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異世界転生は夢の中で  作者: 実乃里
第四章 過去との決着
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決戦

 慌ただしい建物を出て、駐屯地の広場へ歩く。

 私の装備品はラデルたちが持ってきてくれていた。奴隷服から鎧に着替え、武器や道具類を身に着け、準備万端にラバマへと急行する。

 くるときと同じく、黒騎士たちの馬を使わせてもらった。速度は普通の馬より少し早い程度だけれど、空なら直線距離だ。

 馬車を外した身軽な状態ということもあり、三十分ほどでラバマの街並みが見えてきた。

 各所からは火の手が上がり、辺りには逃げ惑う大勢の人々。至るところで黒騎士と衛兵との戦闘が繰り広げられており、優雅だったラバマの街は、今や血みどろの戦場と化していた。

 ラデルたちは既に到着しているはず。三人の姿を探して上空を旋回したとき、不意に風を切る音が響き、次の瞬間、乗っている馬の胴体を大矢が貫いた。

 必死に体制を立てなおそうとするも、馬は完全に機能を停止したようで、どんどん地面が近づいてくる。

 私は咄嗟に、馬の背から近くの木に飛び移った。

 体を枝に擦らせて落下速度を和らげ、地面につくと同時に転がり衝撃を逃がす。

 なんとか無事に着地できたようで、痛みは感じるも、体はなんともない。

 ヨロヨロと立ち上がり、ひとまず建物の陰に身を顰め、状況を整理する。

 どうやらサキに発見されたようだ。黒騎士たちが自分たちの馬を、己の判断で撃墜するとは思えない。先ほどの攻撃は彼女が直接命令を出したのだろう。

 太陽は登り切っておらず、辺りは暗い。上空の私を確認したということは、彼女はそれほど遠くない位置にいるはずだ。

 有力なのは都政府の建物だ。中心にあり、周りの建物より頭一つ高い。頂上からなら街全体を一望でき、なにかと都合がよいはずだ。

 物陰から出たとき、隣りの区から爆発音が響いてきた。

 爆弾を武器にしているのは私のパーティーくらいなものだ。ラデルたちが使用した爆破筒のものである可能性が高い。

 そちらに急行すると案の定、ラデルたち三人、そして数人の衛兵が黒騎士と戦闘を繰り広げていた。情勢は不利のようで、彼らの面持ちは冴えない。

 私は不意打ちで黒騎士の一体に飛びかかり、頭部のスリットに爆破筒をねじ込み、素早く離れる。

 轟音と共に筒が起爆し、黒騎士が地面に膝をつくも、すぐに立ち上がり、なにごともなかったように動き始める。


「クロエ!」「クロエ!」「クロエさん!」


 三人が同時に叫ぶ。


「助っ人にきたわ。状況はどんな感じ?」


 三人と合流し、陣形に加わる。


「見てのとおりだ。後退一手で、反撃の糸口すら掴めちゃいない。つまり最悪ってわけさ」

「あんたの言ったとおりだわ。武器はおろか、魔法もまったく利かないときた。反則よ」

「こいつらヤベエです。一緒に戦ってた衛兵さんたちも半数がやられちゃいました。このままだと私たちも危ないです!」


 思ったとおり、通常の武器や魔法では太刀打ちできないようだ。


「こいつらの主人を潰すしかないわ」

「サキがここにきているのか?」

「ええ、恐らく都政の建物に陣取っていると思う。私はこれからそこに行くけど、もし余裕があるなら三人に囮を頼んでもいいかしら?」

「なにをすればいい?」

「黒騎士たちを引きつけてほしいの。少しでもサキの周囲が手薄になれば、それだけやりやすいわ」

「任せとけ。俺たちが活路を開いてやる」


 ラデルの言葉に、アトラとノルルも頷く。

 脇で悲鳴が上がり、見ると一緒に戦っていた衛兵たちが全滅したところだった。


「すぐに動きましょ!」


 私たち四人はこの場を放棄し、都政府へと走った。

 途中、大勢の黒騎士たちと遭遇するも、煙幕筒やアトラの魔法による足止めにより、なんとか戦闘を避け、都政府の建物へと到達する。

 建物の周囲はグルリと黒騎士たちが取り囲んでおり、サキがここにいるのは間違いないと思われた。


「クロエは隠れていろ。俺たちが引きつける」


 言われたとおり私が物陰に隠れると、ラデルたちは黒騎士たちの前に出て行く。


「よお、人形たち。そんなとこに立ってるのも退屈だろ。なんなら俺たちと遊ばないか!」

