第13話
「二人とも、いつまでも変わらずにいてね。特に新田くんは、イメチェンとか言って間違った方向に行くタイプに見えるから」
余計なお世話だ——と言いたいところだが、事実俺はイメチェンを終えてしまった。
眼鏡と髪型以外、俺は何が変わってしまっているのだろう。前の世界の自分の姿を見たことがないのでわからない。性格や性質までは変わっていないよな、たぶん。
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学校からの帰り道、ひとはずっと俺の話をする。
今日のホームルームで、ひとがクラス委員長に任命された。誰も立候補せず、為り手がいない委員長職に、担任の曽我井玻璃先生が白羽の矢を立てたのがひとだった。
ちなみに副委員長にはなごさんこと、柏原和が指名された。
俺の記憶が正しければ、ひとがクラスの代表を務めたことはなかったはずだ。むしろ人前に立つような役割は、いつも遠ざけていたように思う。
いつもなら即座に断りそうなひとが、一瞬戸惑いを見せただけで委員長を引き受けてしまった。その意外な展開に、俺は驚きを隠せないでいた。
かくして俺の幼馴染みは、イルカ女子からイルカ委員長へとジョブチェンジした。
どういう心境の変化で委員長を受けることになったのか、本人に尋ねたかったが、ひとは先ほどから「そんなことより」と、「ものはね」と、自分の話よりも俺の話をしたがる。
「ものは、すぐに周りが見えなくなるところがあるから、あたしもるるちゃんもいつも心配してるんだよ。あの実のことだってさ。あたしに一回、るるちゃんに一回使って、それはいいの別に。結果的に二人とも、ものに思い出してもらえたからね。ずっと思い出してもらえなかったら、って考えたらぞっとするよ。市島先輩の話じゃないけど、あたしたちの関係が変わってしまう。ずっとさ、三人で小学生の頃からずっと一緒にいたのに、せっかく同じ高校に通っているのに、同じクラス、席まで近くなったのに、ものが忘れたままなんてそんな悲しいことないよ。だから、そのことはね。実を使って、思い出してくれたことは嬉しいと思ってるよ。でも、ものはすぐ調子に乗って、どうでもいいことにまで実を使おうとするでしょ。この前、休み時間にホームセンターの店内ソングの話になって、三人とも歌詞が出てこなかった時、もの、実に頼って思い出そうとしたよね。あたしとるるちゃんで、慌ててやめさせたよね。あの実の正体はよくわからないけど、そんなことに使うものではないと思う。だから市島先輩に返すべきだと思ったんだよ。ものはそういうところがあるから」
いや、俺について語りすぎだろ! ひとはそういうところがあるよな。
普段ならチーさんが口を挟んできて、ひとの話は途中で遮られるのだが、今日は珍しく、ひとの左腕に乗っかったイルカのぬいぐるみから声が聞こえてこない。
「チーさんは寝てるのか? いないのか?」
「オレならいるぜ。お嬢のマシンガントークに起こされたところだ」
チーさんは、普段からひとの腕の上で充電している。学校にいる間は目立たないよう静かにしているが、俺やるるといる時は饒舌になり、会話に割り込んでくるのがお決まりのパターンだ。
「最近、一日中眠くてな。どうも、こっちの世界に来てからずっと調子悪いぜ」
チーさんは大きなあくびをした。正確に言うと、イルカのぬいぐるみが大口を開けた。
「ところでモノ、お前に聞きたかったんだがよ。お前なんで、そんな格好してるんだ?」
「この眼鏡のこと? いや俺、この世界に来た時からこれ掛けてたから、このまま通そうと思ってて」
「ちげえよ。その髪型も眼鏡も、お前の好きな芸人にそっくりじゃねえか」
え? 俺の好きな芸人って、千年ウォークのひらっちさん?
慌ててスマホでひらっちさんの写真を探すと、ひらっちさんはリーゼントの髪型で、眼鏡など掛けていなかった。チーさんの言葉の意味がわからない。
「バカお前。そいつがリーゼントやめて、眼鏡掛けるようになってから売れたんじゃねえか。お前もしかして、前の世界のそいつの姿、覚えてねえのか?」
赤い実を探そうとポケットに手を突っ込んだが、先ほど市島先輩に返却した巾着袋が見つかるはずもない。
「もの、ひらっちさんの前の世界の姿、覚えてなかったんだね。あたしはてっきり、憧れが強すぎて真似し始めたんだと思ってた」
流石にそれはない。俺はそういう形から入るタイプではない——と思う。伊達眼鏡を掛けてはいるが、流れでこうなっているだけで。
「もしかしてもの、自分の昔の姿もまったく覚えていないの?」
「覚えてないよ。どんなだったか想像もつかない」
「じゃ、今からものの家に行こ。昔のものがどうだったか、教えてあげるから」




