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第六話「人魚姫のうた」(1/6)

 人魚姫としての正体を一度忘れて、二人はバイトへと向かう――。

   1.



 数日ぶりにバイトへ復帰した二人は、さっそく店長に後を任されて仕事を引き継ぐ。


 午前の仕事が終わり、休憩を交互に取りつつ午後からの仕事に備える。苗島と指田はヒメが一週間で海に帰ることを聞いておらず、あの時のことは二人だけの秘密となっている。


 午後の仕事も終わり、いつも通り午後三時に松林が来たタイミングで二人は店を離れる。


「今日はどこに行くか」


 ヒメの人魚姫としてのことは一度置いておき、二人は次のことを考えていた。


「そういえば、サシダに歌を聞かせてやれてないな」

「歌?」


 唯斗が聞くと、ヒメは釣り上げた日の夜のことを話した。正確に言えばそれは日付が変わった後の深夜なので、二日目に当たる。


「サシダに歌を聞かせてやると言ってな、それっきりだ」


 ヒメはあの時の会話を思い出したようで、その歌を聞かせる機会がほしいと話した。


「指田さんに歌を聞かせるのか……カラオケならと思ったけど、それってヒメのオリジナルだよな?」

「あぁ」

「うーん、それなら話は変わるよなぁ」


 ということで――特に用事もないので、二人は場所を移して苗島の部屋で首を傾げて考える。


「なぁ……それオレの部屋で考えなきゃダメなの?」

「なんとなく」

「なんとなく」

「それしか言えねえのかよお前らはッ!」


 苗島のツッコミが入るが、二人は至って真剣に悩んでいた。苗島も対処に悩んでいたのだが、親友の悩みなので押し返すこともできずにいた。


「いやぁ、こんな時に暇してるやつなんてお前くらいだろうと思って」

「そんな人を暇人みたいな扱いで……」

「そうだろ?」

「オレだってバイトなりなんなりしてんの!」

「でも今日暇だろ?」

「暇だよッ!」


 ツッコミは止まないが、悩みも止まることはない。


「普通に聞かせるだけじゃダメなのかよ」

「いやさ、ヒメが舞台も拘りたいって言ったんだよ」

「はぁ? そんなの適当に広場とかで歌えばいいだろ」

「嫌らしい」

「なんで……」


 当たり前の提案を、当たり前のように却下される。流石の苗島もこれには腕を組むしかなかった。


「そもそもヒメっち、その歌はどんなものなんだ? なんかこう……あるだろ、歌の内容」


 苗島の質問に、ヒメは答える。


「星のうただ」

「星のうた?」

「あぁ、ある時に夜空を見上げながら歌ったものだ」

「安直な名前だな……」

「アンチョビ?」

「なんで逆にアンチョビがわかるんだよ……」


 苗島は困惑の色を隠せずにいたが、それならと苗島も真剣に考えることにした。


「夜に誘うんじゃダメなのか? 指田(おに)さんなら、夜とか酒飲んだりして暇してるだろ」

「だからその言い方やめろって……それが、そうでもないんだよ」


 唯斗はそう言うと、できない理由を話す。


「実は最近、バイト先の夜勤の人がしばらく出れなくなって、昼なら出れる人が見つかったらしいんだけど……夜勤の人が担当している時間を、店長が指田さんに頼んだらしいんだ」

「つまり?」

「しばらく指田さんは夜に会えない。できても夜勤帰りの朝」


 苗島も状況を理解したことで、やっと悩みについてしっかりと考えることができるようになった。


「確かにそれは困るな……通常の勤務時間に戻るのを待つのは?」

「その人がどれだけ休むかわかってないから、いつそれができるかわからないんだ。ヒメもそれまで待てないって言うし……」

「わがままなやつだな……」


 二人して頭を抱えているが、ヒメにもヒメなりの事情があった。


「悪いが、早めにしてほしいのには理由がある。私自身も、このうたは時々歌うことで記憶している。しかしな、地上に来て一週間? が経過している。それだけの時間、私はそのうたを歌っていないんだ。この時間が長ければ長くなるほど、私も確実に歌える自信がなくなる。だから、その前にサシダに聞かせてやりたいんだ」


