冬がきらいなベルばあさん
冬の訪れを喜ぶ人々はみな楽しそうで、辺り一面真っ白になるほど雪の積もる寒い夜ですが、なんだかあたたかい空気が街を包んでいます。
ですがそんな中、ひとりポツンと背中を丸めて、白い息を吐きながら寒そうに歩く人がいます。
彼女の名前はベル。昔からこの街に住んでいる人ですが、すっかり歳をとって髪は白くなり、顔にはシワがたくさんできるほどおばあさんになってしまいました。
ベルばあさんは、笑顔で街を歩く人々を見ては、自分の顔にシワを増やして歩いています。そうやって小さな体を震わせ歩いていると、やがてベルばあさんは自分の家へと帰ってきました。
ベルばあさんは、重たい買い物袋を大きなテーブルの上に置き、買い物袋から取り出したミルクを沸かし始めました。そしてそのミルクでココアを作り、あたたかい暖炉の前にあるイスに腰掛けました。ぶ厚くて大きな毛布に体を包みましたが、ベルばあさんはなんだかまだ寒そうです。
ベルばあさんは、ぬるいココアを一口飲んで、ふうっとため息をついてから思いました。
あたしゃ冬がきらいだよ。
大好きなあたたかいココアが、すぐにぬるくなっちまう。
ベルばあさんは、膝の上にかけていた毛布を肩のあたりまで持ち上げてから思いました。
あたしゃ冬がきらいだよ。
寒くて寒くて買い物ひとつするのも億劫になる。
ベルばあさんは、窓の外の白い景色をちらりと見て、すぐにカーテンを閉めて思いました。
あたしゃ冬がきらいだよ。
雪は雨より面倒だからね。冷たくて濡れるだけじゃあなくって、積もると大変さね。
ベルばあさんは、窓際にある一枚の写真立てを、細い目で見つめながら思いました。
あたしゃ冬がきらいだよ。
ひとりぼっちのあたしには、ちと寒すぎる。
その写真立てには、二人の若い男女の写真が飾られていました。
テーブルの上には、まだたくさん中身の残ったココアのカップが、寂しそうに置かれています。
明日も18時に投稿します。