第4話
激しい銃撃戦の余韻が残る、廃工場のコンクリートの上。
私の周囲には、文字通り山のような薬莢と、沈黙した敵兵たちが転がっている。
「……はぁ、今回も結構いっちゃったわね」
息を整えながら、私は愛車のポルシェ356のサイドミラーで自分の顔を確認する。頬に薄く流れた血を指で拭い、そっと微笑んだ。どんなに体がズタボロでも、表情まで醜く歪ませるのは「ボス」のすることじゃない。
遅れて駆けつけてきた部下たちが、惨烈な現場と、血の海に立つ私の姿を見て息を呑むのがわかった。
「ボス! ご無事ですか!? すぐに医療班を……!」
「いいわよ、騒がないで。これくらい、いつものことでしょう?」
私は彼らの動揺を、鈴を転がすような冷静な声で制した。
そのまま、お気に入りの黒いミニスカートの裾を、躊躇いなくひらりと捲り上げる。
「っ……!」
背後にいた若い部下たちが、目のやり場に困って一斉に顔を赤らめたけれど、私は構わない。露わになった太ももには、銃弾が貫通した生々しい穴が二つ。そこから溢れる鮮血が、白い肌を伝って黒いブーツを濡らしている。
私は慣れた手つきで救急キットを取り出すと、まるでお化粧直しでもするかのような優雅な動作で、消毒液を傷口に流し込んだ。
「……っ」
一瞬だけ、肺の空気が全部漏れるような鋭い熱痛が走る。けれど、私は眉ひとつ動かさない。むしろ、その痛みを愛しむように目を細め、清潔なガーゼを傷口に詰め込み、手際よく包帯を巻いていく。
スカートを整え、シワを伸ばし、汚れを払う。
その一連の動作は、戦場とは思えないほど「女の子らしく」て、それでいて、どんな熟練の兵士よりも冷徹で、迷いがなかった。
「準備はいい? 次の拠点を潰しに行くわよ」
立ち上がり、銃をホルスターに収める。
穴だらけのコートをなびかせて歩き出す私の背中を、部下たちは言葉もなく、ただ深い畏怖と狂信的なまでの尊敬の眼差しで見つめていた。
「……あの方が、俺たちのボスだ」
「なんて、強く……美しいんだ……」
背後で漏れる彼らの囁き声を聞きながら、私は心の中で密かに笑う。
そうよ。この痛みも、この屈辱さえ乗り越えた強さも、全部私のもの。
次はどんな傷が私を飾ってくれるのかしら。
アクセルを踏み込む足は、もう驚くほど軽やかだった。