「そうですそうです。楽しませてあげますよぉ。全員でパァとやりましょう!」


 ラデルとノルルの挑発に反応し、並んでいた黒騎士たちが動き始める。


「まずは先手必勝ね」


 そしてアトラが黒騎士たちの真ん中に魔法を放つ。

 ダメージこそないものの、やつらの敵意を引くには成功したようだ。

 三人はそのまま適度な戦闘を行いつつ、上手い具合に黒騎士たちを建物から引き離す。

 私は素早く建物に侵入し、警戒しながら各階を上って行く。

 大方の予想どおり、サキは屋上にいた。こちらに背中を向けた状態で、屋上から街を見下ろしている。周囲に黒騎士の姿もなく、今が絶好のチャンス。

 けれどなにかおかしい。あの臆病なサキが自身の警備を手薄にするだろうか。要塞にいるときですら、傍らに必ず一体は黒騎士を置いていたのに。

 色々と疑問はあるも、こうしている間にも街は破壊されている。今は迷っている時間すら惜しい。

 意を決し、ソッとサキに近づいた瞬間だった。

 私の背後で重いものが落ちる音がし、慌てて振り向くと、どこから現れたのか、そこには三体の黒騎士が立っていた。


「見事にネズミが網にかかったわね。待っていたわよ、黒江咲。絶対にくると思ってたわ」


 サキは身を返し、不敵な笑みでこちらを見ている。


「あなたの手の内はお見通し。私たち似た者同士だもの」


 罠だったようだ。黒騎士たちは私が入ってきた塔屋の上に待機していたのだろう。完全に死角だ。


「『似た者同士』なんかじゃないわ。私とあなたは『その者』なのよ」

「はぁ? なに言ってるの。……まあいいわ。ともかく、あんたには罰を受けてもらわなきゃね。あれだけのことをしてくれたんだから」


 サキの声と同時に、黒騎士が武器を構える。

 こうなってしまっては仕方がない。私は小さく舌打ちしつつ剣を抜く。

 相も変わらず、黒騎士たちは可愛げがない。従来どおり剣は通らず、改良型の爆破フィストも効果なし。容赦なく巨大なメイスを振り回し、私の剣を根元からヘシ折る始末だ。

 一体でも持て余すというのに、それが三体ときた。これで勝つのはまず不可能だろう。

 当然結果は惨敗で、全ての武器を失い、ボロボロになった私は、サキの前に跪づかせられる。


「いい気味だわ、あんたにはお似合いの姿よ。あらっ、少し涙目になってるわね? いいのよ泣いても。前みたいに大泣きして許しを請うなら、恩情を考えないでもないわよ」


 サキは腰に手を当て、嘲笑を上げている。

 ……全てこちらの読みどおり。私は心の中でほくそ笑みつつ、作戦をプランBに変更する。


「お願い、殺さないで……」


 私はひれ伏し、存命を懇願する。


「そうそう、その調子。みっともなく命乞いなさい。なかなか土下座姿が様になってるわよ」


 サキは笑いながら恍惚とした表情を浮かべる。

 ……わかりやすい性格だ。持ち上げ、下手に出れば、どんどん調子に乗り始める。サキは私そのものなのだ。心理を理解するのは容易い。

 そのあとは演技の時間だった。弱々しい声色で許しを請う言葉を並べ、服従の意を示す。自尊心が満たされているようで、サキは気分よさげに高笑いを上げている。

 怒りを通り越し、哀れみすら感じる浅ましさだ。これが昔の自分かと思うと、情けなくて仕方がない。

 ――終わりにしよう。私は右手薬指に嵌めている指輪を意識する。

 魔移の指輪。自分にかかっている魔法的なものを、他者に移すマジックアイテム。これを使用すれば現状を打開できる。

 問題は使用のタイミングだったのだけれど、それはサキの方からチャンスをくれた。


「足を置くのにちょうどいいわね」


 彼女は屋上の縁に腰かけ、私の頭を踏みつけてきたのだ。この状況は利用できる。


「舐めさせてください」


 そう言って私は頭上の足に触れる。


「いいわね、その屈服っぷり。まあ私も悪魔じゃないし、特別に許可してあげるわ。さあ、足をお舐め!」


 私はコクリと頷き、彼女が履いているハイヒールを脱がせ、素足にゆっくり口を近づける。


「早く服従を示しなさい。それともこの場で首を撥ねられたいわけ」


 彼女の脅しを聞き流し、私は早瀬との作戦を思い返す。

 やることは単純で、魔移の指輪をサキに対して使用するのだ。元々なんの関係もない他者に、私の境遇を押しつけることには躊躇いがあった。しかし彼女になら罪悪感なく行使でき、まさに打ってつけの相手だ。

