

「だって、お兄ちゃんがいる学校だからに決まってるじゃん」

「……は?」

思わず足が止まった。

結衣は成績がいい。

中学の先生からは、もっと上の進学校を勧められていたはずだ。

それなのに、頑として僕と同じ高校を志望した。

理由を聞いたときには、『家から近いだけ。変な勘違いしないで』と、ものすごい剣幕で睨まれたものだ。

「……お前、もしかして、僕と同じ学校に通いたかったのか?」

「うん」

あまりにもあっさりと頷かれ、拍子抜けしてしまった。

「だって、家ではお兄ちゃんと普通に話せなかったから」

「……どうして?」

「それは……」

結衣は言いかけて、口を閉じた。

頬が、みるみる赤くなっていく。

「……まだ、内緒」

「なんだよ、それ」

「いつか教えてあげる。ちゃんと、お兄ちゃんに聞いてほしいことがあるから」

結衣は僕を見上げ、少しだけ照れくさそうに微笑んだ。

朝日を受けたその横顔は、いつもよりずっと大人びて見えた。

「……ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

「私たち、血がつながってないんだよね」

「ああ。そうらしいな」

「……そっか」

結衣は小さく呟いた。

それから、僕の腕に頬を寄せる。

「じゃあ、もう……我慢しなくてもいいんだよね」

「……何を?」

「ふふっ。内緒っ」

楽しそうに笑う結衣を見て、僕は首を傾げるしかなかった。

……まあ、いいか。

理由はどうあれ、結衣がまた僕に笑いかけてくれるようになったのだ。

それだけで、十分嬉しい。

そう思いながら歩いていると、結衣がふいに足を止めた。

「……あ」

「どうした?」

結衣は、僕の少し先を見ていた。

視線を追うと、校門の手前に見慣れた少女の姿があった。

「……綾人?」

こちらに気づいた彼女が、目を丸くする。

長い付き合いの幼なじみ。

そして、僕にとっては結衣以外で一番気安く話せる女の子。

「おはよう、琴音」

僕が声をかけると、琴音は返事をする代わりに、僕の腕に絡みついている結衣をじっと見つめた。

「……なによ、それ」

その声が、いつもより少し低かった。

隣では、結衣が僕の腕を握る力を、ほんの少しだけ強めていた。

お読みいただきありがとうございました。

もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。