墓地の戦い10
そんなことを考えているとテッドが声をかけてきた。
「明日、行くのか?」
テッドは、そう言うとオレの手にはめている指輪にチラリと目をやった。
「当然!」
オレはそう答えると指輪をした手を握りしめて胸の前に突き出した。
明日は月に一度の蚤の市が開かれる。
行くに決まってる。
蚤の市にはお宝が眠っている。
この頃はこれと言った良いものは手にできていない。
それでも値打ちのありそうな物は必ずあるはずだ。
それにこの盾はもうダメそうだ。
盾を見ると、戦いの前からガタがきていたが、さっきの戦いで盾が内側に大きく歪んで使い物にならなくなってしまった。
これはもうダメだ。新しい盾が欲しいところだが、今のオレにそんな贅沢を言う余裕はない。
武器屋で中古の盾で掘り出し物でも探しに行きたいが、その前に明日の蚤の市で安くて良さそうな盾が見つかるかもしれない。
それに蚤の市は武器屋と違って、値段交渉ができるからな。
さすがに武器屋で安くしてくれとは言い出しにくい。
普段から買い物している常連客ならともかく、いつも冷やかしでろくに買いもしないオレが安くしてと言っても店から追い出されるだけだ。
武器屋には、明日の蚤の市で掘り出し物の盾がなかったら行くことにしよう。
明日は、この指輪でお宝を見つけてやるぜ。
あまりに蚤の市が楽しみで家に帰っても眠れなくなりそうだ。
緩やかな坂が終わると、王都へと続く道の先に街の明かりが見えてきた。
城壁に囲まれて、その上に街の光が天に伸びて夜空を照らし出していた。
しばらく道なりに歩くとその光がより強くなり、暗かった足元を照らしてきた。
すると王都の南に面する門が見えてきた。
通常、門は行き交う人や荷車を引く馬車のために開かれているが、夜には通る人も少なくなるので閉まっている。
オレたちは門のそばにある通用口に向かった。
ここは人が二人横に並んで入れるぐらいの幅しかない。
だから馬車などは通ることはできない。
もし夜にそれを知らずに馬車が来たとしても、大きな門は開いてくれはしない。
大きな門は、頑丈に出来ていて重いので十人以上の兵士がいないと開けることはできないそうだ。
だから夜に馬車が来ても、門を開ける朝まで待つように言われるだけだ。
余程、位の高い騎士か、貴族でもない限り、わざわざ門を開けるためだけに眠っている兵士を叩き起こしたりは出来ない。
オレは通用口に近づくと見知った顔を見つけた。
「よう、夜勤か」
オレは通用口のそばで警備に当たっている兵士に声をかけた。
「こんな夜更けに、魔物退治とはご苦労だな」
この兵士は、昔馴染みのフルトンといって、うちの近所に住んでいて、オレよりも三つ上だったので小さい頃からよく遊んでくれていた。
もちろんオレが冒険者をやっていることも知っているし、それにこんな夜更けに武装してうろついていたら何をしていたかぐらい察しがつくのも当然だろう。
「それで魔物は倒せたのか」
「楽勝に決まってるだろ。墓場のスケルトンを全滅させてやったぜ」
オレは胸を張り余裕を見せた。
「楽勝ってわりには盾がひん曲がってるな」
フルトンは少し皮肉混じりに壊れた盾を覗き込んできた。
「これは元々壊れかけていただけだ」
オレは壊れた盾を体の後ろに見えないように隠した。
「まあ怪我がなくて何よりだ。ハンナさんが心配してるから早く帰れよ」
フルトンはそう言うと通用口の扉を開けて中へ入れてくれた。
フルトンの言っていたハンナとはオレの母さんのことだ。
今日も母には何も言わずにクエストに挑んだ。
母は冒険者そのものになることには反対はしなかったが、王都の遠くへ行ったり、夜に外をうろつくことを嫌っているから、今日も何も言わずに家を出てきた。
オレがいないし、部屋に置いてある装備も無くなっているから、クエストに行ったことはすぐにバレる。
帰ったら、また小言を食らうだろう。それぐらいはいつものことで覚悟している。
悪いのはオレだ。母に心配ばかりかけている。
でも、やりたい。冒険者を。そしてなりたい、英雄に。
どうしても体の奥が疼いてじっとしていられなくなる。
別に戦うことが好きと言うわけじゃない。
でも、その先に自分を待っている何かがあるなら、戦う覚悟はできている。
一度しかない人生やりたいことをやってみたい。
年老いてあの時あれをやっておけばよかったのに、なんて後悔だけはしたくない。
それがたとえ母を悲しませることになってしまってもだ。
俺はこの道を行く。父と同じ道を。




