一
その日は晴れ渡った空も見事な嫁入り日和だった。
「黒髪?」
フードをとった先に現れたのは予想されていた金や銀ではなく、黒だった。
濡れたような艶を放つそれは見事な黒髪ではあったが言葉に乗せられたのは間違いなく落胆の色
それが耳に入っていないはずがないというのに漆黒の瞳は柔らかく細められた。
「よろしくお願いします。」
「で?お前はいつまで意地を張ってるわけ?」
丸々と肥え太った獲物は一撃で仕留められている。
「何が。」
応える声音は先程まで周囲に指示を出していた時と変わらないように響いたがそれに返されたのは呆れたような苦笑だった。
「ほんと、とぼけるのが下手くそだよな。」
墓穴を掘るだけだと思ったのか黒髪のオーク、トクサは腕を組んでそっぽを向いた。
「意地張ってもなんにもいいことなんかないだろ?」
やれやれ、と今度こそ呆れをあからさまに乗せた幼馴染の言葉にトクサは眉を寄せた。
「意地なんか張ってない。」
これ以上はやめておいたほうがいいな、と長年の経験と勘からハトバはため息を吐くに留めた。
それくらいは許してほしいものである。
つい先だってエルフの里から輿入れをいてきた若い娘
婚儀はまだではあるが、様々な目的と取り決めのもとに定期的に行われる異種族間の婚姻である。
それはいい
異種族間の婚姻が成立するようになってからそれなりに経つ。
異種族の婚姻相手を疎む?
冗談ではない。
異種族だからこそ、今回の花嫁もまた里中から望まれてやってきた。
遥か昔、それこそこの制度ができた頃はそれなりにいろいろとあったのであろうし、それは想像に難くないが、今ではこのオークの里に限らず、エルフでもドワーフでも妖精でもハーピィでも人魚でも異種族からの花嫁花婿は歓迎される。
新しい血を入れるということの重要性もあるが、各種族の文化を取り入れ、関係性を強くするのにこれ以上のことはない。
政略的な婚姻であることに間違いはないが、各部族ともに威信をかけて、これぞ里の誇りという若者を娶せるし、嫁いできてくれた花嫁花婿は宝物のように大切にされるから幸せな結婚となることが多い。
現に今回やってきてくれた娘だって里中が待ち望んだ花嫁である。
歌や踊りが上手く、自然の力をかりることを得手とするエルフの花嫁
そう期待されていた花嫁、ダナエはくるくるとよく働く
料理や裁縫の腕もよく、口ずさむ歌声は優しく美しい
ダナエの世話をしている里長夫人を始めとし、里の女衆はすっかりダナエを気に入っていた。
「だったらいい加減逢引の一つにでも誘えよ。」