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第八話「夏祭り」(4/6)

 夏祭りの途中、唯斗はヒメを助けようとしたが、力及ばず共に拐われてしまう。その頃、苗島は二人の失踪に気が付いた――。

   4.



 苗島が気が付いたのは、唯斗とヒメが軽トラックに乗せられて、屋台から離れてすぐのことであった。


「唯斗とヒメちゃんが⁉︎」

「すまん、オレが目を離しちまったせいだ」

「なんでそんなことに……」


 指田は慌てた様子ですぐにスマホを鳴らすが、もちろん唯斗に繋がることはない。


「……真司」

「ああ」

「この子たちをお願い。私は二人を探してくる」

「わかった――いや、その」

「何?」

「もしかしたら、ヤクザがヒメのことを探してるかもしれねえ……」

「なんでそれをもっと早くに言わないの⁉︎」

「ごめん……」


 指田に詰め寄られるが、苗島は謝ることしかできなかった。


「……わかった、それなら尚更任せて。子供たちには上手く誤魔化して、後をよろしくね」

「わかった!」


 苗島が二人の子供の見守りを受け持つと、指田はすぐに走り出し、あるところへ向かった。


 ◇◆


「――う……」


 唯斗が目を覚ましたのは、拐われてからそれほど時間の経っていない二十分ほどであった。


「このガキどうするよ――」

「余計なもんまで引っ付けやがって――」

「仕方ねえだろ、こいつが気付いたのが悪い――」


 視界はボヤけていて、話し声も少しだけ靄がかかったように聞こえる。


「まぁいい、目的のやつが捕まれば十分――」

「そうだ、こいつさえ居ればあとはなんでもいい――」


 手足は縛られており、数秒して意識がハッキリとしてくる。口はテープで塞がれているようだった。


「――」

「なんだ?」

「ガキが先に目覚ましやがった」


 唯斗はすぐに状況を理解した。ここはヤクザの事務所だ。


「オメェのせいで手こずっただろうがよ? お? 兄ちゃん」

「……」

「人混みの多いところを歩き回りやがって、こちとら苦労したんだぜ? なぁ?」


 唯斗を殴ったそのヤクザは、唯斗を見るや否やそう言い――、


「ッ――グ――」


 唯斗の腹を蹴った。


「あぁ? 聞いてんのか⁉︎ ンーンーしか言えねえのか⁉︎ あぁ、テープ貼ってたなぁ。剥がしてやんよ‼︎」


 そして、勢いよく唯斗の口を塞ぐテープを剥がした。


「ッ……ヒメはどこだ!」

「チッ……やっぱこいつ正体知ってんのかよ」

「ヒメに何をする気なんだ」

「そんなの俺たちが知ったこっちゃじゃねえんだよ!」


 男からの暴行は続き、腹を蹴られたことで胃の内容物が喉を逆流して拭き出てくる。


「きったねえ、事務所汚してんじゃねえ!」


 何度も蹴りを入れられる。何度も、執拗に。


「テメェの口で掃除しやがれ、青春気取りのガキがよ‼︎」

「ヒメは……どこだ……」

「あぁ⁉︎」


 それでもヒメの居場所を聞き出そうとする唯斗に、男は呆れたようにテーブルの向こう側へ歩く。


「お前の愛しい愛しいヒメってやつはこいつのことか?」


 男はヒメを雑に引っ張り上げ、唯斗の目の前に見えるようにする。


「ヒメ……」

「依頼主の要望でな。愛しのヒメちゃんには眠ってもらったわ」

「依頼……主……?」


 男はヒメを掴み上げたまま、唯斗に事の顛末話し始めた。


「丁度いい。兄ちゃんももう、この町には戻って来れん。ええこと教えたろ」


 男はヒメを唯斗の前へ雑に放り投げると、ソファに座ってタバコを吸い始める。そして、唯斗の死角になっていた場所からもう一人のヒメを捕まえていた男が現れて、唯斗とヒメの目の前に立つ。


 タバコを吸う男が、唯斗に向かって説明を始めた。


「俺たちは阿日津会っつうヤクザでな。その中でも真鳩のおやっさんとは違い、若頭の亜室(あむろ)さんに付いてるんだわ。そんでその若頭への依頼で飛んできたのが、人魚姫の確保。そして、あわよくば人魚姫の利益の一部を俺たちに差し出すっつうもんだ」

「阿日津……会」


 この町を取り仕切るヤクザであり、この町の発展とも大きく関わりのある組織である。


「テメェも捕まえろっていう命令はなかったんだが、下手に見逃しても後が怠いんで来てもらったわけだ。運が悪かったなぁ? 兄ちゃん」

「……ヒメを、解放しろ」

「あぁ?」


 男が立ち上がり、唯斗に近付く。睨み付ける唯斗に顔を近付け、タバコを額に押し付ける。


「テメェ、もう一度それ言ったら殺すぞ」

「痛ッッ――‼︎」


 タバコをねじ込まれ、捻れたタバコは床へ落ちる。


「だが、ここは真鳩のおやっさんの事務所だ。もうすぐここに、若頭の車が来る。組員全員が別んとこに行ってやがるから、わざわざ若頭直々に来てくれるんだ。泣いて喜べよ、兄ちゃん」


