SIDE: ルカ・ハニエル
あれから諜報の家の出身であるジョー・マーカスの協力もあって、馬車襲撃事件の黒幕を暴くことに成功した。
伯爵家の跡継ぎに名乗りを上げていた叔父が、なかなか首を縦に振らない親父にしびれを切らせて、嫡男を亡き者にしようと企んだのだという。
終わってみればあっけない幕開けだ。
よくよく考えれば単なる令嬢が賊を雇うほど僕に執着するはずもない。
完全に僕の勘違いだ。
念のために調べた彼女の馬車についていた家紋からは彼女が子爵家であることと、そこの領地が結構やり手でうちの伯爵家にとっても益がある特産品を安定的に供給しているということしか情報がなかった。
襲撃事件の時保護してもらった件で、ジェーン子爵家との関わりが薄くつながり、時折特産品の交換などを行い、親同士はわずかながら交流ができた。
だが僕はメアリとはあれから会っていない。彼女がいつもこちらからの面会の打診に首を縦にふらないからだ。
襲撃事件を最後にメアリはまったく近づいてこなくなった。そのことにほっとしているはずなのに、なぜかつい目で追ってしまう自分がいる。
誤解をして、きつい言い方をして、無意味に傷つけてしまったことに罪悪感を感じているからだろうか。
最後に見た彼女の表情はきつく口元を結び、溢れそうな哀しみを静かに堪えた顔だった。
そんな彼女は、幼馴染のレオ・ギルベルトと話しているときには無防備に本心をさらけ出したような笑みを浮かべる。
ざわりと心の奥が騒ぎ、どす黒い気持ちの反流が波のように寄せては引き返す。