第65話:トップランカー再び!(その3)
###
8月5日午前11時、あるエリアにてエクスシアに類似した装備をした人物の目撃例があった。
「あなたは、まさか――?」
ネオARガジェットではバックパックに連装砲、更にはバスターランチャーという装備に換装した大淀はるか、彼女が発見したのはエクスシアではなく――。
その人物の正体、それはエクスシアのコピーとも言える劣化ガジェットを装備したアイドル投資家勢力だった。
「上級ランカーが釣れるとは、こちらとしては都合がいい。ここで上級ランカーに関して炎上させる話題を拡散すれば、超有名アイドルが全世界で無敵のコンテンツとなる――」
ある言葉を聞いた大淀は警告なしでバスターランチャーを構え、即座にエクスシアコピーを行動不能にした。
それから数分後、この人物が逮捕された事で超有名アイドルと裏取引をした芸能事務所、関係会社が改めて公表される。
今度こそ超有名アイドルは炎上コンテンツとなり、黒歴史として消滅すると考えられたのだが……。
同日午前11時10分、アカシックレコードの記述に違和感を抱いた人物がいた。それは、意外な事に明石春。
「やはり、アキバガーディアンも掴んでいない裏の事実を、向こう側の人間は知っている」
明石が考えたのは、アカシックレコードを編集する人間達がアキバガーディアンや別勢力も掴んでいない情報を持っているという事だ。
アカシックレコードの編集権限を持っている人物は無数に存在し、それこそ誰が何を編集しているのか識別する事は不可能だろう。
それに加え、アカシックレコードの正体はネット上でも曖昧な記述で片づけられ、それでネット住民や一般市民も認識してしまっている。
曖昧な記述にした張本人は、この世界にはいないだろう。その正体は、もしかすると別の世界線に存在するアカシックレコードに触れた人物かもしれない。
別の作品だと多次元世界という単語で用いられて表現される――この世界。
アカシックレコードの記述では、ARゲームが様々な世界で色々な形で表現されているというのだ。
「このサイトを設立した人物、アキバガーディアンでも調べられなかった理由、サーバーの正体――どれも全貌を掴ませないトリックなのかも」
アキバガーディアンのような情報力を持ってしても、アカシックレコードの正体は掴めずじまい。それ程に、巧妙な仕掛けをしているのだろう。
世界有数のハッカーがブービートラップを起動させた事、それが全ての始まりだったのか……。それは今となっては過ぎた話題でもある。
同日午前11時20分、何時もとは違うゲームセンターへ向かおうとしていた山口飛龍は、途中でARゲームの大型ショップ前を自転車で通過する。
「ARゲームの大型ショップか――」
山口が入口付近を見ると、本日も混雑をしているという証拠に、入場制限がかかる程の行列が出来ていた。
「転売屋がARゲームのグッズを手に入れたとしても、オークションサイトに出したと同時に足が付くと言うのに――懲りない連中だ」
サバゲ―でもプレイするようなARギアを装着し、山口の隣に姿を見せたのはDJイナズマである。
「最近になって、大手アミューズメントが転売チケット対策をしたという話ですが」
「今は効果があっても、いずれは対策されるのは目に見えている。完全根絶を宣言するのであれば、法律として実行するしかない」
「法律? ソレは本気で言っているのか? ガイドライン等では駄目なのか?」
「これは本気だ。悪目立ちをするような存在を完全駆逐する為には、法律を持ってして対抗するしかない。そうでなければ――」
イナズマの方は本気で実行しようとしている訳ではなく、半分は冗談で言っているようだが……最近の事件を考えると逆に本気と捉えられてしまうだろう。
「法律以外で対抗手段はあるのか?」
この山口の問いに対し、イナズマは可能な範囲で言及する。対話に関しては、向こうが受け入れなければ不可能と考えているらしく、それに変わる対抗手段は予想外の物だった。
「これを使う。ARゲームのプレイで、人々を感動させる」
イナズマがARガジェットを山口に見せるのだが、本当に大丈夫なのか……と山口は不安顔だ。
「興味のない人間も無理やり巻き込めば、それは悪目立ちをする人間と変わりないだろう。どうやって、感動させる気だ?」
山口の言う事も一理ある。無理にARゲームへ巻き込もうとすれば、逆に超有名アイドル勢やネット炎上勢がネタにするのは間違いない。それを踏まえ、イナズマは何か考えがあるらしい。
「アカシックレコードを使う」
この言葉の意味、山口は半分理解しようと考えたのだが、イナズマの言うアカシックレコードは山口の知るアカシックレコードとは別物――。