 しかしここで一つ疑問が生まれる。もし私にかかっている魔法がサキに移った場合、どうなるのだろうか? 私とは逆に、サキが夢の中で現実世界にやってくるのか? それともまったく想定外の状況に陥るのか? どちらにせよ、これではラバマの現状を救うことはできない。そこで少しだけ方法を変えることにした。

 私は自分の指から指輪を外し、それをサキの足指に嵌める。

 急なことにサキが呆気に取られた隙に、素早く身を起こし、彼女の唇に自分の唇を重ねた。


「なっ、なにすんのよ!」


 突然のことに彼女は狼狽を見せ、


「まっ、まさか!」


 そしてすぐ、なにをされたのか理解したようだった。その表情に驚愕と恐怖を滲ませてゆく。


「あんたたち、すぐにこの女を殺しなさい!」


 サキが声を上げるも、黒騎士たちはピクリとも動かない。


「あなたたち、その場で一回転してみなさい」


 試しに私が命令を出してみると、黒騎士たちは鎧を鳴らしながら体を一回転させた。


「嘘よ。なんでなの! なんでトルーパーがあんたの命令を聞くのよ!」

「指輪のおかげよ。あなたの中にあった魔法を私に移したのよ」


 サキは自分で語っていた。「この場所にあった偉大な魔力は、私を使い手に選んだ」と。つまり彼女が要塞の管理者、黒騎士たちの主となっているのは、一種の魔法的な効果のおかげなのだ。その魔法を除去すれば、彼女は主の資格を失うことになる。そこで出てくるのが魔移の指輪だ。本来は自分にかかっている魔法を相手に移すアイテムだけど、逆に使用すれば相手の魔法を奪うことができる、というのが早瀬のアイデアだった。

 結果は見てのとおり。一か八かの賭けはこちらの勝ちだ。


「さあ、あなたたち、これから新しいご主人さまが命令を出すから、気合い入れてかかりなさいよ」


 私は黒騎士たちの周りを歩きながら、それぞれの肩をポンポン叩く。


「あの女を懲らしめなさい」


 私が指さすと、サキは悲鳴を上げて逃げ出し、黒騎士たちがそのあとを追う。

 黒騎士の操作は実に簡単だった。まるで手足を動かすかのように、全ての黒騎士を操ることができた。個体との視覚共有まで可能で、まさに究極のドローン兵器だ。

 すぐに街への攻撃を停止させ、全ての黒騎士を逃げるサキへと差し向ける。

 逃げ足は速かったものの、数の暴力により、サキはすぐに捕獲された。

 一応、命は奪わないよう全個体に指令は出したものの、それでも黒騎士たちの懲らしめは強烈で、サキは泣きながら命乞いを始めた。

 最悪の気分だった。イヤでも昔の自分を思い出し、怒涛のように後悔が押し寄せてくる。

 さすがに見るに堪えなくなり、折檻を中止し、サキを屋上に引っ張ってこさせると共に、全ての黒騎士を建物前に集結させる。

 サキは酷いありさまになっていた。化粧でキレイにしていた顔は涙と鼻水でグシャグシャになり、威圧的だったボンテージ風の鎧も、今やみすぼらしいボロと化している。


「いったいどうなったんだ。急に黒騎士たちが大人しくなったぞ」


 そうこうしているうち、ラデルたちも屋上にやってきた。私は三人に状況説明をする。


「なら、トドメを刺すのはクロエに任せよう」


 ラデルは怯えるサキに鋭い視線を向ける。


「自業自得ね。これだけのことをやらかしたんだから当然よ」

「ノルティスの教えにも、『許せぬ悪には剣を持って接せ』とあります。……終わらせてください、クロエさん」


 アトラとノルルも賛成のようだった。私は一歩前に出る。


「さあトルーパーたち、最後の仕上げよ……」


 声に出さずとも、既に私の意思は伝わっているようで、黒騎士たちは各々の武器を構える。

 サキは恐怖で腰が砕けているのか、ヘタリ込んだまま逃げる気配もない。ただ大粒の涙を流しながら、自身の延命を懇願し続けている。

 そんな彼女を厳しく睨みつけながら、私は黒騎士たちに指示を出す。


「全員自害しなさい!」


 剣を持った個体は自らのお腹を突き刺し、メイスを持った個体は互いに打ちつけ合い、槍を持った個体は隣り合った個体を滅多刺しにする。

 命令は五分ほどで遂行され、屋上および、建物前に集結していた全ての黒騎士が大破し、動かなくなった。

 自分が殺されなかったことが意外だったのか、サキは惚けたように放心している。


「ねえ、サキ……」


 私は神妙な面持ちで彼女の前に立つ。


「なっ、なに……」


 彼女は身を震わせつつ、恐る恐る口を開く。


「この大バカぁ!」


 私は平手で、力いっぱい彼女の頬をはった。

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