第26話
匣庭高校オルタナティ部には、部長を含め七名の部員がいる。
二年生は市島姫姫部長を筆頭に、八木杏柚、日吉蒼空の両先輩。
一年生は瀬加一図、童子山るる、それと新加入したばかりの箸荷倫子、そして俺。
本音を言えば、男女比が偏りすぎていて窮屈さを感じつつあるのだが、どうやら八人目も女子になりそうだ。しかも、うちのクラスから五人目である。
マルチ商法の広がり方じゃないのか、これ。
俺のクラスには、誰もが知る幼馴染み三人組がいる。と、書き出すと何とも奇妙な感じがする。
何故ならそれは俺たちではなく、まったく別のグループのことだからだ。
個性派揃いのクラスの中で、断トツの人気を誇るのは柏尾くんと蒲江さんのカップルだ。誰が最も目立っているかと尋ねれば、全員が迷わず彼らの名を口にするだろう。
クラスメートの名前を覚えられないことで定評がある俺でさえ、たいして関わりのない彼らの名を答えてしまうだろう。
それぐらい彼らの存在感は際立っている。教室のどこにいても視線の中心となり、まるで別格の存在のように周囲から一目置かれている。
運動部で活躍する二人は眉目秀麗、明眸皓歯、とにかく見た目の良い美男美女なのだが、性格の方も非の打ち所がない。彼らが一言発するだけでクラスの空気が引き締まり、全員の注目を集める完璧なカップルなのだ。
さて、この完璧すぎるカップルには共通の幼馴染みがいる。比延さんという名の女子だ。
エネルギッシュな二人とは対照的に、クールで控えめな文化系の彼女は——
「ぐはっ。物は言いよう、喩えようでござるな。あちきのことなど根暗キモオタ乙で、よろしいでござるよ。ぐほほほ」
ぐほほほって……とにかく、教室内でおとなしい印象の彼女なのだが、クラスメイトが彼女の趣味や私生活について知っていることはほとんどない。
窓際で一人、突然笑い出したり、誰もいない空間に向かって話しかけたりする姿が目撃されたこともあるが、その不可解な光景について彼女に質問する者はいない。
彼女の持ち物にも独特の雰囲気が漂う。鞄から時折覗く、時代を感じさせる懐中時計や、革の装丁が剥げかかった古い洋書。そんな時代錯誤な小道具の数々が、彼女に不思議な魅力と秘密めいた雰囲気を纏わせている。
「ぐへえっ。そんな現在進行形の黒歴史を、つらつらと並べ立てないでくださいまし。懐中時計だって、乙女ゲームの初回限定の同梱グッズでござるよ。ぐひひひ」
「いちいち俺のモノローグにリアクション取るの、やめてくれない? 俺もう泣きそうなんだけど……」
オルタナティ部への入部を希望して部室にやって来た比延さんのあまりの豹変ぶりに、俺は言葉を失った。クラスでの神秘的なキャラクターとはかけ離れた、奇妙奇天烈摩訶不思議なキャラクターに、まともに対応出来そうにない。
「ふあああ。比延さん、教室では普通に話してるよね。どうして、そんなへんてこな話し方になるの?」
「ぐはああ。あちきの話し方、そんなにへんてこりんのぽんぽこりんでござるか。いや、普段の教室での話し方はあくまで、あいつらに合わせた話し方をしているだけで、こちらが本性なんでござるが。ぐふふ」
比延さんの「ぐはああ」に比べれば、ひとの「ふあああ」が可愛らしく思える。そうかひと、お前萌えキャラだったんだな……。
「会話が進まないから、普段の話し方に変えてくれないか?」
「ぐほっ。まあ、確かに……。わかったわ。変える」
変えてくれるそうだ。よかった。言ってみるもんだな。
「あなた達は本当の幼馴染みなんでしょう? 思い出を共有して、積み重ねてきた年月がある。その上で、今いるわけでしょう?」
比延さんの問いかけの真意が掴めない。
そりゃ幼馴染みなのだから、共有した記憶があって、時間も積み重ねてきた。それを今更確認するように言われても、返答に窮する。
「知らないのよ。柏尾礼斗と、蒲江七海。あっちが勝手にあちきのこと幼馴染みって言ってるだけで、あちきにとってそんな事実はない」
口調はましになったものの、一人称は「あちき」のままだった。どうにも中途半端な改善だ。
「高校に入学して同じクラスになって、喜び合ってる二人の中に無理矢理入れられた。あなた達は本当の幼馴染みだから、本当に嬉しかったでしょうけど、あちきは詐欺グループが接近してきたのかと思った」
説明を聞きながら、自分の状況と重ね合わせる。転移後の記憶の混乱で、ひととるるのことを完全に忘れていた俺も、もし二人が同じような態度を取ったら似たような体験をしていたのではないか。
考えてみれば比延さんも転移者ならば、記憶に支障をきたしている可能性がある。俺自身が経験したように、彼女が柏尾くんや蒲江さんとの幼少期の思い出を忘れているだけではないのか。




