エピローグ「人魚姫を釣り上げたおはなし」
彼は人魚姫を釣り上げた。これは、その後日談である――。
エピローグ
高校二年生の夏、俺たちは人魚姫を釣り上げた。
苗島との釣りで釣り上げたそいつは、魚を釣っていた俺たちに人でなしと言い放った。そして、腹が減っていたそうなのでサンドイッチをあげた。
目を逸らした隙に、人魚姫は人の姿に変わっていた。こんな不思議な生き物に、俺たちはワクワクが止まらなかった。そうして始まった夏休み。色々なことがあった。
人魚姫と過ごした日々は特別で、今まで生きてきた上で間違いなく心から夏休みを楽しんでいた。
もちろん、良いことばかりではなかった。事件は何度も起きた。だけど、俺たちはそれを乗り越えることができた。
殺人鬼に命を狙われることもあった。だけど、指田さんや苗島、藤原の兄弟に真鳩さん、そして、海の生き物たちとヒメに命を救われた。
その後、あの一大事件はニュースにならなかった。理由は阿日津会からの圧があったと言われているが、実際のところはわからない。そもそも俺は、あれから一度も阿日津会に関わっていない。
若頭を失った阿日津会は、自然と真鳩派の人間で統一される。しかし、真鳩さんも若頭殺害の容疑で逮捕された。
「らな」
「どうしたの」
「もし、俺が塀の外へ出られるのなら。ヤクザとしてじゃなく、お前の父親として会いに行ってもいいか?」
「……いいよ」
指田さんと真鳩さんの最後の会話はそれで、真鳩さんは手錠をかけられながらも、気持ちのいい笑顔を浮かべながら警察に連れて行かれたという。
それからは、恐らく後任が生まれたのだろう。阿日津会は今でも存在している。
しかし、真鳩さんが責任を取ったことで、多くのことが罪に問われず済むこととなった。
「おーい! 親父〜!」
苗島の父親は器物損壊などの疑いがかけられていたが、真鳩さんが無実を証明したことで難を逃れた。
天井と行動を共にしていた黒髪の男は、なぜか人魚姫の不利にならないことを警察に話してくれた。理由を聞くと、
「元より、あいつの昔と変わっちまった性格が嫌になってたんだよ」
とだけ答えてくれた。少なくとも、黒髪の男は俺たちを庇ってくれた。名前は教えてくれなかったけど。
苗島は相変わらず日々を過ごしており、ヒメが居る点以外は変わらない。ただ、前よりもやかましくはなった気がする。
「ゆ〜いと〜、ヒメとは〇〇〇したのかよ〜」
「右の頬か左の頬か選んで」
「え? みぎぇ――ぉ――ぅ――ぇ――ごはっ――」
藤原の兄弟はヒメとよく遊びに行っている。ヒメの正体を知る限られた人間として、少年時代を無邪気に満喫していた。
指田さんはあの後、苗島父の紹介で、隣町にある魚市で働くことが決まった。それも、念願の正社員を目指してとのことだ。
「いや〜、やっとギリギリの生活から解放されるわ〜」
指田さんも、これによって生活が安定することについて安心していた。
姉さんとは、あの後も連絡を取っていない。それどころか、誰もどこへ行ったかは知らないらしい。あんなことがあったからか、帰ってくることもなくなった。
そして、ヒメと俺は――
「転校生の紹介だ。ほら、自己紹介」
「指田姫と言います。ヨロシクオネガイシマス」
練習した通りにやりながらも、最後はカタコトになっていた。
「取り敢えず、席は鈴野の横でいいだろ。転校する前から関わりがあったらしいな、色々と教えてやりなさい」
「はーい」
ヒメが俺の隣に座ると、俺の方を見てニヤついてくる。
「どうだ、これで私もユイトと同じ高校生だ」
「わー、スゴイネー、不安ダナー」
「ぶー」
後ろから苗島の笑う声が聞こえた。
「うーし、じゃあお前ら仲良くしろよ〜。それより、ちゃんと夏休みは規則正しく生活し――」
担任の長話が始まり、俺と苗島とヒメは上手く担任の見ていないタイミングで、変顔大会を始めたりと早速遊び始めた。
「苗島!」
「はい!」
「何変顔やってんだ!」
「なんでオレだけぇ⁉︎」
苗島がバレれば、俺とヒメはしらばっくれて口笛を吹くに限る。
「なんでだよぉ〜!」
そんな形で、二学期からはヒメが転校してきた。人魚姫としての力は失われていたが、俺たちにとって今ではなくてはならない存在だ。
ヒメが人間として暮らし始めたことで、地球上のどこかに新たな人魚姫が生まれているのかもしれない。
俺たちはあの日人魚姫を釣り上げたが、今では普通の人間だ。
決して問題がないわけじゃない。生活は未だに簡単ではないが、そこは周りの協力もヒメ自身の努力もあって今を生きている。
たった二週間の非日常は、気が付けば日常へと生まれ変わっていた。これが俺たちの――人魚姫を釣り上げたおはなしだ。
後書き
どうも、焼きだるまです。
祝! 「人魚姫を釣り上げたおはなし」完結!
イェーイ! さいこー!
しっかりと完結までやり切れたこと、しっかりと読んでくれた人が居たこと。感謝してもし切れません。あと、自分もえらい!
人魚姫自体は去年の8月頃から動き出しており、そこから没に没を重ねて現在に至りました。
実は現在の人魚姫を書き始めたのは2月で、割と最近だったりします。
まだ次回作は決まっておりませんが、気長に待っていていただけると嬉しい限りです。もちろん、既存作の続きもどこかで投稿できればと考えていますので、どうか、お待ちください。
長くなりましたが、これにて人魚姫は終了です。ご愛読ありがとうございました! これからの方はお楽しみください!
では、また次回作でお会いしましょう! さようならー! お元気で!




