表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

第5話

私の「ボス」としての手腕は、すでに街中に轟いている。

しかし、古参の武闘派たちの中には、私のことを「若くて、ただの銃撃狂いの女」と見下す者もいた。彼らの間では、「ボスは肉弾戦が苦手だ」という根も葉もない噂が囁かれていることも、私は知っていた。


「……そろそろ、躾が必要なようね」


雨上がりの、地盤の緩い訓練場。

そこに、私を「試す」と称して集まった武闘派の幹部たちが待ち構えていた。彼らは全員、屈強な体躯を持つ肉弾戦のプロフェッショナルだ。


「ボス、我々はボスがお強いのは承知しております。しかし、この『拳』の世界では……」


彼らのリーダー格が、不敵な笑みを浮かべながら私に歩み寄る。その男の足元は、雨でぬかるんだ地面の泥を跳ね上げている。


「ふふ、いいわ。試してみなさい」


私はピンクのポルシェを少し離れた場所に停め、いつものボルドーのコートを脱ぎ捨てた。白いブラウスにミニスカート。一見、華奢に見えるその姿に、彼らは油断したのだろう。


「全員でかかってきなさい。一対一なんて、退屈だわ」


私の言葉を合図に、武闘派たちが一斉に襲いかかってきた。

巨漢たちが泥を蹴散らし、私を取り囲む。


最初の男の剛拳が、私の顔を狙って振り抜かれた。

私はそれを紙一重でかわし、その勢いを利用して男の腕を掴み、泥にまみれた地面に叩きつける。


「ぐっ……!」


顔から泥水に突っ込んだ男が呻き声を上げる間に、別の男が背後から襲いかかる。私は振り返りざま、泥で滑りやすい足場を利用してその男の足元を払い、体勢を崩したところを容赦なく地面に沈めた。


「あなたたち、動きが鈍いわよ。もっと本気で来なさい!」


私の体も、すでに泥だらけだ。

白いブラウスは茶色く染まり、ミニスカートの裾からは泥水が滴り落ちる。

それでも、私の瞳は一点の曇りもなく、獲物を狙う獣のように輝いていた。


腕を掴まれれば、その関節を外し。

胴を締め上げられれば、重心を崩して投げ飛ばし。


彼らの攻撃は、私の体に着弾することなく、すべて泥の中に吸い込まれていく。

彼らは、私がただ銃を撃つだけの女だと思っていた。

だが、私は痛みを愛するあまり、己の肉体を極限まで研ぎ澄ませてきた。

銃弾の熱も、骨が軋む音も、泥にまみれる屈辱も、すべてが私を強くする糧だった。


「これで、最後かしら?」


最後の男を泥の中に叩きつけ、私の呼吸は乱れていなかった。

全身泥だらけで立ち尽くす私に、武闘派の幹部たちは、泥水の中で喘ぎながらも、もはや反抗の色など微塵もない目で私を見上げていた。


「……参りました、ボス」

「あなたこそが、真の……真のボスです」


彼らは泥まみれの顔で、私に深々と頭を下げた。

その瞳には、かつての軽蔑はなく、ただ純粋な「畏敬」だけが宿っていた。


「ふふ。わかれば、いいのよ」


私は汚れた手で、顔についた泥を拭う。

泥水の染み込んだスカートが太ももに張り付く。

泥だらけになった私の姿は、まるで泥の中で咲いた一輪の狂おしい花のように、不気味な美しさを放っていた。


「さあ、さっさと立ち上がって。まだ、あなたたちを『躾る』ことは山ほどあるんだから」


私の冷たい声に、彼らは泥を這いながらも、すぐに立ち上がろうと身悶えした。

彼らの目には、私こそが、この組織をさらなる高みへと導く「絶対的な存在」として映っているだろう。


私は満足そうに微笑んだ。

今日もまた、私の「飢え」は、少しだけ満たされたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