異世界転生、その先へ。
「ふぃ〜」
私達は、いつもの喫茶店でひといきついた。
マスターがサービスですよと、コーヒーを一杯だしてくれた。
天使洗脳ソウルポイント強奪事件は、主犯格のレッド・ロクスの逮捕により幕を下ろした。
私と奏さんも天使騎士団の事情聴取と表彰にと忙しいかった。
その後の日々も拘束魔法封じの対抗魔法を奏さんが開発したことで、拘束破壊の一人者として、教えを請うソウル体や天使が毎日やってきて今や有名人だ。
ソウルポイントも安定して貯まり、目的のポイントを遥かに超えた。
そろそろ…ですね。
ここはゲートリア、魂の転生準備世界。
「あのさ」「あ、あの」
「奏さんからどうぞッス」
言う事が被ったのは、私達は相手が何を言いたいか分かるからだ。
「あ、うん。それじゃ、そろそろ行こうと思うんだ」
「そうッスね、頃合いッス」
異世界への旅立ちの日取りを決める、そんな日は必ずくる。
午後は、静かに過ぎた。
その日の夜、ささやかな宴が開かれた。
「本日は、お集まり頂き誠に恐縮ッス。この度、奏シンヤさんが旅立つ事になり、奏さんの奢りで壮行会を開く事になったので皆さん、奏さんを破産するほど飲んじゃえッス」
「ちょっ、アルト!?」
パルマの宿は、多くの人でごった返している。
奏さんの人柄が伺えた。
「アルト、ここにいたのか」
ベランダで星を見ていたら、揉みくちゃにされていた奏さんがきた。
「主役が来ちゃダメッスよ〜」
「あの連中、容赦ない。本当に破産させられそうだよ」
「あはは、そしたらまた貯め直しッスね」
カラのグラスを満タンにして、チンッとグラスを重ねる。
「おめでとうッス、次の来世に幸運を」
「ありがとう、アルト…」
乾杯のあと、騒がしい店内に二人で戻った。
そして、転生の日がやってきた。
身支度を整えて転生門の前に行くと、奏さんと奏さんを見送る多くの人が来ていた。
「まず、この世界の事は忘れるッス、けど覚えたスキルは魂に刻まれ覚えているッス。それから、奏さんの場合、転移に近い形での異世界転生なのでトラックに轢かれた直後の衝撃とか追体験するかもしれないッス。あと、シロさん、仮にも神の末席なのでこの世界のこと覚えているけど、秘密にしなきゃ駄目ッスよ」
「分かっている、犬神様からも言われている」
「奏さんに聞かれても、答えちゃ駄目ッスからね!あとは、奏さん。残ったソウルポイントは、向こうでも使えるッス。能力の一時的な強化などがそうッス、いわゆる覚醒ってやつでポイント使いきりだから大事に使ってくださいッス」
「うん、分かった」
「あとは、召喚魔法ッスが、ごめんなさい、神様に問い合わせたけど、無理だったッス、使うと魔力が倍かかり凄くスタミナを消費するッス」
「アルト…」
「あとは…キャッ!?」
奏さんにいきなりハグされた。
「君に会えたこと、神様に心から感謝する。君の事は忘れるけど、君と一緒に覚えたスキルは絶対忘れない」
私も…、言いそうになった事を飲み込んだ。
「そう言って貰えるのは、天使冥利に尽きるッス。それじゃ…」
「待つなのです!」
慌てて離れて声の方を見た。
「奏お兄ちゃん!」
「リディ、退院したんだ!」
車椅子で駆けつけた少女は、息を切らしていた。
「何回もお見舞いありがとうございました」
「うん、俺は行くけど元気でね」
「うん、お兄ちゃんも!わたし、決めたの、次は奏お兄ちゃんの力になる、奏お兄ちゃんと同じ世界に行くね!!」
「うん、待っているよ」
「それじゃ奏さん、準備はいいッスか?」
「うん、よろしく!」
では―――開け、転生門よ。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃいッス」
奏さんは旅立って行った。
んー、さてそれじゃ報告書提出して、次の人ですね。
「次の休暇は、奏さんの世界に行って見るのもいいッスね…」
青空の下、そんな事を考えた。
『報告書:虚弱衰弱召喚師と最強ドM召喚獣の冒険譚』アルトリエル・バレンシュタイン。




