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ベルばあさんとリプさん

ベルばあさんが眠りから覚めると、彼女の前には昔亡くなったはずの、恋人のリプさんがいました。


「あんた、なんで」


ベルばあさんはリプさんに訊ねました。


「きみに会いにきたんだよ。ベル」


リプさんは、優しい笑顔を浮かべてそう答えました。


ですが、ベルばあさんがききたかったのはそういうことではありません。なぜ死んだはずのリプさんが、今こうして自分の目の前にいるのかーーそれが知りたいのです。


「だけど、あんた……」


ベルばあさんは続きの言葉が出ませんでした。目の前にいるリプさんに、面と向かって訊ねる気にはなれなかったのです。もしきけば、なんだか今目の前にいるリプさんが消えてしまいそうな気がしたから。


ベルばあさんが言葉を探していると、リプさんが話し始めました。


「言っただろう?きっと世界を周ってまたきみに会いにくるって」


ベルばあさんは、そう言ったリプさんを見てハッとしました。今目の前にいるこの人は、間違いなくリプさんだと、そう思ったのです。ずっと一緒にいたベルばあさんだからこそ、彼の笑顔や話し方から、その人がリプさんであることが感じ取れたのです。


ベルばあさんは、リプさんに歩み寄ろうとイスから立ち上がりました。すると足元がふらふらして、思わず転びそうになりました。


「大丈夫かい。ベル」


ベルばあさんは転びそうになったところを、リプさんに抱きとめられました。


ベルばあさんは、そこでリプさんに触れて思いました。


あたたかいねぇ……。リプ、あんたあのころと何も変わらないよ。


それと同時に、ベルばあさんはこうも思いました。


よくできた夢だねぇ。


ベルばあさんは、今起きていることが夢だと思ったのです。いるはずのないリプさんが目の前にいることや、不思議なふわふわした感覚から、自分は今夢を見ているのだと思ったのです。自分が夢の中で、あのころのあたたかいリプさんをつくり出したのだと、そう思ったのです。


ですが、ベルばあさんは悲しみませんでした。例えそれが夢であったとしても、またこうしてリプさんに出会えたことは、ベルばあさんにとってはたいへん幸せなことなのです。


ベルばあさんが、リプさんの胸の中であたたかい気持ちでいると、リプさんがこう言いました。


「ベル。きみも変わらないね。あのころと同じできみは綺麗だ」


何を言ってるんだい。あたしゃすっかり歳をとって、顔はシワだらけ、腰は曲がり、髪もすっかり真っ白だよ。あんたと違って、あたしはずいぶん変わっちまったよ。


そう思ったベルばあさんでしたが、部屋にある姿見で自分を見てとてもびっくりしました。


顔のシワはきれいになくなり、背筋は真っ直ぐ伸び、髪はツヤのあるブロンズ色に染まっていたのです。


ベルばあさんは、窓際にある昔の自分が写った写真を見ました。そこに写る昔の自分と今の自分がそっくりだったからです。


まったく、不思議な夢だねぇ。


ベルばあさんは、自分の若返った姿を見てまたそう思いました。


「きみに見せたいものがあるんだ。ベル」


感心してぼおっとするベルばあさんに、リプさんが声をかけました。


「そりゃなんだい?」


ベルばあさんがそう訊ねるや否や、リプさんはベルばあさんの手を引いて「おいでよ」と家の外へ連れ出しました。


玄関を出たところには、空飛ぶ幻の動物がいました。たくましい四本の脚でしっかりと立ち、凛々しく伸びた二本のツノは高い空を向き、白く光り輝く両の翼が、飛び立つのが待ち遠しいとでも言うように静かに動いていました。


「ベル。僕が周ってきた世界を、きみにも見せてあげるよ」


リプさんはそう言って、優しく笑いました。


ベルばあさんは、リプさんに手を引かれるまま幻の動物の背中に乗りました。


ベルばあさんが吐く息はとても白いですが、不思議とベルばあさんは寒く感じませんでした。

明日も18時に投稿します。

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