 ヒメは真剣で、二人もその真剣さには冗談を言う気にもなれなかった。


「……わかったよ、ちゃんと考えてやるよ。な? 唯斗」

「あぁ、任せろ」


 二人はそう言うと、部屋を出て倉庫に向かいある準備を始めた。倉庫の扉から、ヒメが顔を覗かせて聞いてくる。


「何をしてるんだ?」

「釣りの準備だよ」

「オレたちはこういう時、釣りをするに限るんだよなぁ。大物の魚が釣り上げられた時みたいに、ある時にふと求めていた大物の悩みの解決策が釣れたりするのさ――」


 そう語る苗島と唯斗に、特大のチョップが降りかかる。指田にも似た威力を誇っており、二人は手足をピクつかせながら、倉庫に置いてあった道具たちに顔を埋まらせていた。


「次にそれを言ったら殺す」

「アノ……ヒメサンモ大概命ヲナンダト思ッテルンデスカ――」

「オニ……」


 ◇◆


 二人は仕方なく、ヒメの提案でリサイクルショップに来ていた。


「なんでここなの……」

「俺にもわからない……」


 ヒメにとっては、ここに来れば色々なものに触れられる。そうやって物を知ったり、見ていたりすれば思いつくものもあるだろうという期待と考えがあった。


「この服とかどうだ? ユイト」


 多分、恐らく。


「ニアッテマスヨー」

「むぅ、なんだその反応は。もう少し感想をくれたっていいだろう。なぁ? 苗島」

「うおすっげぇ! この釣り竿オレの持ってるやつと同――」


 店内に耳を塞ぎたくなるような音が響く。店員も思わず確認しに来たが、状況を見るとそそくさと離れていった。


「マタダ……」

「アホ、バカ」

「ヒメもすごいものを覚えたな……」


 ぷんすかと頬を膨らませるヒメは、苗島にチョップした手を元に戻して店内を歩き回る。


「苗島も、もう少し気を付けなよ……」

「だって……オレと同じ釣り竿」


 涙を浮かべながら頭を押さえる苗島に、唯斗は半分呆れた苦笑いを浮かべていると、ヒメの呼ぶ声が聞こえてきた。


 苗島をその場に放置して、唯斗はヒメの呼ぶ方へ足を運ぶ。そして辿り着いたのは、小物コーナーであった。


「これ」


 ヒメが両手で持っていたのは、何やら球体状の何かであった。


「なんだ? これは」

「なんだろう、最初はスノードーム的なものかと思ったけど……真っ黒だし違うよな」


 何やら機械っぽさを感じる球体状の下側には、球体を置くための台座が引っ付いている。そこにはどうやらスイッチがあるようだった。


「どこに置いてあったんだ?」

「ここ」

「……名札がないな……リサイクルショップにしては珍しい」


 仕方がないので、店員を呼んで聞いてみることにした。


「これは、投影機ですね」

「投影機? 何を投影するんですか?」

「星空を投影するんです。よく、プラネタリウムとかありますよね。それをお家で再現できるというものです」


 店員の説明を聞くと、いつの間にか合流していた苗島と顔を合わせて言った。


「これだ!」

「これだ!」


 ヒメはなんの話をしているのかわからないと言った顔だったが、唯斗はすぐにヒメにもわかるように説明をする。


「つまりは、星空を映してくれるんだ。ほら、前に教えたテレビみたいに」

「なるほど」

「これなら指田さんのアパートでもできるし、ヒメの言っていた星のうたにぴったりじゃないか?」

「ぴったりだな」

「よし! これ買います! というか、値札も貼られてなかったんですけど……これっていくらぐらいしますか?」


 唯斗が店員に投影機を渡すと、店員は謝罪しながらすぐに調べてきますと言ってレジの方へ投影機を持ちながら向かっていく。


 しばらく待つと、レジから戻ってきた店員によって衝撃の値段が伝えられる。


「こちら、五千円となっております!」


 雷に打たれたように、唯斗は思わず言ってしまう。


「た……高――」

「唯斗にとっては……高いなこれは」


 苗島も苦笑いをするが、生憎と苗島も小遣いがないようであった。


「買えないのか?」

「うぅん……流石に……いや、買えなくはないんだけど、せめて少しだけ待ってほしい。もうすぐ親戚から生活費の補助でお金が入るから、それが入ってから……」


 幸いにも今日は七月の終わり頃で、もうすぐ八月になる。そうなれば、唯斗にとっても少しだけ余裕ができるのだ。


「もうすぐってどのくらいだ」

「……明後日か明々後日……かな」


 そのくらいなら、とヒメも諦めてくれた。


「あの、店員さん、これって取り置きはできますか?」

「できますよ! いつ頃になりますでしょうか?」


 唯斗は店員に最低でもこの日までは、と買い取り予定日を伝えると、店員さんもかしこまりましたと言って受け取り、商品を取り置いてくれることになった。


「よし、これで大丈夫だな」

「トリオキってなんだ?」

「商品が他の人に買われないように、店側が裏に置いておいてくれるんだよ。これで取り敢えず、その日までは誰かに買われることもない。今は一旦、別のことを考えよう」


 そう言って唯斗は、リサイクルショップを歩き始めた。


「何を探してるんだ? 唯斗」

「投影機の方は問題ないけど、実行する時間は朝だろ。指田さんの部屋、カーテンはあるけど光は漏れてる」


 苗島は納得したように頷くと、唯斗の探しているものにもなんとなく見当がついた。


「つまり、壁に貼り付けられる光の漏れないもの、もしくは立てかけるものがあればいいんだな?」

「そういうことだ」

「よっしゃ、オレも探すぜ〜!」


 今度は二人も乗り気になり、ヒメも唯斗に付いていきながらリサイクルショップを歩き回る。


 指田のアパートにある窓の大きさはそれなりで、小さくもなく大きすぎない。しかし、西日が差し込む位置にあるため、しっかりと防ぐ必要がある。


「何か大きいもの……できれば黒、できれば黒……」

「何かの呪文か? それは」

「ヒメも唱えるか? この呪文」

「ナニカオオキイモノ〜デキレバクロ〜デキレバクロ〜」


 本当に実践してしまうヒメを見て、唯斗も思わず笑ってしまう。


「何かおかしいか? 私がおかしいならユイトもおかしいぞ」

「ちょ、待って――本当に待って――」


 笑いを堪える唯斗に不満を抱いたのか、ヒメは頬を膨らませる。


「なんだか海水浴の時もそうだが、笑われてばかりだ」

「ごめんって、本当に面白いから。悪い気を起こさないで、大丈夫だよ」


 唯斗はそう言っているが、笑いはまだ止みそうになかった。


「ぶー……」

 アトとガキ

 どうも、焼きぐりとだぐらです。


 最近は仕事が始まる前の30分くらいを、投稿準備に使うようになりました。仕事始める前から仕事始めるようなもんです。草なのです。


 アラームが鳴る数十秒前に起きてしまい、気分は憂鬱ですが、みなさんはいつもどんな感じでしょうか。朝の気分が良くなる方法をぜひ、教えてください。


 今回から第六話ということで、遂に物語も後半に移りました。ヒメや唯斗が迎える結末を、最後までぜひ、お読みになってください! では、また次回お会いしましょう!

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