第十四話 私と霊力
脳筋案は賛成1、放置2により賛成多数で可決された。
その代わり威厳は少し失われたようだが、私の座敷童的威厳なんてそもそも、あってないようなものだ。放置放置。
んでなんだっけ、二人の話を総合すると、あれだ。
悪戯書き入りのジグソーパズルのピースを見つけて、そもそもジグソーパズルの完成図を理解してしまえた、みたいな感じっぽい。
想像力があんまりないので、どうしても身近な例えに落とし込まないとうまく理解というか納得できないんだよね。
異文化交流って難しいね!
ただ、その悪戯書きをどうやって消すんだろー? ってのが、問題だったはず。
「ベティさんは、そういえばどうして甲羅が重い? の例えを出したの?」
問いかければ、思い出すようにくちばしに指をあて、静かに言葉を選んでいるようだ。
「キトゥンちゃんは、悪いところがどうなっているかよりも、大元が大きい方に、より驚きを感じていたでしょぉ?
わさわさしているヤツに直接触ろうとしていたように思うけど」
そうだねえ、まず地脈を感じてみてみたいなこと言われたから、一番感じ易そうなものに突撃した、って感じなんだけど、私的には。
「そうだったの……甲羅はね、あまり痛みや異変を感じない部分なのよねん。
だから、違和感があっても、どう悪くなっているか、自体は感じ難いのよぉ」
なるほど? 人間でいえば、ひじの皮つまんでも痛くないしってイメージ?
「それゆえに、そこから全体像を感じるのは難しいものなの。
でも、キトゥンちゃんは地脈の広がりを感じることができた。
そういうことを例えたかったのよねん」
こたっちゃんは今の説明にうんうんと頷き、ベティさんの話に聞き入っていた。
概ね同意、ってことかな?
「うーん、こたっちゃんが『まずは地脈を感じてみて』みたいなこと言ってたから、地脈の乱れから出てる瘴気を触ってみるのが一番私には分かり易そうかなーって思っただけなんだけど」
「……ですが、瘴気に干渉はできないとお伝えしたと思いますが……」
「それって、直接払ったり、消したりできない、ってことだと思って。だって、そもそも耳に聞こえてくるんだから、触るくらいはできるかなって」
まあ、耳で聞いた感じから理解できれば楽だったんだろうけど、触る方が分かりやすい。
……私、音痴だからなあ。
『学祭打ち上げカラオケ部屋ジェノサイド事件』は思い出したくない黒歴史だ。
幼馴染が悪乗りして私を歌わせたのが悪い。あれ、わたしわるくない。
今はそういうんじゃなくて!
「できちゃったからちかたない。地脈を感じるってこたっちゃんの課題は達成できたわけだし。
その先、どうしたら良いのか、そこを教えてほしいかな」
「地脈を感じられる過程に何より驚いたのですが……」
「それにはアタシも同意よん」
いやベティさん、あんまり驚いてなくね?
「それは人生経験の差ってやつねん。あ、でもアタシの年齢は乙女のヒ・ミ・ツ」
いえ、それはパンドラの箱並みにそっとしておかないといけないっぽいんで、結構です。あと、性別も。もう『性別:ベティさん』で良くないかなー……。
という感想は脳内の記憶プールに鍵と重しを厳重にかけて沈めておくことにした。
「ま、まあ、それはまたそのうちってことで。
で、で! 肝心なのは、その先なの!」
「それはそうですね。ちょっと取り乱してしまいました。
ええと、あおい様は地脈は分かるようになった、と言うことでよろしいですか?」
「うん、分かる」
「では次のステップでは、地脈を乱している霊力を探しましょう」
「霊力って、どうやって探すの?」
「そうですねえ、まずはご自身に流れる霊力を感じ取るところからやってみましょうか」
確か、霊力ってのは地脈から変じて『生き物』に流れてるやつ、だったかな。
うーん……私にそんなん流れてるのかなあ。今まで、結局全部体力で補ってた感じだから、余計良く分かんない。
「えと……うーん、地脈に近いけど別の力? みたいなんで合ってる?」
「そのような感じで合ってると思いますよ」
んー、イメージは合ってるか。でも、自分の中にあるような気はしないんだよね。
血流……脈とかかなあ、手首に触ってみても、何か違う気がする。
「ちなみに、こたっちゃんは私の霊力って探れるの?」
「ええ、やろうと思えばできますよ」
「ちょっと私の見てほしい。何かそれっぽい感じしないんだよね」
それではちょっと失礼します、と私の手を優しく取って、こたっちゃんは静かに集中し始めた。
こたっちゃんの手は、ほわっとこたつの優しい温かみを連想させて、はにゃーっとされるがままにぼんやりとしていた。
コツさえ教えてもらえれば、どうにかなるんじゃねーと思いつつ。
しかし、こたっちゃんの顔が赤くなってきて。更に手汗がじっとりとしてきて。目を彷徨わせ始めた時点で、ああこれ何かあったわとしか思えなくて、手をぱっと振り払った。
「どした?」
慌てた私は、乱雑に手を払って、短く急かすような声を浴びせてしまった。
ベティさんも気付いたようで、こちらに眼差しを向け、こたっちゃんに語り掛けた。
それはゆっくりとしたトーンで、染み入るような声音だった。
流石、これこそ人生経験の差というやつか。
「落ち着いてねん。何かあったのかしら?」
こたっちゃんの様子を見るに、それは、それはもう困惑しておりました。
え、そんなに?!
あわわわと着物を揺らし、こちらを凝視している。
「あおい様……霊力が……流れていません……」
ベティさんもその言葉には流石に目を見開いた。
固唾を飲んで、私の様子をうかがっている。
「……それって、何かやばい?」
ベティさんは深くため息を吐き。
こたっちゃんは悄然と項垂れて。
え、そんなに大事?!
私は訳も分からず、二人の様子を見守るしかなかったのであったよ。