 唯斗はクラクラとする脳を必死に動かし、この状況を打破する方法を必死に探る。この機会を逃せば、二度とヒメには会えないかもしれないのだ。


 しかし、どれだけ頭を動かしてもこの状況を変えられそうにはなかった。


 手足は縛られ、周りには屈強な男が二人。体格差もあり、唯斗に勝ち目はない。仮に縄を解けたとしても、先ほどのようにやられるだけだろう。


「クソ……クソ……!」

「お? 悔しいか?」

「なんで……なんで普通に生きることも、二人で居るだけのことですら許されないんだ……」

「クッヒッヒッヒッ、喚け喚け」


 すると、男が床に倒れるヒメの髪を掴んで唯斗に顔を見せさせて動かす。


「大丈夫? 泣かないで、私はここに居るよぅ」

「お前ら……ッ――」

「だははは! 怒ってんのか? 俺も怒ってんだよ‼︎」


 男はヒメを離し、離したその手で唯斗の顔面に向けて拳を放とうとした――その時。


 ガチャっという扉の開く音と同時に、部屋に一人の女が入ってきたのだ。


「あぁ? お前ここがどこだか知って来たのか?」


 もう一人の男が女の前に立ち止まり、圧をかける。


「ええ、知っています」


 唯斗は聞き慣れた声に、耳を疑った。

 

「どけ」


 唯斗を殴ろうとした男がもう一人の男の肩を掴み、引き下がらせる。


「嬢ちゃん、俺はガキは嫌いだ。だがな、若い女は好きだ。あまり殴るようなことはしたくなくてね、帰ってくれねえか?」


 男の話に、女は首を横に振る。


「嫌です」

「あぁ、そう」


 するとその瞬間、女の腹部を強烈な拳が貫いた。


「じゃあくたばれクソ女ァ!」


 唯斗はなんとか体勢を変えることができ、入ってきた女性を見ることができた。


「ッ……」


 そこに居たのは、紛れもない指田であった。それも、浴衣姿のままである。


「お前もこいつらの仲間か? だったら放っておけねえよなぁ、なぁ⁉︎」

「あーあ、怒らせちゃった」

「俺が女ぁ殴る時はな、本当に心の底から余裕のねえくらい怒りが込み上げてる時なんだわ。あんた、タイミング悪かったな、なぁ⁉︎」


 倒れ込んだ指田の体に、もう一発拳が入る。


「うぷっ――」


 咳き込む指田に、馬乗りで男が話し出す。


「相手を間違えたな――」


 するとその時、後ろの扉がもう一度開く――。


「あ……」


 男の表情が固まった。


「……これは、どういうことだ?」


 一際体の大きいコート姿の男が、扉の前に立っていた。


「これは、違うんです。俺たちを舐めたやつらがカチコミに来まして、ヤクザは怖えんだぞってことを教育してやってたんですわ――」

「そんなことを聞いているんじゃない。これはどういうことだ?」


 巨漢の男はサングラスをかけており、渋い声を発する五〇代ほどの黒髪の男だ。


「いや……どういうって……どういうことすか、真鳩のおやっさん……」

「真鳩……? この人が」


 唯斗も思わず口に出した。あまりにも屈強すぎる体つきだったからだ。今までのヤクザとは度を超える。頂点に立つには相応しい巨漢。


「テメェら、殴ってる相手が誰かわかってやってんだろうな?」


 指田は後ろに立つ真鳩を見るや否や、安心したように微笑んだ。


「誰って……誰すか……?」

「あぁ……ッ――‼︎」


 そして、強烈な一撃が男の顔面を陥没させた。


「俺の娘じゃボケェェッ――‼︎」

「な――」


 唯斗は驚くと同時に、一つの記憶が思い出された。それは、過去に指田がガタイのいい男と出歩いているのを見かけた時であった。顔はよく見えなかったが、あれは今思えば目の前にいるこの男で間違いなかった。


「違うんです真鳩のオヤジ! 俺は兄貴に言われて手伝ってただけで――」

「ほう」


 言い訳をするもう一人の男に近付き、真鳩は顔を数センチまで寄せる。


「お前、兄貴は好きか?」

「は、はい!」

「何やっても付いてく自信があるか?」

「はい!」

「兄貴に恩義を感じているか?」

「はい‼︎ グボォッ――……」


 男の腹から嫌な音が鳴る。


「そりゃいいことだ。付いてくのは褒めるが、見る目がねえな」


 真鳩による一撃で、二人は簡単に気絶してしまった。


「……お父さん」

「その呼び方はやめろ、俺にその呼び名は重い。悪かったな、らな。俺の部下が悪いことをしちまった」

 あとがき

 どうも、どうもどうもです。


 みなさんはヤクザものって好きですか?

 私はどちらでもいいです。基本的に犠牲のない勝利じゃなければ、あとはギャグ系、日常系、可哀想な表情をしてくれるキャラが居れば十分な人なので。


 この作品でこんな話してるのどうなんだって感じではありますが、作者の癖と作品の癖が同じとは限りません。どこかのスパイファミリーも、本当に作者が描きたかったものとは違うという話ですし。本当かは知りませんけどね。


 もちろん、私は人魚姫という作品を好いていますよ。癖ではないですけど、好きな作品として書いています。みなさんにとっても、好きな作品であればと願っております。


 さて、そんな話は置いといて、次回も楽しんでお読みいただければと思います。では、また次回お会いしましょう。

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